第三章 解き放ち神具
第17話 プロローグ 3 叡智の書庫
そこまで話すとわざと黙って目を閉じて見せた。
「お、おい! まさかそこで死んで今に至るじゃないよな!?」
「ちょっと! それじゃ今まで聞いてたのムダじゃないのよ!」
「あたしは何も言ってないわよ、そんなこと。ただ目を閉じただけじゃない」
「なっ! そんなことするわけ!? 騙したっての!?」
「騙してないじゃない、死んだなんて言ってないんだもの。でも、もしかしたら……ううん、確実に死んだわね。
一瞬だと思うけど死んだと思うわ」
「どういうことだ?」
「こうして死んだ後だから分かるけど、死んだ瞬間は理解出来ないものなのよ。
さっきまで見ていた光景が一瞬で途切れ、眠って起きたような感覚で目を開けると言葉では表現出来ない煌びやかな場所に居るのよ。
そしてそれを受け入れると元の光景に変わっていくの。
あとは聞いた話だけど、暖かい導く光が現れると冥界に囚われることはないらしいわ。
多分だけど、そこで受け入れられないと暗闇の光景が広がって、さ迷うことなって冥界への道しかなくなるんでしょうね。
だからその時も光景が一瞬で途切れ目を開けようとしたのは覚えてるのよ」
「すると、その前に助かることが出来たってことか。察するにライズの
あたしは片目を瞑り指を立てた。
「ご明察。
ま、あの状況で助かるにはそれしかなかったみたいだけど、助かったと言ってもその場しのぎでしかなかったらしいわ」
「ライズがどれ程の能力があるのかは分からないが、少女が
「そうなのよね。結局は助かったんだけど、数人がかりで神秘術をしてようやくって感じだったらしいわ」
「そうなると、泥人形はどうにかやり過ごして地上か塔に行けたわけだ」
「らしいわよ。
あたしは虫の息だったから泥人形もライズとレディに向かって行ったらしくてね、それで本体を見つけて文字を削れたらしいわ」
この辺りはあたしの意識がなく、後からレディに聞いたことを話した。
「泥人形なんて滅多なことじゃ会うことがないからな、その話は参考にさせてもらうよ。
それでやり過ごした後はどうしたんだ?」
「そうね。あたしを担いで地下を抜けると地上に出たらしく、そこですぐに塔の住人らが駆け寄ってきて神秘術を施したのよ。
それからあたしは丸一日眠ったままだったんだけど、塔の住人ってのがどうやら家族だったみたいでね。って言っても本当の家族じゃなく、親の顔も知らないいわゆる孤児だったのよ」
「孤児が皆、神秘術を使うのか?」
「そ、ここからが面白いところでね、全員が神秘術も魔術も使えるってことなのよ」
「ライズと一緒か。となると、ライズは塔の孤児だったと?」
あたしは口元を緩ませ笑顔を作った。
「話が早いって助かるわね。
そうだったのよ、ライズの故郷、ライズの家がまさしく塔だったのよ」
「そうなると世界を見渡す者とはライズの親代わりの者とかになるのか?」
「親代わりといえばそうなんだけど、何て言ったら良いのかしらね。それは話していく上で明らかにしていこうかしら、若干ややこしいからね」
「そうか。ではその前に、絶海の孤塔の場所を詳しく教えてくれないか?」
その問いには眉間にしわを寄せ少し考えた。
「それは……難しいわね」
「場所を教えるくらい良いじゃないのよ! なんでダメなのよっ!!」
ルキではなくアスナが反論してきたのには驚いたが、色々と知ってしまった今では簡単に教えることは出来ないと判断した。
絶海の孤塔と呼ばれるあの場所には暮らしている人がいる。それを教えてしまうのは、その者達を危険に晒すことになるかも知れない。
「貴方達に教えるのは別に構わないのよ。
ただね、その場所が広まり確実になることを恐れているだけ。
あそこには暮らしている人だっているし、理由があって結界を張っているんだもの。
それにね、教えないには訳があるのよ」
「訳とは? いや、話を聞けば分かるんだったな。
確かに水中からしか行けないのかも知れないが、世界の全てを知る者がいるとなればあらゆる手段を講じえないだろうな、国としては」
「そういうこと。あくまでも噂で
人は自分の目で確かめない限り半信半疑でいるものだからね」
真面目な口調で話すとルキもしっかりと受け止めてくれるので、あたしとしては話やすかった。
「確かにな。
オレ達としても探すことはあるかも知れないが、この話を流すことはしないと約束しよう」
「助かるわ。信用出来る相手だと思ってたから冒険譚も語ってるんだけどね」
「私達を信用してるっての?」
何かにつけて口を挟むアスナだが、突っかかってくる理由は始めに話した一つだとは分かっている。
「貴方
「ふぅん、そう。ならそう思っておくわ。
これ以上子供染みたケンカはみっともないからね」
どっちがだ。
聞き捨てならない言葉だったが、ここは大人の対応として無視することに決めた。
「それにね、誰かを助けたくて探し物をしてるのであればいずれこの話も役に立つ時がくるでしょ。
察しが良いんだから今までの話と詳しい地図を比べたら推測は出来ると思うの」
「だろうな。
まあ、場所の予測が出来たとしても今のオレ達では塔へ辿り着ける手段がないのだがな」
「だったら、手段があるとしたら行くというの?」
「いや、今のところは。
魔力を断ち切れる物を探してはいるが、それが最良の手段なのかは定かではないからな」
「だから手っ取り早く叡智の書庫と呼ばれる
「なるほどな、だから叡智の書庫と言うわけか」
ようやくこの場所の本来の姿を知ったようで、ルキは部屋を見回し何度も頷いた。
「はぁ!? それじゃあ私達が来たのは無駄足だったってことじゃない!
だったら何であんたも長々と話をしてるのよ」
「あんた達が勝手にあたしを呼び出したんでしょうが! ったく。
あたしは此処の管理者でもなければ案内人でもないの。でも、あたしが知り得る限りのことなら力を貸すってので話してあげてるのにさ。
そしたら、どうする? 先を聞くの? 聞かないの?」
あたしは半ば呆れながら二人を交互に見てやると、ルキがアスナを一瞥し頭を下げた。
「すまなかった。
アテナの言う通り魔法書を読めるならばそうしたいところだが、オレ達にはアテナの話を聞いてそれを探すしか手はないように思う。
続きをお願いしていいか?」
「そう、それならいいわ、話してあげる。
それで、どこまで話したかしら?
……あー、あたしが意識のなかった時の話よね。
レディとミーニャはあたしの看病ということでずっと付きっきりだったらしく、あたしが目覚めるまでライズの親代わりという人物には会っていなかったのよ。ライズもそれを伝えてくれて目覚めたら一緒に来たらいいと教えてくれたの。
それからあたしが目を覚まして動けるようになってから、ライズと共に塔の主の元へ行ったのよ……」
そうしてあたしはゆっくりとした口調で続きを語り始めた。
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