第7話 episode 06 魔人王
謁見の間を探すべく入口まで戻り、そこから考察しつつ階段を上ったり廊下を進んだりとおおよその感覚で探し当てた豪華な両開きの扉。
「この奥がそうだと思うわ。開けるわよ、ミーニャ」
「は、はい」
手をかけた扉の向こうにはカルディアと海賊だけだと思いたいが、そうはさせない空気がひしひしと伝わってくる。
一瞬で中の状況を把握できるようにゆっくり過ぎず、思い切りでもない力加減で二つの扉を開け放った。
「――えっ!?」
口から出た言葉はそれだけだった。
外の光が射し込まない薄明かりの部屋の中程で、女性の首筋から覗き込む二つの紅い瞳。ただならぬ雰囲気を醸し出す部屋に一歩踏み出すと全身が氷つく感じすら思わせる。
「まさか、カルディア!?」
あたしの一声に男は顔を上げ、同時に女性は膝から崩れ落ちた。
「何用か?」
「あんたは一体……」
「この渇き、ようやく目覚めたというのに来客が多いな。我が
「なるわけないでしょ!
それよりもカルディアをそんな風にして、一体どこから出て来たのよ!」
黒く染められた全身に紅い
「ここは我が城。永い眠りより目覚めた我を愚弄するつもりか?」
「あんたまさかっ!?
「久しいな、その名は。我はドラキュリア、人ならざる者よ」
「魔人っ!? 人間の王だったんじゃないの!?」
あたしの驚きに高らかな笑い声を上げると笑みを浮かべた。
「小娘風情が威勢の良いことよな。
その通り、我は人間の王から高みに辿り着いた者よ。そして、永き眠りから目覚めし世界を人間の手から浄化する存在。
人間なぞ中途半端な存在、故に家畜としてこそ意義がある。
小娘よ。
汝も我の血肉となるか下僕となるか選ぶがよい」
「そんな選択肢はあたしにはないわ! かと言って……あんた達はどうするつもり?」
部屋の両脇に並ぶ海賊達と協力したらこの場をしのぐことは出来るかも知れないと問いかけるが、彼等はあたし達を見ているだけで口を開こうともしない。
「こやつらは既に我の軍門に下っておる。生と死を天秤にかけたとあらば当然のこと。
従わぬとならば――」
「は? こいつに服従したっての!? カルディアが屈したから?
海賊ってやつは、ホンット気に入らない!! ――分かったわ! この場は見逃してあげる!!
ただし、今度会ったら今まで以上の眠りにつくことになるからね!!!」
指を突き刺し捨て台詞を吐くと同時にミーニャの手を取り
「お、お嬢様っ!?」
「逃げるのよミーニャ! とにかく全力で逃げるのよ!!
あんなの到底
存在するだけで、あの冷たく暗い空気にすることが出来る魔人。今まで出会ってきた魔者とは明らかに違い、剣を振るうまでもなく勝てない相手だと、危険な相手だと心が叫んでいた。
悔しい気持ちもさることながら、ミーニャの安全とレディの安否を最優先に考えることで心を落ち着かせるしか今は出来なかった。
廊下を走り急ぎ階段を降りたところで、曲がり角の向こうから複数の足音が聞こえたような気がして立ち止まる。
「ミーニャ、魔者かも」
「あの、お嬢様?」
「何よ、静かにして」
「えっと、あの、
「は?」
ミーニャに言われ慌てて外すと輝きは失せ、魔力が備わっていたと思えないくらいなんの変哲もない冠になっていた。
「これっていつから?」
「謁見の間に入る時には弱々しくなってまして、話している間に消えてましたよ」
「言いなさいよ! ――っ!! てことは……」
剣を鞘から引き抜くと左腕を伸ばしミーニャを庇う仕草をした。もし足音が魔者であれば最早己で道を切り開かねばならない。
段々と近づく足音がやがてはっきりと聞こえると、それは靴を履いているのが分かった。
「まさか、先回りされた!?」
剣を握る手に自然と力が
ゆっくりと後ろに下がり角から距離を取り姿勢を構えると、足音の主が姿を見せた。
「レディ!!」
「おっと! アテナ、無事だったかい?」
「見ての通りだけど、それどころじゃないのよ!!
この城から逃げるのよ、今すぐ! 話は後!」
「良からぬことがあったんだね。分かった、行こうかアテナ」
「おいおい、
オレ達だけでも探しに行くぞ?」
レディの後ろには十数人居た海賊が四名ほどに減り、その一人が荒々しく声を上げた。
「カルディアは魔人に
「そうか、追手が来るか。
海賊ども! カルディアの戦友であるあたいの頼みだ、とにかく城から出るぞ!!」
鬼気迫る声で海賊に振り返ると、状況を察してくれたのか勢いはなくなりくぐもった返事だけを返してくれた。
「入口まで駆け抜ける! 海賊どもはアテナ達の後ろについて来な。
あたいが先陣を切る!!」
「だったら道案内は任せて。城内はある程度把握したつもりよ」
「任せたよ、アテナ。
行くぞ!! 野郎ども!」
走り出したレディに後ろから道順を教える。
二階部分に居ることは把握していたので入口まではさほど遠くはないのは分かっているが、やはり魔者との戦闘は避けられなかった。
しかし、駆け抜けると宣言した通りレディは道だけを切り開き、無駄に止まらないようにしてくれると直ぐ様城を抜けることが出来た。
「出られたけどどうする? って、迷ってる暇ないじゃない!」
城への道を登ってくる魔者達の姿が簡単に見てとれると、他の道を探すべく辺りを見回す。
「城の裏から逃げられないかしら」
「どうだろうな。……狭いが行けるかも知れない、行こうアテナ。
気をつけてついて来な」
レディは同意すると人が一人通れるだけの幅を壁に背を付け横歩きになると、あたし達もそれに伴ってついていく。
掴んだミーニャの手は落ちるかも知れない恐怖に震えているが、大丈夫と何度も声をかけながらゆっくりと進んで行った。
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