第112話 正義
「ボス、一体何したんですか⁉」
拠点に帰るなりソルト達が駆け寄ってきた。
「何の話?」
「先程署長から連絡がありまして、その…………我々を再びギルドとして認めるとともに、誰かを助けるために力を使うことを咎めないと一方的に言って、何か返すよりも先に切られました」
「そう」
正義の証明、出来て無いはずなんだけどな。
署長をボコボコにして立ち去っただけ、認められるような行いはしていない。
けど多分、あの場において僕は正義を示せたんだろう。
それが何か、僕にはわからないけれど。
「正義ってなに?」
「…………そうですね……人それぞれあるかと思いますが、私にとっては貴方がそうです」
突然の質問にソルトは落ち着て答えていく。
「僕の世界は既知に溢れていました。僕の異能が僕の生から意味を奪ってしまったんです。けれど僕の世界に、貴方という未知が現れた。貴方がいたから私は生きようと思えたんです。私は、貴方にどうしようもないほどに救われたんです」
ギルティの前にソルトは跪く。
「貴方に仕え、貴方に尽くす。貴方の為に在る事こそが、私にとっての正義です」
「長ったらしいしストーカーっぽい。もっと言い方工夫しろよ」
そう言って今度はミカが自身の正義について話始める。
「俺の正義はその先を生きることの出来なかった者達の遺志を護るってことだな。だからまぁ、心残りの無いような死を迎えられるように生きてる人を護ったりもしてる」
「私は全てを救うことですね」
骸がそう口にした瞬間にミカが大きく舌打ちをした。
「まだそんなくだらないこと言ってんのかよ。いい加減救えないものを諦めることを覚えろ。そんな在り方、いつか必ず後悔するぞ」
「救えるものすべてを救うのは当然の事です。救えないからと見捨てるなど、私には到底できはしない」
二人が口げんかをする横で呆れるように首を振ってアリッサが話し始めた。
「犬猿の仲の二人は放っておいて私の正義についてだけど、私は正直大層な正義は持ち合わせてない。ソルトみたいな執着もなければ、ミカと骸みたいな全部全部背負うなんて真似出来ない。だからこれは正義というよりも願いに近いもの」
アリッサは一冊の本を出現させる。
「特別でもなんでもないものを大切にできる誰かがこの先も生まれてくれたらいいなって、ただそれだけ」
「何故自身を危険にさらしてまで人を護る」
ラヴクラフトの問いかけでアリッサは自身の正義を知覚する。
「ああ、そっか。私の正義は、特別じゃないものを大切にしてくれる誰かが平和に生きられる未来。その未来が無くならないために、私は
自分の意思が確定したことを少し喜びながらアリッサははきはきと答えた
「とまぁ四人で充分に思えるけれど、ここには五人いる。一応私も答えておこうか。私にとって人は娯楽用の玩具でしかない」
ラヴクラフトの言葉にアリッサは困った顔をして、ミカと骸は睨み付けた。
「正気であった者が狂っていくその様が私は好きだ。けれどそれは、狂わせようとした結果狂っていくという当然の事ではなく、誰もその意図があったわけではなく、ただの日常であったはずなのにいつの間にか狂気へと堕ちていた。私はそれが見たい。だから私は、私の娯楽を邪魔するすべてを排除するのです」
人と人との関わりの中で狂っていく、それを人ならざる者の手で邪魔されるなど、相手の事なぞどうでもいい畜生の手で狂わされるなど、以ての外。
それはどうしようもなく普通であったはずなのに、正常な日常であったはずなのに、いつの間にか狂気へと変わっていた。
それがラヴクラフトのみたいものである。
「正義とは何か、その答えは簡単です」
一番どうかしていることを言っていたラヴクラフトがまとめ始める。
「その人にとって譲れないものです。ソルトにとってのボス、ミカにとっての遺志、骸にとっての救済、アリッサにとっての未来、そして私の娯楽。ボス、貴方の正義はなんですか?」
ギルティは何も答えず、ゆっくりとした足取りで自室へと帰っていった。
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