第100話 依頼

階段を降りる音。

扉を開ける音。

高そうな服に身を包み、小さなハンドバッグを持ったふとましい女性が殺し屋ギルドの中に入ってきた。


「依頼をしたいのだけど」


高圧的な態度で言う女性にギルティは正面から対峙する。


「それで、依頼の内容は?」


いつものように、冷たい瞳で相手を見つめ、熱の無い声で必要な言葉だけを口にする。

眉をピクリと動かす女性だが、相手がどういう者かを思い出し感情を抑えた。


「誘拐された娘を探し出して、誘拐犯を殺してほしいの」


「そういうのは警察へ。殺す必要も感じません」


「ソルト、依頼人への詮索は無しだ。いいよ、その依頼承った」


ソルトを止め依頼を受けると、さっさと女性を返した。


「何故受けたんですか?必要以上に動いては署長に狙われますよ」


「ソルト、ここ最近行方不明者が続出してたりする?」


ソルトの言葉を無視してギルティは一方的に話を進める。


「…………いえ、増えもせず減りもせずと言ったところです」


「そう。じゃあ警戒すべき三ケ所では何があるの?」


「わかりません。随分と金に執着した連中が機材を運び込んでいるようですが、ライブをするとも思えないですし」


さすがにソルトの情報網にも限界がある。

街で起きていることなら大抵知ることが出来るが、潜られてしまえばさすがに追うことが出来ない。


「ふーん。じゃあさっきの人のこと、家族のこと、金銭の流れを詳しく調べておいて。不自然に大金が動いてるようなら多分誘拐じゃない」


「まさか人身売買⁉」


「確信はない。ただ、あの人落ち着きすぎ。金払ってまで子供を探すってのに頭を下げることもせずにこっちを完全に下に見て苛立って、僕に負け続けの署長が頼りないと思うのも解らなくはないけど、犯罪者の手を借りるよりはずっといいはず」


「つまり何か隠したいことがあると」


「そう。それと、もし調べられるなら子供の方も調べておいて。こんな場所にあんな高価なもの身につけてこれるくらいにはお金持ってる。子供にも相当な値を付けなきゃ売ってはくれないはず」


「お金に欲しがる組織が大金出しても特が見込めるような訳ありな子供というわけですか」


「多分ね。まぁ、さっきの人がその組織の奴で逃げ出した子供を探してるってのも考えられるけど」


「武器は持っていませんでしたね」


「だからその線は薄い」


「ええ、わかりました。取り敢えず調べられそうなものは全て調べてきます」


ソルトはそう言うと壁を通り抜け行ってしまった。


巨人については、今は調べられそうなことはないな。

いまはもう署長に丸投げしておくか。


「ラヴクラフト。ソルトと交代して街の監視を任せる」


扉も開けずに部屋からギルティの目の前に転移して来ると、そのまま椅子に座った。


「任せてくれ。私は仕事はやる男だ」


その眼はどうにも不気味で、何を考えているかが読めない。


「そう」


ギルティは小さく返事をして街に出て行った。

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