第87話 創造神エインガナ

「…………何も起こらないんだけど」


雲が晴れれば神が現れる。

そう聞いていたが雲が晴れても何も現れはしない。


「おかしいな。何故出てこない?」


それはドゥンにとっても意外なことであったようで困惑しながら空を見上げている。

そして突如、背後から巨大な影が伸びてきていることに気付き振り返った。

目を丸くして、首を振る。

そこには理解できない異常な光景が広がっていた。

地平線の果てから空を覆っていくのは七色の鱗を持った巨大な蛇であった。


「なぁドゥン、鎖は神にも効くのか?」


「さてな、神の力は実に強大だ、正直わからないが…………少なくとも私にはよく効く」


「…………そうか」


別に聞くつもりのなかった弱点にどう反応するべきかわからない。

しばらくドゥンを見ていたが今はコミュニケーションに悩んでいる場合でもないため身体を動かし準備運動を始めた。

身体を伸ばし靴を脱ぐと空中で身体を回転させて着地すること数度、問題ないと頷くと飛び上がる。


「ドゥン、飛ばして」


突如目の前に降りてくるミカの足を押しそのまま射出した。

とてつもない速度で空を昇るミカ、鎖を構え到達と同時に捕らえる気でいたが、到達よりも早く落下が始まった。

走り出すドゥンが落ちてきたミカを受け止め、地面に降ろす。


「距離が縮まっているようには感じなかった。異常なほど遠いか、そもそもどうにもできないものか」


こちらから攻撃する方法がないのではどうすることも出来ない。

だからといって滅びを待つだけなど我慢ならない。

思考を巡らせども答えは出ず、届かない以上がむしゃらに突撃する気も出てこない。


「…………先に言っておこう、私の目的はお前だけだ。人の手で神を討ち滅ぼす、それが私への最後の命令。たとえどれだけ絶望的な状況であったとしても、神を殺すその日まで、お前には生きてもらわなければ困る」


「俺のこと護ってくれるってこと?それは頼もしいね、じゃあもっと頑張らなきゃ。俺は世界を救う、俺を生き残らせたいなら協力して」


「それで、どうする?」


「…………どうもできない」


心強い助っ人はいる。

効くかはわからないが弱点を突ける可能性のある鎖もある。

ただ一つ、どうしようもないほどに大きな問題があった。

攻撃だけではない、何をするにしても距離があり過ぎて何の効果も望めない。


「これはなんの時間だ?」


虹蛇が現れてから既に十分ほど経過したが何も起こらない。


「とぐろでも巻いてるんじゃないか?」


「まぁ確かにな」


地平線には虹が見えている。

空にはぽっかりと空いた穴があり、そこからだけ青空を見ることが出来ていた。


「だったら、このまま俺達は潰されて終わりだな」


とぐろの上の方か下の方かはわからないが、潰されるのは最後の方になる位置。

潰され始めた頃にはもう遅い。

かといって移動するだけの時間もない。

取り敢えずマディたちの元へ戻りしばらく待ってみる。


「ねぇ、世界は滅びるの?」


「滅びないよう戦うけど、今のところは滅びそうだね」


何も出来ないのではしょうがない。


「じゃあ…………キスして」


返事をしようとしてミカは二度見した。

言っている意味がよくわからなかったから。

確かに打つ手はないが、何も考えずいる理由にはならない。


「世界は滅びて、私たちはみんな死んじゃう。それなら、最後に思い出が欲しいの。好きな人との思い出が」


訴えるような瞳、その眼が苦手だった。

何か応えなければとそう思わせるから。


「君は子供に恋をしたのか?」


「ええ、しかたないわ」


「俺には使命がある。そう言う感情は全て置いてきた。悪いが、君の想いには応えられない…………話は終わりだ」


突然世界が暗くなった。

空を見上げるが、よくわからない。

虹色の色彩を放つ鱗ではないが、そこには確かに何かがある。


「……………………おいおい何の冗談だ。アイツ世界を丸吞みにする気か⁉」


鱗はなく、光も妨げられ暗くわかりづらかったが、それは大きく開けた蛇の口であった。


どうするどうする何が正解だ、何が正しい、どう対処する。

鎖使って正面から受け止める?

サイズは?

街?

国?

いやもっと大きい。

大陸よりももっと、たぶん星と同規模。

無理だな。

押し返せるはずがないし、そもそも俺の鎖が届く範囲を超えてる。

じゃあ呑み込まれて中から殺すか?

まだそっちの方がいいな。

取り敢えずマディを鎖で護って。


鎖を取り出そうとしたとき、ドゥンに腕を掴まれ止められた。


「私は主の命を遂行するだけで、人間を理解する気も無ければ、お前に興味もなかった」


「今は話している時間はない」


「けど、今こうしてこちら側に立って、の場で君達と肩を並べてよく理解できたよ」


突然抱きしめられ理解が追い付かない。


「死に逝く私から墓守である君に託そう。どうか、人を害する神々を殺してくれ。人類を救ってくれ。頼んだよ、セバスチャン・ミカエリス」


次の瞬間ミカは消えた。

そして、世界は虹色の蛇に呑み込まれた。


神クロノス、神ゼウスと敵対してまで人間を護ろうとしたお前の考えは理解しがたいものだった。

だが、今は違う。

後を託すというこの感覚は、悔しくて仕方がないけれど………とても良いものだね。

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