第85話 雨

「…………今日も雨か」


あくびをし身体を伸ばしながら窓の外を見る。

雨音は聞こえていたが、雲に覆われた空と薄く水の張られた道。

雨が止む気配はない。


「マディ、悪いけど今日も俺はひとりで行くよ。何か欲しいものがあったら言ってくれ…………まだ、寝てるのか」


布団をめくるとその中で裸のマディが寝息を立てている。


「服を着ろって言ったはずなんだけど…………」


ため息を吐きながらその髪に触れ、頭を撫でる。

ベッドから出て、今度は扉から外へ出ようと手を掛けた時、服が変わっていることに気が付いた。


なにも害がないからいいけど、最近油断しすぎじゃないか?

というかこの服いつ買ってきたんだ?


来ている服が見覚えのないものであることに遅まきながら気付くも対して気にすることもなく、外に出ても問題ない服装であると判断しローブを手に取り扉を開けて部屋を出た。

階段を降り、暇そうにしている店主に話しかける。


「おじさん、最近行方不明になった人とかいたりする?」


「森に入った奴は帰ってきてねぇな。ただまぁ、あの森にはろくでなし共が住み着いてやがるからな、どうせ殺されてるさ」


「ふーん。けどあの森には人なんか…………」


人なんか?

おいおい何の冗談だ?

あの森には人どころか他の動物もいなかった。

人が残すようなわかりやすい痕跡しか探してないから痕跡の有無には気付けなかったがどうだ?

雨宿りできそうな場所は人がいるかもと確認している。

悪人を殺す我の強い英雄を想像してたけど、近付く者皆殺しのやばい奴だなこれ。


「おじさんありがと」


走り出した際にフードが脱げそうになり慌てて手で押さえ宿を出て行った。

目指すは森、今度は人だけではなく動物も探すために。

ああ、だがしかし、森を見て諦める。

雨脚が強まり、痕跡など残っているとは到底思えない状態となっていた。


「嘘だろ、タイミングが最悪だ」


動物の有無に関しては昨日あれだけ探し回って見つけられなかった時点でわかっている。

少なくとも、地面より上に生物は存在しなかった。


「最悪だ。どうしてこう…………」


仕方なしにため息を吐いて宿へと戻って行った。

びしょびしょの身体で宿に入ると、再び店主に話しかける。


「行方不明者が出たのとか、人が襲われなくなったっていうのは、いつからだ?」


「そうだなぁ…………雨が降り始めたあたりからだ。あの日はとんでもない土砂降りだったからな、そこが境目だって覚えてる」


「土砂降り?」


ここ数日で一番雨が強いのは今日のはず。

昨日まではせいぜい小雨で、そんな土砂降りだなんてこと…………。


「いつから雨が降りやんでないんだ?」


「さぁな。ぽつぽつと降り始めてきたと思ったら、すぐにとんでもない土砂降りに変わったが、それが何日前かは覚えてない。まぁ、一週間か二週間かそんなところだろう」


「雨はあの森から?」


「ああそうだ」


…………敵が何処にいるかはまだよくわからない、けど、敵が何なのかはわかった。

雨は確かに最初は局所的だった、だが一二週間で他の地域にまで雨は広がった。

完全に人の域を超えている。

相手は紛れもなく、俺が狙っている相手…………神だ。


「ありがとう。それと、床を濡らして悪かった」

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