第84話 森
一時間や二時間ではない。
朝に着いたというのに、昼を過ぎ、夜になるまで森を駆けまわった。
「ない、ない、ない、ない。やっぱりない、何でない⁉」
森の中を駆けまわった。
行ったり来たり同じところを何度も見た。
それでも見つけられなかった。
盗賊、野盗、その他諸々、どれだけ探してもそのアジトが見つからない。
どれだけ探しても痕跡の一つも、いやあったにはあった。
ここにアジトがあったのだろうという窪地や洞窟。
ここにロープを回して布か何かを張ったであろう樹。
何の痕跡もないというのにそこにいたということだけは確信出来る。
でも今はもういない。
撤収?
逃走?
どれも違う。
そういう次元ではなく、完全に消失している。
抵抗したかどうかすらわからないほど完全に消えている。
まさしく人の手に余る超常的な何かであった。
「いるんじゃないのか?」
誰もいなかった。
目的の探し人も、他の誰も。
「何か知ってるんだろ、カーリー…………?」
勢いの強まった雨を浴びながら、最も警戒する男の名を口にした。
答える誰かがいないことは、もう何時間もかけて理解している。
それでも口にせずにはいられない程、目の前の事実は信じがたいことだった。
「数日でどうこうできる事じゃない。だけど事実人はここ数日で消えた。その方法が一切わからない」
整理しながら早歩きで街へと向かう。
「何の痕跡も残さずほんの数日でとなれば、現実の書き換えか時間の操作か、なんにしても異能の限界を超えてる。今でこそ盗賊や野盗しか襲ってないが他を…………正義の味方」
立ち止まり額に手を当て頭を悩ませる。
「人並外れた力を手に入れたから英雄の真似事でも…………」
鎖を一つ取り出し見つめる。
手で弄びながら呟いた。
「俺以外の英雄なんて、俺は知らないぞ」
ため息を吐いて宿に帰った。
窓から中に入るとタオルを顔に投げつけられる。
「何処に行ってたの?」
「森」
軽く髪を拭きながら一言で済ませる。
一日走り回っても大きな疲労にはならないが、未だ想像でしかないとはいえ考えることが多すぎて頭の方は疲労していた。
「それで、何か見つかったの?」
「なにも」
拭き終わったタオルをと彼に投げるとマディに止められ、誘導されるがままに椅子に座り、髪を拭かれる。
「じゃあ何の収穫もなかったってわけ?」
「いいや。あそこまで何もないのは不自然すぎる。あの場で誰かが何かしたのは事実だ」
「それで、誰が何をしたのかは?」
「わからない。ただ、俺と同等かそれ以上の力を持った誰かだ」
英雄と謳われるミカと同等以上の力を持った誰かが、誰にも気付かれないままに行動している。
正義なのか、悪なのか。
敵か、味方か。
「…………だめだ。考えてもわかりそうにない」
椅子から立ち上がるとそのままベッドに倒れ込み寝息を立て始めた。
「え……嘘、寝たの⁉まだ濡れた服着たままでしょ。あーもうまったく」
マディは寝ているミカの服を着替えさえ、食事については諦めてベッドにもぐりこむとその日は眠りについた。
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