第81話 探し人
「ねぇ、大丈夫なの?」
何の事かはわかりきっている。
聖堂の破壊と教団との戦闘、そしてその後についてだ。
「聖堂という象徴を破壊したのはやりすぎな気がしないでもないけど、重要なのは建物じゃなくて信仰心なんだから、どうせ元気にやってるよ」
そこが本当に面倒なとこなんだけど。
「俺と教団の戦力差は圧倒的。人質でも取らない限り勝てないよ。けど、もしも次にまた人質を取れば、その瞬間に教団への信用は完全に消える。何の問題もない」
鎖を手で弄びながら話す。
「それと、これから旅に出るから。心構えだけはしておいてくれ」
「何処へ行くつもりなの?」
「カーリーかサティーを探す。あの二人には俺を育てる理由があったはず。俺の目的を達成するためには、あまりに情報が足りない。教団との敵対が無くなった今、ここに留まる理由もないからな」
英雄ですらないミカを英雄と呼び育てたカーリー。
歴代最強の英雄と謳われるミカをさらに強くするべく修行を行ったサティー。
この二人こそ、ミカの知る中で最も強き者達であり、ミカが知らなければならない何かを知っていると思われる者達であった。
「サティーは次に会う時は敵だと言っていたけれど、彼は教団の人間じゃなかった。まだある筈なんだ俺を敵視する俺の知らない組織が」
「そこもまた、あなたは壊すの?」
「状況次第。初めからその方向で進めるつもりはない。俺はただ、知らないことを知りたいだけだから」
その真剣な表情に、英雄ではないミカを見た気がして、マディは少し嬉しそうに笑った。
「あなたはまだ子供。間違えを正す大人が傍に居るべきでしょう?」
「君もまだ子供…………ちょっと待った。俺がまだ十歳だから何年も旅するつもりでいたが、君は結婚願望だとかあるのか?旅を終えた頃にはもう二十代も終わりで相手が……なんてのは流石に申し訳ない」
英雄であり遺志を護るべく戦うミカに人並みの願いなどないが、偶然出会っただけの少女にはあるはず。
長い旅をしていては叶えられなくなってしまうかもしれない人並みの願いが。
叶わぬ願いならまだしも、叶えられたかもしれない願いを、見れたかもしれない夢を、あったかもしれない日常を奪うなど、ミカには到底できない。
「誰か傍に居させないとと言うのなら、法王に誰か適当な人を選んでもらうけど」
今の教団に、法王に、敵対する気はないだろうという予想をしての提案。
しかしマディは呆れるような反応を示す。
「あなた、鈍感とかって言われない?」
「…………そもそもあまり人と関わらないな」
大きくため息を吐いて枕を投げつける。
「私の事は気にしないで。ちゃんと連れて行って、ちゃんと護って。それでいいでしょ?」
簡単に枕を受け止めたミカは枕をどかして顔をのぞかせると、心配するような表情を浮かべた。
「罪だ罰だってのは別に気にしないでいいんだからな?あれは結局君が勝手に言ってやってることだ。それこそ俺のことは気にせずどこかへ行ってくれても」
近付いて来たマディが枕をミカの顔に押し付ける。
「私が連れて行ってって言ってるんだからいいでしょ?」
「長旅になるんだ、したいことも出来なくな」
押し返して話をするミカにもう一度枕を押し付け話を無理やりに中断させる。
「い・い・で・しょ」
「…………わかった。好きにすればいい」
マディは枕を取り、顔を埋めるとそのままベッドの上に倒れ込み足をばたつかせた。
その様子を不思議そうに見つめ、窓の外に視線を逸らしたミカは思考の海に沈んでいく。
あてもない旅ではあまりに時間がかかる。
共に旅する相手が出来た以上は数日駆け続けることも出来ない。
効率的に、居そうな場所を巡っていく。
過去の記憶を頼りに。
どちらの強者ともあまり長い時間一緒にいた訳じゃなく、持ち得る情報は少ない。
結局すぐに行先は決まった。
次の日からは、宿を出て二人の旅が始まる。
ミカ自身気付いていない、心を許している相手との旅が。
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