第66話 枢機卿レナート
あれから五年。
レナート二十歳。
師匠ドレークと再開することは無かったが、ドレークの後を継いで枢機卿となっていた。偉くなり少し動き辛くなる……はずだったが、以前にも増して魔物を倒し続け、それどころか聖騎士ですら敵わない強力な魔物を難なく倒すものだから、レナートの名はもはや国の伝説となっている。
そんなレナートの下に一つの気になる報告が入った。
異能力者の集団が怯えた様子で、自分たちは教団を破壊しようとしていたと自首してきたという。
教壇を敵視していた異能力者の集団。
かつてドレークが追っていた者達と似ている。
結局あまり大きな事態にはならなかったが、捕らえられたのは数人で、残りは隠れ潜んでしまっていた。
話を聞こうと向かってみると驚いた。
ドアを開けた瞬間、縋りつくように助けてくれと懇願された。
もう二度と犯罪に手を染めたりなどしないし、計画を建てることもしないと、何の脈絡もなく突然誓われる。
「ここは安全ですよ。あまり時間は取れませんが、出来る限り待ちます。話は落ち着いてから出構いませんよ」
「……いや、待つ必要はない。すぐにでも話さないと」
「すぐに話していただけるに越したことはありませんが、大丈」
「大丈夫、話させてくれ」
「では椅子に座ってください。話を聞きます」
男は教団の破壊を目論んだ、ドレークの追っていた組織のトップであった。
聞けばよく似ていると思いはしたが、自首をするような者ではない。
他にも教団と敵対する異能組織があるのかと、他にもそういった組織があるのではと考えていたが、少なくとも他の組織が報告されていないようで安心した。
無論、異能者の集団が自首を考えるような脅威があるというのであれば、問題の解決とはなっていないが。
「竜だ、竜が出たんだ」
「りゅう?」
「ドラゴンだよ。英雄譚で英雄によって倒されたりしてるだろ?」
ドラゴンというものが少なからずいることは知っている。
しかし国や町や村から遠く離れた場所で、人と関わらないよう暮らしているとのこと。
しかし彼らの様子からここからそう離れた場所でドラゴンと出会ったわけではないことが窺える。
「見間違いというわけでは……ないのでしょうね」
異能力者の集団が逃げることを選択した魔物。
たとえドラゴンでなかったとしても脅威であることに変わりはない。
「見間違いなわけがねぇ。あれは間違いなくドラゴンだ、真っ白なドラゴンだ。一目見てわかった。勝てねぇと、勝てるわけがねぇと。ビビッてたってのに身体が動いたのは奇跡だ。攻撃で一瞬でもひるんでくれればいいものを、何の効果もない。結局俺達はただ逃げる事しか出来なかった」
「追っては来なかったのですか?」
「…………え?」
「実際にドラゴンは見たことはありませんが、犠牲無く逃げ切れる相手なのですか?」
脳裏に浮かぶのは圧倒的な力を前にした絶望だけ。
けれど、それ以外を思い出そうと考えこむ。
「…………追っては来なかった。あれはアジトを潰しただけで、そこから一歩も動かなかった。ただ、俺達を見つめるだけだった」
「そうですか…………他に話すべきことはありますか?」
「え、いや、俺達は全員捕まってる。殿は俺が務めたから、他の連中は俺よりもあのドラゴンについては詳しくないと思う。あ、一応その……アジトの場所なんだが…………」
「わかりました。これからは、人を助けるためにその力を使って下さい。私から言えるのはそれだけです」
レナートは部屋を後にする。
先のドラゴンに追われなかったという話から、一つの予測を立てていた。
ドラゴンには他の魔物のそれとはまったく違う知恵がある。
ずっとずっと魔物を倒してきて、レナートは魔物全てがもともと人であった可能性を考えていたが、ドラゴンに知恵が、人であった頃の記憶があるからこそ、魔物と人の関係、殺し殺されという関係にならないために、人里を離れているのではないだろうか。
行かなければ。
もしも知性ある魔物が、記憶のある魔物がいるのなら、意思の疎通ができるのなら、倒さずに救う方法もあるかもしれないから。
レナートは教えられたアジトに向かって走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます