第65話 罪
ドレークは修道院に着いてから戦闘を学ばせ、覚悟を決めさせるつもりであったが、道中での魔物との戦いで、レナートは予定よりも早い段階で覚悟を決めてしまった。
戦うことで、殺すことで救うという覚悟。
しかし戦う力を持たない者がその覚悟をしたところでただ無駄死にするだけ。
ドレークは予定を変更し、修道院に着くまでの間に教えられる全てを教えると決めた。
レナートの修行の旅は、ドレークの想定を遥かに超える速さで終わりを迎える。
馬に乗って一か月かかる道のりを、ドレークは日夜走って三週間足らずで辿り着こうとしていたが、レナートの驚異的な成長によって到着は一週間早まる。
しかもただ走り続けただけではなく、道中困っている人を助け、見かけた全ての魔物を倒していながらこれ程時間を短縮してのけた。
「これ程までに強くしていただき、ありがとうございます。お師匠様」
最初はよくわからないてきとうな人だと、軽蔑とまではいかずとも、レナートにしては珍しく、嫌い、苦手といった感情を抱いたが、旅の中でそれは変わった。
自分という芯があり、他の人とは少し重要視する部分が違うだけで、優しく強い人だということが良く理解できた。
ドレークという人物は、尊敬に値する人物だった。
「全てを儂の手柄にする気はない。お前の才能で、お前の努力だ。その辺の聖騎士よりも強くする気ではいたが、ここまで強くなるとは思っていなかった。安心した」
初めて会った時から才能を感じていた。
自分の想いを貫き通すことの出来る子だと。
終わりのない旅路を続けられる子だと、そう思ったから自分の後を託そうと考えた。
けれど少年は想像を超えていた。
魔物となった人を殺すことが出来ると、無限の罪を背負えると、最初からわかっていた。
だが少年の想いの強さを、ドレークは知らなかった。
少年は最初から罪を背負っていた。
あの家に生まれた時から、ずっと少年は罪を背負っていた。
手の届く全てを、目に映る全てを救いたいという想いは、この世界で芽生えたもの。
けれど、もしも救えるのなら、救う方法があるのなら、命尽きるその日まで、救い続けなければならない者が少年にはあった。
既に視した者達。
脳裏に焼き付いて離れない、死者を弄ぶ家族の姿。
止められなかった時点で、あの光景から眼を逸らした時点で、少年は罪を背負ったのだ。
『私は全てを救います』
そう誓った青年もただの人。
物事に優劣をつける。
困っている人の為なら自身の命すらなげうつだろう。
けれどもし、生者と死者、どちらかしか救えないのなら、きっと青年は死者を選んでしまう。
それが少年の背負った罪。
非情な一家に生まれた、優しき少年の受けた呪い。
少年は、死者をこそ救いたいと願う。
「レナート、道中で基本は教えた。あとはお前が伸ばすだけ。師弟の関係は無くならんが、そう堅苦しくする必要もない。師匠ではなく、祖父のように思え」
「…………お爺様?」
「まぁ、それでよい」
「お爺様、私に救うということを教えてくださりありがとうございました。救う術を教えてくださりありがとうございました。短い間でしたが本当に多くを教えていただきました。心身ともに鍛え、目に映る全てを救い続けます」
ドレークの言葉でなんとなく察していた。
本来であればここに着いてから教えるはずの事を道中で全て教えられた。
レナートが救い続けるように、ドレークにもやらなければならないことがある。
ここで一時のお別れ。
「……そうか。次に会う日を楽しみにしている」
「本当に、お世話になりました」
深く深く頭を下げ、去り往く老爺を見送った。
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