第24話 辿り着いた世界
シヴァは地を割った。
ブラフマーは封印を隠した。
ヴィシュヌは神々の封印に綻びを作った。
中の者が出られるよう、三柱の最高神はゼウス等他の神にバレぬよう神を恨む者に道を作った。
外に出た神を恨む男は、荒廃した世界を前に泣き崩れた。
「あぁ、あぁ、わかってたさ。俺が何をしたってどうにもならないことくらい。だけど、これは無いだろう」
アマデウスの力は多少なりとも知っていた。
その力があれば神でさえも呑み込むことが可能な事も。
だからこそ割れた天地は戦いの壮絶さを、アマデウスでさえ苦戦する神の登場を男に理解させる。
こんなことしてる場合じゃない。
「探さなきゃ。最高神か、戦神か、それとも他の何かか。俺にはわからないが、彼奴が……彼が負けるだなんてありえない」
死神は飛翔し遂に辿り着いたアマデウスがいるはずの世界を探し回る。
だが、どれだけ探せど、命の反応がない。
何処まで行っても起伏は無く在るのはただ一つ、何処までも続く深い深い谷だけだった。
反応は無く、見渡しても見つけられず、谷の底へと降りていく。
暗く視界が悪い谷であったが、動く何かがそこにはいた。
最悪だ。
死んでるはずない。
あの人が、死ぬわけないんだよ。
谷の底には、大量の死神がいた。
死神は、死者の魂を徴収する。
ならもう、死んでいる?
違う違う違う違う。
どれだけ探しても、魂の反応は無かった。
此処に魂が無いのではない。
反応しないほどに微弱になってる。
でなきゃ、あの死神たちが数に頼って魂を探すはずがない。
この世界にはちゃんといる。
何処に居るかはわからないが、神々も見つけられてない。
大丈夫です、安心して目を覚まして下さい。
「梅雨払いは、私が済ませておきます」
一番手前の死神を、無造作に蹴り飛ばす。
手で押さえ、膝蹴りで頭を潰す。
ほんの一瞬で、
「おや、誰かと思えば……裏切り者ではありませんか。肉弾戦……死神ともあろうものが鎌を奪われましたか?」
周りとは違い天使に近い羽を持つ男が煽るように話しかけてきた。
アズリエルか。
こんな大物が派遣されているとはな。
名すらない一介の死神であった俺に、勝てるのか?
いや、勝つんだ。
「鎌なんて二度と使わない。俺は、神としてではなく、神殺しとしてお前を殺す」
拳を握り、覚悟を決める。
「そうか。神を殺すと、そう言ったのだな。ならば……ここで死ね」
身体から、力が抜ける。
違和感に振り替えると、そこには崩れるように地面に倒れ込んでいく自分の姿があった。
ハッとして身体に飛びつくと、身体が重力を感じる。
アズリエルが何かしたようには見えなかった。
だが、紛れもない、今のこそアズリエルの権能である。
意思一つで俺を殺した?
だったら対策なんて……すぐに諦めるな。
最高神ほどの権能は持ち合わせていないはず。
死後の世界を支配する神々程の権能でもないはず。
なら、意思一つというわけではないだろう。
相手は格上、だから何だ。
俺がこれから迎えにゆく主様は、人の身で最高神と戦った方だ。
この程度の力量差、どうってことない。
地を蹴り一気に距離を詰める。
強すぎる権能、何か条件があるとするなら、条件が整うよりも速く仕留めれば関係ない。
さっさと殺す事こそ、知恵の足りぬ者のやり方だ。
だが、そこには大量の死神がいる。
アズリエルの壁となり、時間を稼ぐ。
いつの間にか取り出した本をアズリエルは指でなぞる。
瞬間、身体から力が抜ける。
世界が暗転していく。
意識が混濁し、自分が何者で、何をしていたのかも、何をするのかもわからなくなっていく。
身体は勢いまかせに吹っ飛んでいく。
そして空中で、アズリエルに向かって蹴りを放った。
今までどれだけの世界を巡ってきたと思ってる。
今までどれだけの人間を見てきたと思ってる。
どれだけ絶望的な状況だろうと、諦めることをしない。
種の絶滅が近づいた時でさえ、笑っていた。
絶滅などしないと、ここから逆転すると、出来ると、確信していた。
人間は、前に進み続ける。
曲がりながらも、必ず前に進み続ける。
どれだけ負けても、最後には、最も大事な勝負だけは、必ず勝つ種族だ。
俺は憧れたんだ。
絶望の中で笑う種族に。
希望さえも手繰り寄せる種族に。
死がなんだ。
「この程度……意地だけで超えてやる」
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