第16話 ブラフマー

破壊神シヴァを倒し、どれだけの年月が経過しただろう。

歩き回る事にも飽き、見慣れた何も大地で、アマデウスはここ数年ずっと仰向けで倒れていた。


………………………………。




………………………………。




………………………………。




数年の時が過ぎ、アマデウスは立ち上がる。


「どれだけ待たせれば気が済む‼」


アマデウスは怒りを叫び地面を抉り、吹き飛ばした。


「何故来ない。我を殺すのを諦めた?まさか。ゼウスはそんな奴じゃない。不確定要素は全て潰す。我のような復讐者は以ての外だ。ならば、一体何を手間取っている」


「うーん……全知全能も暇じゃないってことなんじゃない?」


「…………なっ、いつの間に⁉」


「転移くらいできるとも、シヴァの馬鹿じゃないんだから」


「……ッ⁉」


「あれ、何か見えたかい?」


おかしいのは眼か?

何かが重なり、そしてぼやける。


「君が見ているのは僕の本来の、ブラフマー本来の姿である四つ首だ」


「……成程。お前の神格の強大さに中てられたわけか」


「あぁ、そして……君が神の、シヴァの神格を呑み込んだことで僕との力の差に気付けるようになったことが原因だ」


…………確かに力の差はあるが、破壊神の力の疑似的な再現は可能だ。

勝てない道理はない。


「我は貴様も呑み込むぞ」


「やってみるといい。呑み込まれるのは君だけれどね」


――――――――――⁉


アマデウスは異界へと呑み込まれる。

何処ともわからない場所へと誘われる。


「さぁ、楽しんで来たまえ。そこは、君の為の世界箱庭だ。といっても、すぐに終わりが来るけれどね」


創造神ブラフマーは、容易くアマデウスを異界へと閉じ込めた。


念には念を。

閉じ込めた世界ごと潰してくれる。


ブラフマーは創り出した小さな世界を握り潰した。




…………成程、破壊の次は創造か。

創り出した世界に閉じ込める。

天へと至れぬ我は出られない。

随分と舐めてくれるな。

我は確かに際限なく広がる世界から出られない。

あれだけの広さともなれば我が闇でも呑み込むのに時間がかかるそれこそ果てしない時間が。

だが、この世界ならば話は別だ。

世界を破壊する神を呑み込んだからか理解できる。

この世界は実に狭い。

あぁ、この程度ならば、簡単に呑み込める。




握った手の中から、闇が漏れ出す。


「—————————ッ⁉」


ブラフマーはすぐさま世界を手放した。

世界から漏れ出す闇の中から、アマデウスが現れた。


「これが魔王アマデウスか。これが人間か。けれど、僕らはいち早く気付いたが故にこうして君の相手をしに来ている」


「……………」


「意味が解らないかい?解らなくていい。ただ、僕らが一方的に信じているだけだから」


ブラフマーの笑顔が、アマデウスの怒りを削いでいく。


「あれ、僕を殺す気が失せたかい?」


ブラフマーの挑発は、一瞬にしてアマデウスの神経を研ぎ澄ませた。


そうだ、それでいい。

僕らは君を殺すことでしか救えず、君は僕らを殺すことでしか前に進めない。

互いに理解し合う必要はない。

必要なのは、自身から見た相手だけだ。


地を蹴ったアマデウスの攻撃を、ブラフマーは自身の周りに世界を創り出すことで受け止める。

連撃を放とうともブラフマーに届くことはない。

世界による防御、それ即ち、世界を破壊できるほどの攻撃でなくては突破することは不可能。


世界を破壊する?


「我が闇は……世界すら呑み込む」


「そうかい。それじゃあ、ついて来れるか?」


アマデウスは闇で防御に使った世界ごとブラフマーを呑み込もうとする。

だが、アマデウスは闇で世界を呑み込む最中、血を吐き膝をついた。


「君は傲慢だ。僕の創造を越える気でいただなんて」


クソッ。

量だけならば我が闇に呑み込めぬものは無い。

だが、押し寄せる全てを呑み込むには、我が闇は遅すぎた。

奴の創造は、我が闇以上の速度だ。


シヴァとは違う。

既にここでの戦い方に慣れている。

その上で、闇でさえも呑み込めぬ力を持っている。


「さて……」


アマデウスが見上げた先には、巨大な腕。

それは概念的なもの。

そこにしっかりと存在しているわけでは無く、ただ神の御業のようなもの。

凄まじい速度の掌打。

防ごうとも、アマデウスの身体よりも大きな手に、地面へと圧し潰された。


「僕には腕が八つある。千本ノックといこうか」


腕が八つに増え、アマデウスを襲う。


まずい、いや、どうしようもないか。

呑み込めず、避けれず、防げない。

早くしなくては、そのまま落ちてしまう。


アマデウスはブラフマーの攻撃を受けながら意識を集中していた。

ここ数年、意識を分散させてきた。

誰も来ないから、何もすることがないから、こちらから神界へと攻め入るために、世界を呑み込むべく世界の全てを認識しようと広げ続けていた。

それを今、全神経を集中させて目の前の敵に向けようとしている。

間に合わなければ死。

間に合ったとしても勝てるかはわからない。

だがそこ以外に賭けられるものなどなかった。




凄まじい連撃により、星の形さえ変える勢いでクレーターが出来上がっていく。

それでも何とかアマデウスが生きていられたのはひとえにシヴァを呑み込んだことによる肉体の強化のおかげであった。


まだだ、まだ落ちるな。

今はまだ……。


九百九十九回の張り手が終わり、最後の一撃。

その時、ほんの一瞬ブラフマーの動きが静止した。


ここだ。


アマデウスは一瞬にして転移してその場を離れる。

だが。


――――――———まさか、ここは奴の創り出した世界の中⁉


万能たる魔術による転移。

だが、世界の壁は越えられなかった。

ブラフマーによる最後の掌打。

それは今までの九百九十九の掌打の間に創り上げた膨大な情報の詰まった世界による一撃。

アマデウスの闇では間に合わない攻撃。

その上、既に世界の中に閉じ込められているアマデウスでは、世界から出なくてはその数倍の威力となって襲い来る。

もはや逃れられぬ一撃。


「終わりだ、アマデウス。次は幸せに生きるんだよ」


ブラフマーによる最後の一撃が、アマデウスを閉じ込めた世界ごとアマデウスを潰した。

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