第24話 かいせつ

「それで先輩、作戦は良いけど何か宛があるんですか?」


 つばめの問いを噛み締めるように聞く睦美。


「まずはもう少し仲間が欲しい所ね。つばめ、誰か魔力の高そうな子を知らない?」


 いきなりそんなことを言われてもつばめに分かる訳が無い。そもそもつばめには魔力の高低など分かろうはずもないのだ。


「あー、いや、ちょっと… 」


「そうよね。アンタに分かる訳が無いもんね…」


 ならなぜ聞いたし?! またしてもツッコミを飲み込むつばめ。


「えと、そもそも魔法って誰でも使える物なんですか? わたしもいつの間にか普通に使える様になってましたけど…?」


 つばめの問いに『今はそれどころでは無い』とでも言いたげに煩わしそうな顔で答える睦美。


「それじゃあつばめくんへのレクチャーは僕がしようか。睦美様と久子くんはこれからの作戦を考えていて下さいな」


 アンドレが睦美とつばめの間に入る。どうやら睦美に代わり魔法関係の話をしてくれるらしい。

 つばめはアンドレの話を聞くべく居住まいを正す、3メートル離れて。


「…えーと、何から話そうかな? まず魔法の適正からにしようか」

 少し悲しそうな顔をしたアンドレの説明が始まった。


「僕らの祖国アンコクミナゴロシ王国でも全員が魔法を使えた訳じゃない。国民全体で言うなら魔法を使えるのは15%弱って所かな?」


『へぇ、魔法王国って言う割に意外と少ないんだな…』

 アンドレの話の腰を折っては失礼なので、心で感想を述べるつばめ。


「簡単に言えば『女子生徒』と『女子児童』のみが使える仕組みでね。一般的に7〜18歳の女の子のみが魔法を使えるんだ。だから僕も含めて男は全員魔法を使えない。そして魔法使いの子達の中で特に優秀な子は、国の政治や公共事業に関わって様々な仕事をしたりするんだ」


『うーん、なんだか凄くツッコミたくなる設定だけど、そんなんで国としてやっていけてるのかな…?』


「逆に考えれば『女子生徒』であれば条件は叶う訳で、睦美様や久子くんが未だに頑張って女子高生をやっているのはそういう特別な訳が有るんだよ。いやぁ、まさか『実年齢は問わない』とかそんな抜け道があったなんて目から鱗だよねぇ」


『…………(ツッコむ気力もついえてきた)』


「そして本題だけど、魔法にはやはり大なり小なり個人の適性がある。王国民女性なら最低限の魔法なら誰でも使えるけど、大魔法となるとやはり適性が必要だ。その点睦美様の魔法力は、さすがの王族と言える程にずば抜けているんだ」


『ほぉほぉ(段々飽きてきた)』


「こちらの世界の人では尚更、変態メタモルフォーゼして無理やり体を作り変えても、出来ない人はどうやっても出来ない。ちなみに睦美様と久子くんは変態メタモルフォーゼしている状態が本体だからね。こちらではこちらの人間に偽装変態しているんだよ」


『なるほどねぇ(半分反対の耳から抜けている)』


「大体こんな所かな? ざっくりとだけど分かってもらえた?」


「はい! よく分かりました!」


 平気な顔で嘘をつく女、芹沢つばめ。


「そう言えば、近藤先輩が『魔法が効かなかった』って言ってたのは何なんですか?」

 とりあえずそれだけ聞いて終わりにしようと思ったつばめ。


「うむ、王国民同士だとその魔法に『悪意』があると強制的に抵抗レジストされてしまうんだ。仕組みは分からないけど、魔法で悪事が出来ないようにされているみたいだね。ちなみにこの抵抗力は男でも、魔法を使えなくなった大人の女性でも持っているものなのさ。もう一つ考えられるのは、魔王軍が王国に侵攻する際に使っていたとされる、『邪魔具じゃまぐ』と呼ばれる魔法を打ち消す装備品だね」


「ふ〜ん、よく分かんないけど分かりました。ありがとう御座いました!」


「いやまぁ、良いんだけどね… (小声)睦美様も変な子連れてきたなぁ…」



 つばめとアンドレで漫才を繰り広げている間に、睦美らの方で次なる作戦が練られていた。


「決まりましたよぉ!」


 久子がつばめらの元に来て楽しそうに言う。後ろの睦美はえらく不機嫌そうな顔をしているあたり、今度の作戦は睦美の意向に反した物なのだろうと予想できる。


「早かったですね、さすがは久子くんだ。で? 何をどうするんです?」


 睦美の顔を確認して尚、楽しげに答えるアンドレ。睦美の機嫌を窺うよりも、目的の完遂を目指す事の出来る人物の様だ。或いは単に睦美が嫌いなのか、睦美が困っている状況が好きなのかも知れない。


「えーと、仲間になってもらう人を探す為には、まず色んな人の魔法適性を調べる必要がありますよね。でも1人1人いちいち捕まえて検査している時間も人手もありません!」


「「ふむふむ」」


 これはつばめとアンドレとでハモった声である。


「しかしそれを一斉に調べる機会が実は明日にあるのです!」


「…あー、なるほど読めたよ。そうなると『彼女』の協力が不可欠になるからねぇ、睦美様があんなに渋い顔をしているのも納得だ」


 アンドレは何かを悟った様であったが、つばめにはまるでちんぷんかんぷんだった。


「でも交渉は誰がやるんだい? ネタがネタだけに僕や君じゃ受けてもらえない可能性が高いよ?」


「そこは睦美さまに頑張って貰うしか無いかなぁ、と。一応本人も不満ながらも了承してもらいましたから…」


 心配そうに睦美を見やる久子。睦美は相変わらず不満げに口を尖らせていた。

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