第117話 最後の大会。 ②

 俺達は係員に誘導されてそれぞれのスタートラインへと向かう。


 同じ列にはソウとユウマがいた。


「……ふぅ」


 俺は息を吐き、その場でジャンプをした。


 空を見ると、カンカン照りの太陽が俺たちに容赦なく日差しを浴びさせる。


 首を動かして周りを見ると、俺のことを見ながら祈るように手を合わせている鈴と、部活仲間達が見えた。


「陸ー!! ユウマー!! 俺達に続けー!!」


 ツバサが大声を張る。


「ワンツーフィニッシュ決めちゃえー!!」


 チアキが腕をブンブン振りながら俺たちにエールを送る。


 他の部員達も『3年間の集大成を発揮しろ』、『負けるな!』など、応援してくれていた。


 ……俺は幸せもんだな。 同級生や後輩達がこんなに声を張って応援してくれている。


 そして、可愛い彼女がわざわざ俺の応援に来てくれている。


 …………勝ちたいな。 みんなの期待に、応えたい。


『On your marks(オン・ユア・マークス)』


 審判がそう言うと、選手達はスタート態勢に入る。


 そして、審判が全選手の動きを見て、ピストルを空の方に向けた。


 少ししてパァン!というピストルの音が鳴ると、同時に選手たちが走り出した。


 俺は先頭集団に入り、3番目ぐらいの位置をとる。


 前にはソウ。 後ろにはユウマがいた。


「はぁはぁはぁ!」


 俺は腕をとにかく振って走る。 離れないように、離さないように兎に角走った。


「はぁはぁはぁ!!」


 後ろから迫られるプレッシャーを感じながら、俺は前に離されないように気持ちを奮い立たせる。


 今の順位は3位で、走った距離は2.5キロ。


 1位との差は20メートルもなくて、4位との差は更に短かった。


「はぁはぁはぁ……!」


 俺は3キロを過ぎた辺りで、後輩から水を貰う。


 少し水を口に含み、残った水を思いっきり体にぶちまけた。


 火照った体が冷えて、生き返ったように感じる。


 思考もクリアになり、周りからの声援が入りやすくなった。


「ゴーゴーレッツゴーレッゴーりーく! ゴーゴーレッゴーレッゴーーユウマ!!」


「陸はそのままキープすれば1位も十分狙えるぞ! ユウマ、お前の力はまだこんなもんじゃないだろ! まだ上行けるだろ!」


「ユウマ先輩! ついてけついてけ!!」


「陸先輩! チャンスはあるから絶対離されちゃダメっすよ!!」


 声援の方を見ると、みんなが大声をだして俺たちを応援してくれている。 中には身を乗り出して根気よく応援をしてくれているやつもいた。


「陸くん!! 頑張れえええーーー!!」


 気づけば鈴もみんなとは少し離れた最前列で、大声を出して俺に声援を送ってくれていた。


 …………前、うちの陸上部の近くで応援するのはちょっと恥ずかしいと言っていた鈴が、あんなに近くにきて応援をしてくれている。


 ………声援に応えたい!!


「はぁはぁはぁはぁ……!!」


 走る走る走る。 人生で1番速く走れていて、1番きつかった。


 でも、気持ちは一切萎えることはなく、むしろドンドン高まっていた。


「はぁはぁはぁはぁ……!!」


 残り1キロ。 ソウが1位の選手を抜かし、1位に躍り出た。 ユウマは5位で俺は3位。


 このままいけば俺は表彰台に立てて、県大会にでれる。


 でも、不思議なことに前は表彰台に立ちたい気持ちが強かったけど、今は1位、頂上以外には興味がなかった。


「はぁはぁはぁはぁ……!!!」


 俺の目の前で『カンカンカンカンッッッ!』と鐘の甲高い音が辺りにこだました。


 残り1週。 泣いても笑っても最後の400メートルだ。


「はぁはぁはぁはぁ……!!」


 2位の選手を抜かし、1位のソウは目と鼻の先だ。


 残り200メートル。


 ここで一気に抜かして1位になる!!


 俺は加速してソウを追いかける。


 ソウもそれに気づいてスピードをあげた。


「ぜぇぜぇぜぇぜぇ!!!!」


 残り100メートルとなり、ソウと並んだ。


 腕は激しくぶつかりあり、息苦しくて顔が歪む。


 きつい。 つらい。 しんどい。


 俺の頭の中はそれらに埋められていた。


 しかし、そんな中、鈴の声が俺に聞こえてきたのだった。


「陸くん!! 頑張れぇぇ!! 頑張れぇぇぇぇぇぇ!!!」


 鈴の可愛い声が叫び過ぎて掠れる。


 掠れるってことは、それだけ声を張り上げて応援してくれていたということだ。


 …………うおぉぉぉぉぉ!!!


「ぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇ……!!!」


 残り50メートル。 俺はここでソウの前に出た。


 短距離選手顔負けの速さで俺はゴールへと向かっていく。 


 視界からソウは消え、目の前には白いゴールテープと係員しかいなかった。


「しゃあおらぁぁぁぁぁぁ!!!」


 俺の胸に白いゴールテープが当たる感触があった。


 俺は急いで後ろを振り返る。 目の前に選手は1人もいなかったから俺が1位なのは確定だ。


 でも、俺は電光掲示板に『1位 春名陸。 △△中。 〇〇分○○秒○○』と表示されているのを見て、改めて1位になったことを実感できた。


「………よっしゃあぁぁ……!!!」


 俺はガッツポーズをとる。 目には大粒の涙が浮かんでいた。

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