第43話 体育祭です。
暑い暑い日差し。
空気は少し埃っぽく、視界には小さな砂嵐が吹いているのが分かる。
朝は少し落ち着いていた太陽も今はほぼ真上にあがり、容赦なく日差しを俺達に浴びせていた。
今から始まるのは午後の部。
今のところ白組が優勢だった。
ちなみに偶数の組が白組、奇数の組が赤組だ。
「まだ逆転できそうだな」
俺は点数表を見ながら小さく呟く。
午前は色々と面白いことが起こっていた。
パン食い競争では近藤さんが一生懸命跳ねている姿を見て、みんなが和んでいたし、借り物競走で必死になって『部活の先輩』を探す阿部さんは面白かった。
村上さんが『部活の後輩』をお姫様抱っこして走った時なんて、老若男女から熱い声援が送られていたからなぁ。
徒競走での鈴は1位が転んで棚ぼたで1位になって、同じクラスの女の子にもみくちゃにされていた。
午前は見所がいっぱいあったな。
……俺のパン食い競争はつまらなかったな。
一発でパンを取って悠々の1位。
自分の陣地に戻ったら男子たちから『なんもなくてつまらねぇ』って言われちゃったよ……。
……可笑しいな。 美味しいはずなのに、少ししょっぱい味がしちゃったよ。
「お前なにテンション下がっちゃってんの? 今からリレーなんだから気合入れてくれよ? 頼むぜアンカー!」
ユウマはそう言うと、俺の背中をおもいっきり叩く。
あまりの痛さに思わず声が出てしまい、思わず睨むとユウマはさっさと自分の場所に戻ってしまった。
……あの野郎。 後で覚えておけよ。
俺は周りからの視線を気にしながらも座り、第一走者の方を見る。
今はみんながそれぞれのスタート位置につき、鉄砲を持っている先生が壇上の上に上がったところだ。
できれば、1位か、3~5位で俺に来てくれ。
1位だと頑張って順位を死守するし、3~5位ぐらいなら1人は抜けそうな気がするから。
ギリギリで1位とか2位とかはやめてくれよ?
クラスによるけど、もし接戦しているのが2組と6組のアンカーだったら、俺しんどいよ?
だって二人ともサッカー部のエースとキャプテンだもん。
俺は自分のクラスの第一走者を見ながら祈る。
……とにかく頑張ってくれ!
そんなことを思っていると、パンッ!という大きな音と同時に走り出すランナー達。
第一走者は一生懸命走っていたが、7組中5位という結果になった。
第一走者は足速いことで有名な奴ばっかだったから、しょうがないな。
第二走者はユウマだ。
ユウマは早々と一人抜かし、最後の最後にもう一人を抜いたから、うちのクラスの順位は3位になった。
1位と2位との差はあまりない。
これはうちのクラス、1位いけるかもしれないぞ。
「はぁ、はぁ、頼んだよ春名くん!!」
第三走者が一人抜いて、2位で俺にバトンを渡してくれた。
1位は2組、サッカー部のエース。
3位は6組、サッカー部のキャプテン。
正直、1位と3位との差はあまりない。
白熱した勝負に、周りは熱くなっていた。
俺もみんなの走りや周りの熱量に当てられて、始まる前のネガティブな考えは吹っ飛んでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ!」
俺は走る。
普段はかけないタスキから、みんなの想いや力をもらっているような気がした。
「おらぁ! 気合いみせんかい陸ぅ!!」
同じ白組の陸上部の先輩からの叱咤激励が聞こえる。
「春名! いけるぞぉ!!」
クラスメイトからの応援が聞こえる。
「陸先輩ぃ! ファイトですー!!」
同じ白組の陸上部の後輩からエールが聞こえる。
残りは200m。
1位〜3位はほとんど差がない大接戦となっていた。
そして、残り100mとなったところで、俺は応援を望んでいた人から、かけてほしい言葉を言われた。
「陸くん! ファイト!! 頑張ってぇ!!」
俺は走っていてキツかったけど、思わず口元が緩む。
————————好きな人から頑張ってって言われたら、頑張るしかないよな……!!
「うおぉぉぉ!!」
俺は腕を目一杯振って、加速する。
そして、後ろからついてきていた3位を引きちぎり、必死な形相の1位を抜き、俺は見事1位でゴールしたのだった。
うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
決着がつき、グラウンドには声援や指笛が響き渡る。
クラスの方を見るとみんなジャンプしたり、手を取り合って喜んでいた。
良かった……。 勝てて良かった!
俺は嬉しさで笑みが溢れる。
そして、鈴の声援が聞こえた方を向くのだった。
鈴は近藤さんと喜びを分かち合っている。
鈴の頭についている鉢巻きは俺と同じ白色だ。
俺が鈴を見ていると、鈴は俺に見られていることに気づいた。
すると、鈴は向日葵のような明るい素敵な笑顔で、俺に向かってピースサインをするのだった。
それに対して、俺も負けないぐらいの笑顔でピースサインを返すのだった。
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