第40話 祭りに来ました。 ③

「松田さん大丈夫?」


「うん。 大丈夫だよ。 ゆっくりペースだから登れてるよ」


 俺達はゆっくり歩きながら穴場へと向かった。


 少しの階段だったけど、街灯とかがなくて足元は暗いし、履きなれていない下駄だから松田さんは少し歩きにくそうだ。


 でも、ゆっくり歩いたいおかげで怪我はないし、なんとか花火の時間までに穴場へ着くことができた。


「時間ギリギリだったけど、なんとか着くことができたね! それに花火もしっかり見えそう!」


「これで一安心だ」


 俺達はそれぞれスマホを取り出して画面を見る。


 時間は花火があがる予定時刻の5分前。


 後少しでここからたくさんの花火を見ることができるだろうな。


「うわっ琴たちからいっぱい連絡きてるよ」


「俺もユウマ達からきてるな」


 俺達はSNSのメッセージに返事を返す。 一応電話をかけたけど、電波の状況が悪いのかなかなか繋がらなかった。


「これで大丈夫だね」


「うん。 でも、みんなで花火を見れなかったのは少し残念だったね……」


「そうだね……」


 俺達は少ししんみりとした気持ちになってしまう。


 しかし、そんな俺達の気持ちを晴らすかのように、ベストタイミングで花火が上がり始めた。


 フュ~~~ンどん!! フュ~~バン!! どん! ドン!ドン!ドンドン!


「うわぁ……綺麗……!」


「音も凄いや……迫力も凄い……!!」


 夜空に描かれるのは数々の花火たち。


 赤や青、黄色に緑など、色々な色が夜空で輝いていた。


「うわっ! 一気に緑が輝き始めたよ!!」


「眩しいなぁ! でも、綺麗だなぁ!! あ、次は黄色だ! 松田さん見て見て!!」


「緑よりも眩しいね。 でも、光ってるって感じで黄色の方が好きかな!」


 ドンドンドン!!! パチパチパチパチ…………!


「あ、次は赤か……。 なんか赤の花火を見てると、切なくなって少し胸がキュッとなるんだよね」


「あ、なんかわかる。 夜空に赤が広がって消えていくのって、なんか儚く感じるよね……」


 俺達は近くにあった少し年季を感じるベンチに座って、花火を見た。


 そして、絶え間なく打ち上げられる花火に対して、俺達もそれぞれの感想を言ったり、時には静かに花火を見たりした。


「綺麗だね……」


「うん……」


 俺達は長い時間花火を見て、聴いて楽しんだ。


 そして、最後の花火が上がってしまった。


 ひゅ~~~~~~~うドォーーーーーン!!!


 大きな一輪の花火が夜空に輝く。


 その一輪の花火はとても綺麗で、幻想的だった。


「……終わっちゃったね」


「……あっという間だったね」


 俺達は終わった後も余韻に浸っていた。


 俺達を照らすのは夜空から見える星の少しの光だけ。


 隣にいる松田さんの顔がギリギリ見えるぐらいだ。


「……そろそろ戻ろっか」


「……うん。 みんな待ってるかもしてないしね」


 俺達は何も言わずにお互いに手を出して、繋ぐ。


 そして、ゆっくりと怪我がないように歩き始めた。


「……私、今日の花火は一生忘れないと思う」


「……俺もだよ」


 誰もいない、俺達だけの世界と感じるような空間。 綺麗な花火。


 好きな人との時間。 花火によって照らされる松田さんの綺麗で魅力的な笑顔。


 俺は今日という一日を絶対に忘れないだろう。


「……陸くん。 今日はありがとう。 花火、とっっっても良かったね」


 松田さんは俺の顔を見ながら今日1の笑顔を見せる。


 ってか陸くんって。


「陸くん……?」


「あ、いやだった?」


「ううん全然いやじゃないよ。 むしろ嬉しい」


「ならよかった……どうせなら、私のことも名前で呼んでみる? 鈴って」


 松田さんは俺の前に出て、振り返りながら聞いてくる。


 松田さんの顔は少し赤いけど、なにかを期待しているような表情をしていた。


「……鈴?」


「な、なんで疑問形なの?」


「いや、まだしっくりこなくて……鈴? 鈴ちゃん? 鈴さん?」


「な、なんかくすぐったいよぉ」


 俺達はそんなことを言いながら祭りの会場へと戻った。


 そして、少ししてみんなと合流して、最後に屋台で色々買い食いしてから、この日はお開きとなったのだった。

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