第五話:カーナビ案内

 俺の相槌あいづちを確認することもなく、まるで独り言を喋るように話す姉は、そこで一度言葉を切り、おもむろに自分のスマホを取り出した。


「それでね、どうしても気になってたからあたしさっき調べてみたんだ。あの峠道付近で、幽霊の噂とか過去に事件が起きたりとかしたことはないかって。そしたら、見つけちゃった。カーナビが案内しようとしてた道のずっと先で、二年くらい前に男の人が首吊りして死んでたのが発見されてたって」


 姉の視線は、ジッとスマホの黒い画面を見つめたまま動かない。


「もし昨日、彼のおふざけに付き合ってあの道に入り込んでたら、あたし今頃ここにいられたのかな? そんなこと考えたら、一気に恐くなって。黙って一人で抱え込んでられなくなったんだよね」


 だから、あんたに聞いてもらおうと思ってさ。




 その姉の話が真実か嘘かも、真実だとしてそれが本当に霊的な現象であったのかも、未だ俺にはわからないけれど、不安そうに強張る姉の横顔だけは、今でもはっきりと思い出すことができる。

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