第71話 奴隷の国の終わり

 泣く姉さんを落ち着かせ、水を持ってきたメイさんから酒のお替りを貰いまたしても月奈が酔いつぶれてしまった。


「月奈ちゃん、また寝ちゃったね」


「そうですね。今回は自分で魔法を使うこともなさそうですし。寝かせて起きましょう」


 月奈は俺の膝の上で静かに寝息を立てている。


「そうだね。……ねえ冷夜くん」


「なんですか?」


「せっかく姉弟になったんだから、敬語やめない?」


「敬語ですか。まぁいいですけど、じゃなくていいけど?これでいい?」


「おお、いい感じいい感じ。あとは月奈ちゃんだけど、」


「月奈は昔から敬語だから。あれが月奈の普通なんだよ」


「そうなんだね。……ねぇ二人の昔の話、聞かせてくれない?姉さんとして、二人のこともっと知りたいし!」


「昔のことか。じゃあ俺と月奈が初めて会った時の話を……」


 俺は昔のことを話した、月奈が俺を兄だと認めてくれた日のことを。


「なんか、少し意外だね。二人は最初から仲良しなのかと思ってたよ」


「まぁ、俺も月奈も最初は互いにどう接すればいいか分からなかったから」


「冷夜くんは昔から冷夜くんなんだね。身体を張って月奈ちゃんを守ってる」


「……まぁ、俺は兄さんだから。でもこの世界に来てからは月奈も強くなったし、これまで通り俺が守ることも少なくなるかもしれない」


 俺は幸せそうに眠る月奈の顔を見る。

 昔から変わらない、幸せそうな寝顔だ。


「そんなことないんじゃないかな?月奈ちゃんは、冷夜くんがそばに居るだけで守ってくれてると感じて安心できる。そういう存在だと思うよ」


「……なんか今の、すごい姉っぽい言葉だった」


「まぁ姉さんだから。だからわたしにも守らせて、そして甘えてきてよ。その分わたしも二人に甘えるから。てことで、えいっ!」


 姉さんが月奈とは逆の俺の膝の上に頭を乗せる。


「あの、姉さん?」


「ちょっとだけ貸してね」


「……はぁ~。まぁ、こんなのでよければ」


「ふふ、ありがと」


 姉さんはそのまま眠ってしまい。俺は姉さんと月奈を起こさないよう、メイさんに手伝ってもらいベットに運んだのだった。






 ________________


 翌日、奴隷の国は多くの人が荷物をまとめ馬車に乗り、国を出ようとしていた。


「行動力すごいな」


 王が死に、後継ぎがいない奴隷の国は崩壊している。

 ただ国と言ってもこの王都にしか町がない小さな国であり、住民も多くが奴隷であり、奴隷商や冒険者が多く、市民が少ないので市民優先として他の街や国に移住している。

 さらに、


「よう、兄ちゃん。あんたのおかげで奴隷の解放。無事に終わったぜ」


 声をかけてきたのはギルドマスター、そして手には鍵を握っている。

 ギルドマスターが持っている鍵は俺が渡した魔道具だ。


 鍵には奴隷の首輪や奴隷紋を外すことが出来るようにしてある。

 これはメイさんが城からバリスが書いたものと思われる設計図を発見し、それを元に月奈の魔法と姉さんの勇者の力などを使い、俺が作った魔道具だ。


 この国の多くの奴隷はバリスが違法な行為でさらってきた人が大半であり、そういった人を開放するために作ったものだ。


 だが奴隷の中には正式な手づ付きで売られた者や自らを売った者もいるので、そういった者を除いてギルドマスターには奴隷の解放をしてもらった。


「あとは解放した奴隷のみんなをどうするかだが、」


「その辺は冒険者に依頼として頼んだぞ。それぞれ故郷に戻れるようにな」


「さすがギルドマスター。けど報酬とかは?」


「ま、その辺はなんとかな。ただ兄ちゃんたちのおかげであいつら「冷夜さんの頼みなら」って格安で受けてくれたよ。それにあいつらも多少の罪悪感があるんだろうな」


「そうか。……ギルドマスターはこれからどうするんだ?」


「俺は冒険者ギルドの本部に戻る。さすがに魔王軍幹部のことは伝えないといけないからな。あとは、子供たちのこともあるからな。兄ちゃんたちはどうするんだ?」


「俺たちは当初の目的だった。トライド王国に向かうよ。そこに勇者がいるそうだから」


「なら、ここでお別れだな。っと、こいつは返しておくぞ。あとついでだがこれ」


 ギルドマスターは魔道具の鍵と、一枚の紙を差し出してくる。


「そいつをトライド王国のギルドマスターに渡してくれ」


「分かった。じゃあここでお別れだな」


「あぁ、じゃあな兄ちゃん。またどこかで」


 ギルドマスターは奴隷だった子供たちが手を振っている馬車に向かって歩いていく。


 そしてたくさんの馬車が出発していくのを見送っていると、月奈と姉さん、メイさんが近づいてくる。


「兄さん。みんな行きましたね」


「あぁ。もうこの国も空っぽだな」


 国に残るものはおらず、王城に保管されていた奴隷から奪った物は本人に返し、金などは奴隷から解放され故郷に帰るものに渡した。

 本来はバリスを倒した俺たちに全ての権利がもらえたが、さすがにそれはどうかと、みんなで話し合い、返したり分けたりという風になった。


「あとは俺たちと、メイさん」


 メイさんは一匹の馬を横に、メイド服ではなく本来着ていた旅用の服を着ている。


「メイさん。本当に行っちゃうの?」


「はい。長く故郷に顔を出せていませんでしたからね」


 昨夜、メイさんから聞いていた


 ―—私は一度、故郷に帰ろうと思います。


 メイさんは旅の途中に黒い瘴気を纏った魔物に襲われてここに来た。

 おそらくその黒い瘴気の魔物というのはバリスが魔王から受け取った力を試して出来た副産物なのだろう。


「でも一人だとやっぱり危険じゃない」


「大丈夫ですよカグラ様。旅は久々ですが魔物との戦いはしていましたし、冷夜様に便利な物をいただきましたからね」


 俺はメイさんに複数の混合魔石や短魔剣、それに俺が装備しているブーツ手袋と同じような物を渡してある。

 それに姉さんにも渡してある程度の距離に居れば反応し、会話もできる念話を付与したネックレス型の魔道具もある。


 メイさんは不安そうにしている姉さんに近づき、抱きしめる。


「カグラ様、私はカグラ様の方が心配ですよ。はしゃぎすぎて転んだり、後先考えずに魔物に突っ込んだりしてはいけませんよ。お菓子も食べ過ぎないように、布団もけっとばさないように。あとは……」


「ちょっ、ちょっ、メイさん!?分かった!分かったから!!」


「そうですか?もう少し言っておきたいですが……」


「大丈夫、大丈夫だから。いや、ほんとに迷惑をおかけしました!」


 姉さんはメイさんから離れ、頭を下げる。そんな姉さんを見ながらメイさんは笑う。


「そうですね。ですが、カグラ様は明るく、楽しく、笑顔で、みんなを幸せにできます。冷夜様、月奈様、どうかカグラ様をお願いしますね」


「「はいっ!」」


 メイさんはもう一度姉さんを抱きしめてから、馬にまたがる。


「皆様本当にありがとうございました。また、必ず会いましょう!」


 俺たちはメイさんが見えなくなるまで手を振り、見送った。

 そしてついに、この場には俺たちだけになった。


「なんだかメイさん、姉さんのお母さんみたいでしたね」


「お母さん!?そんな感じだった?」


 俺たちは二人そろって頷く。


「そっか、お母さんってあんな感じなのか……」


「まぁ多分メイさんはお母さんっていうよりも、姉さんを手のかかる妹みたいに見てたと思いますけどね」


「お姉さんかぁ。……わたし、二人にメイさんみたいに出来るかな?」


「大丈夫ですよ。姉さんは、姉さんらしくしてればいいんです」


「そう、かな?でもメイさんもわたしらしくしてればいいって言ってたし、頑張ろ!」


 姉さんがそう決意をして月奈と笑っているのをしばらく眺め、俺はそろそろだなと思い声をかける。


「さて、俺たちも出発する、の前に少しやっておきたいことがある」


 俺は月奈と姉さんに手を差し出す。

 姉さんは?を浮かべながら手を取り、月奈はそういえば!と納得したように手を取る。

 そして俺は念話を発動させる。


 ≪あ、あー。聞こえますかー?≫


「聞こえてるぞ」


 俺が天と念話をつなげて話すと、天を姉さんが月奈に声をかける。


「ねぇ、月奈ちゃんこの声は?」


「この声の主は天ちゃんと言って、分かりやすく言うと神様みたいな人で私たちをこの世界に転移させた一人です」


「転移させた一人。それって私を転移させた人ってこと?」


 ≪いえ。それは私ではないです。これは少しややこしいですが……≫


 天の話によると、天はあくまで俺たちの世界の管理者であり姉さんの世界には別の管理者がいる。なので本来であれば姉さんにはその管理者、もしくはその管理者の下に居る神か天使が説明をしなければならなかったらしい。

 ただ何故かその説明が行われなかったとか。


「いや、そこかなり重要なとこじゃないか?」


 ≪いやほんとにその通りです。ごめんなさい!≫


「大丈夫だよ、えぇっと天ちゃんでいいのかな?」


 ≪はい!そう呼んでいただけると嬉しいです!≫


「じゃあ天ちゃん。一つ確認したいんだけど、わたしが元いた世界の家族はどうなってる分かるかな?」


 ≪……すみません。私では分かりません。ですが、時間をいただければ確認できますので!≫


「そっか、じゃあお願いできる?」


 ≪はい、必ず確認します≫


「天、俺からも聞きたいことがある。俺の中にいる奴のことなんだが…」


 ≪はい。万能の神装のことですね。本人、というか本体が言っていた通り神装であることに間違いはありません。ただ、やはり力は弱いですね≫


「力が弱いか。それって……」


【今話しているのは神か?】


「っ!?」


「兄さんこの声って?」


「ヤミ、万能の神装だ。どうしたんだヤミ?お前悪魔倒しから反応なかったのに」


【少し眠っていたんだ。できれば今すぐに眠りたいが、神と対話できるなら機会を逃すわけにはいかない】


 そのヤミの声は、なんだか怒っている。


【おい、神。奴ら、他の神装の居場所を教えろ】


 ≪いえ、あの私は神ではないのですが≫


【なに?】


「けど神より上の立場ではあるよな」


 俺がふと言うと、天は焦り出し、ヤミの怒りは増加する。


 ≪ちょっ、冷夜さん。何言うんですか!その子を刺激しないでください!≫


【ほう、そうか。貴様は神より偉いのか。なら、わらわの質問に答えられるよな?】


 ≪えっと、あの。すみません!分かる物もありますが。半分くらいは分からなくて。とりあえず分かってるぶんは冷夜さんに伝えるので、それで勘弁してください≫


【………いいだろう。ただし、一つでも嘘が混じっていれば、どうなるか分かるな?】


 ≪ひっ、は、はい!嘘などはつきません!≫


 ヤミはそうしてしばらく天に怒鳴ってというか八つ当たり?のようなことをして、満足したのか、


【ではわらわは眠る。主よ、必要な時に呼んでくれ】


 そう言って眠った。


 ≪ふぅ~。……冷夜さん!なんですかその子!めっちゃ怖かったんですけど!?≫


「いや、俺も知らないけど。天、お前なんかやったか?」


 ≪いやいや、私神装相手に何かしたことは無いですよ!……では私は他の勇者の探索と、カグラさんの家族のこと調べてきます。では!≫


 天は颯爽と消えてしまう。


「はぁ、仕方ないな。じゃあ俺らも行くか」


「はい!」


「うん!」


 俺たちは月奈が作り出したゴーレムが引く馬車で、トライド王国に向かった。


 __________

 現在三人のステータス


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 星空冷夜ほしぞられいや 種族︰人族


 スキル

 速読LV8 思考加速LV8  気配感知LV6


 隠密LV5 魔力感知LV7   錬金術LV6


 鍛冶LV6  念話LV3    風魔法LV5


 雷魔法LV5 魔力操作LV8  剣術LV8


 威圧LV5 投擲LV5


 エクストラスキル

 狂戦士バーサーカーLV4  管理者の加護


 万能の神装【闇夜ノ剣】

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 _____________

 星空月奈ほしぞらつきな 種族︰人族


 スキル

 料理LV9   解体LV5   鑑定LV7


 念話LV3  炎魔法LV8  水魔法LV8


 風魔法LV8 雷魔法LV8  土魔法LV8


 光魔法LV9 闇魔法LV1  魔力操作LV9



 エクストラスキル

 ???の魔眼  管理者の加護


 _____________


 ____________

 星空カグラほしぞらかぐら 種族:人族


 スキル

 闇魔法LV3 魔獣契約LV3 鞭術LV5


 以心伝心LV6


 エクストラスキル

 勇者(鞭)LV5 天使の加護


 契約魔獣

 フィート(キメラ)

 フク(レジェンドオール)


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