第26話 王都への旅立ち

 月奈の料理を美味しくいただき、師匠からブラックドラゴンの素材を使った魔道具の作製を教わった数日後。


「それで師匠。話ってなんですか?」


 俺たちは師匠に改まって話をすると言われていた。


「まぁ、そう急かさないで。……この数日間二人は随分と成長したと思う。正直私は二人の成長速度に驚いている」


 師匠はいきなり遠い目をしながら語りだすので、

 俺はどうしたのだろう?と思い月奈に念話をする。


(月奈。いったい師匠はどうしたんだ?)


(…どうしたんですかね?私も特になにも聞いてないですし)


「そ、こ、で、だ!」


 念話をしていると師匠はいきなり遠い目が普通の目に戻る。


「二人ともに出てみないか?」


「「え?」」


 師匠は1枚紙を机に置く。

 そこには……。


「王都武闘会?」


「武闘会ってあの戦う武闘会ですよね?」


 月奈は師匠に問うように首を傾げる。


「ああ。間違っても踊るほうの舞踏会ではないよ。……その武闘会はね戦いが好きな王さまが主催していてね。一年に一度行われるお祭りなんだ。そして王さま主催だから景品も豪華だ」


 師匠は紙の下の方を指差す。


「ええっと、……『優勝者には王に何でも願いを一つ叶えてもらう権利が与えられます』」


「それって凄いことですよね!なんと言っても王さま。国の王が願いを叶えてくれるなんて!」


 月奈は目を輝かせる。


「まあ、限度はあるけどね。でも凄いのは確かだ。だが今年は簡単にはいかないだろうね」


 師匠は続きを読めと催促する。


「えっと、『今年は特別ゲストとして異世界より召喚された勇者様が参加します』……」


「……兄さん。これって……」


「ああ。俺たちの、本来の目的の一つ。勇者と会って神装入手の手助けをする。そのための重要な一歩になるはずだ」


「天ちゃんとの約束ですからね」


 俺と月奈が天とのことを話していると師匠はうんうんうなずく。


「それじゃあ二人ともこの武闘会には参加でいいね?」


「「はい!」」


「よし。じゃあ2日後に王都へ向かうからちゃんと用意しておきなよ」


 師匠の言葉で少し旅行っぽいなと思った。




 ――――――――――――――――――――

 2日後。俺たちは旅の準備を終え家の外にて待機していた。


「よし、二人とも準備できたね?」


「はい。バッチリです」


「俺も問題ありません。新装備も着心地良いですし」


 俺は自分は装備を触り言葉を体現する。


 俺の装備はブラックドラゴンの素材をベースとしたコートやブーツ、グローブなど、いかにも異世界に行ったやつらが着ていそうないわゆる異世界の定番装備だ。

 ちなみにこれらには、ブラックドラゴンに加えて、灰色の魔石や混合魔石を模様のように付けており、この装備自体が強力な魔道具となっている。


「でも、良かったのか?俺のブラックドラゴンの素材を月奈のほうに回すことも出来たんだぞ?」


 実はブラックドラゴンの素材は大半が俺の装備の素材として使ってしまったのだ。

 故に多少の罪悪感からそんなことを問う。


「ええ。私は魔法で遠くから戦いますし。私がピンチになっても、………いえ、そうなった時こそ兄さんは我が身を犠牲にして私を守ろうとしますから。だから無茶する兄さんに使ってもらわないと私が困ります。それに…」


「それに、月奈には私のお下がりのローブをあげたからね」


 師匠の言葉と共に月奈はくるりと回り白いローブがふわりとする。

 前着ていたローブに似ているがよく見ればその性能差は歴然だ。


「そのローブ、お下がりとはいえ物理、魔法どちらにも高い耐性を持っているものだからね。これ以上の性能の物はそう無いから有効に使ってくれ」


 師匠は月奈の頭を撫でながら得意げに話す。


「……それで師匠。王都にはどうやって行くんですか?」


 俺は何故か複雑な気分になり、話をそらそうと師匠に聞く。

 そんな俺を見て師匠は愉快そうに笑う。


「まさかこの義兄あには自分の心にも鈍いとはね。……ええっと、どうやって王都に行くか、それはね―」


 一瞬、師匠の手が光ったかと思うと馬車が出現した。


「さらに、『クリエイト・ゴーレム』」


 師匠が魔法を唱えると、石や岩で作られた馬が出現する。

 これは土魔法『クリエイト・ゴーレム』

 その名のとおりゴーレムを作り出す魔法だ。


「月奈も、魔法の練習ということでゴーレムを作ってくれる?」


「はい、分かりました。『クリエイト・ゴーレム』」


 こうしてもう一体馬の形をしたゴーレムが出現する。

 師匠は2体のゴーレムに馬車を括り付ける。


「これで準備完了。さぁ二人とも王都へ出発しようか」


 俺たちは馬車に乗り王都へと出発した。

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