第21話 義兄妹の過去①


「う、うぅ。ここは……?」


 俺が目を開けると天井が目に入る。

 どうやらまた、眠ってしまったらしい。

 俺、異世界に来てから凄い眠ってる気がする。


「お目覚めかな?おはよう冷夜」


「あ、おはようございます。……月奈は?」


 俺は周囲を見回す。


「やれやれ。自分より先に義妹の心配とは。…月奈はそこだよ」


 エスタリアさんは俺が寝ているベットを指差す。


 俺が視線を下に向けると、俺の手を握って寝ている月奈がいる。


「……怪我は無さそうですね」


「そうだね。君は暴走しても、わたしにしか攻撃して来なかっからね」


「暴走?俺が、ですか……」


「覚えていないのか?」


「いきなり黒い魔力が暴れだしたのは覚えてますけど、そこからは先は……」


 俺は思い出そうとするが、頭痛が走る。


「じゃあ、あれは君の意識が無くて戦っていたのか……」


 エスタリアさんは急に黙り込んでしまう。

 そして、


「――冷夜。君の『狂戦士』について一つ仮説を立ててみたんだが、それを話す前に聞きたいことがあるだけど」


「聞きたいことって?」


「それは、君と月奈の関係。君の月奈に対する思いを教えてほしい」


 俺はそんな事を聞かれ、唖然とする。


「何でまた、そんな事を……まぁいいですけど。でもその前に一つ言っておくことがあるんですけど」


「それは、君たちが異世界から来た。と、言うことかな?」


「!?」


 エスタリアさんの突然の言葉に俺は驚く。


「知ってたんですね。でも、何で知ってたんですか?」


「それは、『管理者の加護』なんていう、面白いスキルを持っているのと、その黒髪かな」


「何でスキルのことを!?あと、黒髪って?」


「まぁ、その話は後でね。先に君の話を聞かせてくれないか?」


「……分かりました。でも後で話してもらいますから」


 俺が念を押すとエスタリアさんは頷き話を聞く姿勢をする。


「分からない単語が出てくるかも知れませんが、それは後で説明するので。じゃあ、話します――」

 

 俺は昔の事を思い出しながら口を開く。



 ―――――――――――――――――


 俺と月奈が出会ったのは、俺が小学校4年生ぐらいの時。その日は夜空に雪が降っていた。

 初めて月奈と出会った時。月奈はとても辛そうな顔をしていた。


 月奈は、俺と出会う一年前に交通事故で両親を無くしていた。

 その事故から月奈は、いろんな親戚の家をたらい回しにされ星空家に来た。


 月奈が両親を無くしたのが7、8歳の時。それから一年間、絶えず環境が変わり続けたのだ。


 それは子ども一人から笑顔を消すには十分な出来事だ。


 だが、そんな月奈に俺は最初何もしてやれなかった。

 初めて出会った女の子にどうやって接していいのか分からなかったのだ。

 俺と月奈は互いにあまり干渉しない適度な距離を持って過ごしていた。そのまま学年が一つ変わったある日のこと


「きゃっ!」


「邪魔なんだけど。どいて?」


「そんなんだから親に捨てられるのよ」


「そうだー。そうだー」


 俺は、月奈が複数クラスメイトからいじめられている姿を見た。


 そこには、男子も女子もいたが、主にいじめているのは女子だ。


「ちがう!私は捨てられてない!」


「でも、あなたの今のお父さんやお母さんは本当のお父さんとお母さんじゃ無いんでしょ?」


「っ!それはっ!」


「それってつまりあなたが捨てられたから本当の親が違うんじゃないの?」


 あはははっ。と、月奈はリーダーらしい女子生徒とその周りに笑われる。


 そんな、月奈の目には涙が浮かぶ。


「違う、違う。お父さんもお母さんも私を捨ててなんかない」


 月奈は下を向きながら、そんなことを呟く。


「分かった?あなたは捨てられたの。つまり私達より下の駄目な子なの。だから○○君に近づかないでくれる?」


 どうやら、月奈がいじめられてるのは、リーダーの女子が好きな子と月奈が仲がいいかららしい。


「違う。捨てられてない。私は……」


「ねえ、分かった?」


 リーダーの女子は月奈の髪を掴む。


「分かった?○○君に近づかないでね?」


「私、そんな、人、知らない」


 月奈は涙をこらえながら言う。


「へえ〜。まだそんなこと言うんだ。ポチ、ハサミちょうだい」


「は、はい!」


 ポチと呼ばれた男子が、リーダーの女子にハサミを渡す。


「ほら、覚悟しなさい!」


 リーダーの女子は月奈の髪にハサミを入れようとする。

 そんな中、月奈は涙を流し


「誰、か。助けて――」


 その瞬間、俺の体は動いていた。


「きゃ、!?」


 俺はリーダーの女子の腕を掴み、リーダーの女子はハサミを地面に落とし、月奈から手を離す。


「ちょっと、何?」


 リーダーの女子はいきなりのことで驚いていた。

 だがすぐに自分が腕を掴まれてることに気づく。


「ちょと、あんた。離してよ!」


 リーダーの女子は俺に命令するが、俺はそれを無視する。


「謝れ」


「は?」


「その子に謝れ」


 その時、初めて自分の中にある黒い感情を感じた。

 だからだろうか、リーダーの女子は怯えた口調で言う。


「ひっ! ぽ、ポチどうにかしなさい」


「は、はい!うぉぉぉ!!」


 ポチが俺に殴りかかってくる。


 俺はそんなポチに向って、


「止まれ。こいつがどうなっても良いのか?」


 と言ってリーダー女子を掴んでいる手を強める。


「い、痛っ!」


 この時は我ながら凄い悪役だと思ったが、ポチは大人しくしてくれた。

 だが、


「やあぁぁぁ!!」


 次は近くの女子がカッターナイフを持ち突っ込んでくる。


「ちっ!最近の小学生は危ないな。良いのか、こいつがどうなっても?」 


 だが、俺の言葉は届くことはなく、そのまま突っ込んでくる。


「ったく。話を聞けよ!」


 俺はリーダー女子の腕を離し、カッターナイフ女子の突進を避ける。


「はぁ、はぁ、この!」


 カッターナイフ女子はもう一度俺に攻撃しようとしてくる。

 だが、俺はそれより先に腕を掴み、カッターナイフを回収する。


「何でそこまでするんだか、っと!」


「くそ!避けられた!」


 次はポチが突っ込んでくる。


「まったく、大人しくしろよ。ポチ」


「いっ、イタタタ!!」


 俺はポチの腕を掴む。

 そして、


「ぐほっ!」


「?、一撃か……」 


 俺はポチの腹に一撃入れ、ポチは倒れてしまう。


「さて、次はどいつだ?」


 そこからは乱戦だった。

 俺はその場にいた全員と戦った。


 その後、色々ありその日はすぐに家に帰った。

 そして、俺が自分の部屋でゲームをしていたとき。


「あの、失礼します」


「どうした?」


 いきなり月奈が部屋に入ってきた。


「えっと、あの……」


「うん?」


 月奈は言いよどみながらも、顔を上げる。


「あ、ありがとございました」


 月奈は俺に頭を下げお礼を言ってくる。


「いや、気にしないでくれ。それよりも……すまなかった!」


「……え?」


 月奈は突然の俺の謝罪に驚く。


「俺は、お前イジメられてるのに気付けなかったし、これまでお前が辛そうだったのに何もしてやれなかった。だがら、ゴメン」


「……何で謝るんですか?」


「いや、だからお前が、辛そうだったのに「違います!」……え?」


 月奈はこれまで聞いたことのない声の大きさで俺の言葉を、遮る。


「だって、私は邪魔な子で、いらない子で、なのにどうして!」


「だって、俺はお前の、月奈の……兄さんだから」


 俺がそう言うと月奈は驚いた顔をする。


「私の、兄さん?」 


「そう、月奈の兄さんだ。月奈の家族だ。だから、辛くなったら俺を頼ってくれ!」

  

「う、うっ。頼っていいんですか?」


 月奈は不安そうに言う。


「ああ、」  


「甘えてもいいてすか?」


 月奈は確かめる様に言う。


「兄は、妹を甘やかす者。らしいぞ」 


「――兄さん!」


 月奈は泣きながら俺に抱きついてくる。


「兄さんっ、兄さんっ!」


「ああ、兄さんだ。月奈の兄さんだ」


 俺は優しく月奈の頭を撫でた。   



 ―――――――――――

 その後、俺たちの関係は一変した。

 俺たちは家でも学校でも常に一緒にいるようになった。

 そして、学校での一件もあり俺たちは別の学校へ転校することになった。


 これが、俺たちの出合い。


 俺たちの始まりだった。

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