第99話 スティレット家の当主として
大吾たちが帰った後、オーズさんに頼んでスティレット家の皆に来てもらった。
中央府へと誘われた話をする為だ。
そこでサリアからシスカの件がどうなったのかを聞いていた。
「まずは友だちから」――――――結局そこに落ち着いたらしい。
イザベラがかなり頑張ってくれたようだから、後で絶対に御礼を言っておかないとな。
そのあと、俺は大吾から中央府へと誘われた事について、スティレット家の主だった面々に話をした。
英雄直々に声をかけられた事についてミューレさんなんかは不思議がっていたけど、そこはオーズさんが師である大吾に推薦したと俺が転生者である事を隠すために嘘をついてくれた。
転生者・転移者ってのはこの世界には元々存在しない知識を持ってたりするわけで、酷い話だが”国の財産”として見られる部分がある。
そんな財産である転生者・転移者を他国に売れば――――――なんて考える奴も少なくないことから、転生者・転移者である事を隠すのは当たり前の事らしい。
(知識チートで無双してる奴とかは例外)
「ルシード様が中央府の貴族様にですか……………」
全て話を聞き終えて、最初に言葉を出したのはフォルスだった。
けどそれも感心したような、呆れているかのような判別しにくいもので、その心中は俺には察せなかった。
「お断りする、というのが少々無理に思えるほどの御方から誘われていますね……………」
ミリアも大吾――――――つまり中央府上級貴族、それもX・カーヴェ家の英雄であり当主でもある本人から直々に誘われている事に身震いしていた。
「ルシードが中央府へと来た場合、自然とスティレット家に仕える其方らにもある程度の爵位と支度金が用意される筈である」
オーズさんの発言に、二人は明らかに目を輝かせた。
そういえばフォルスは実力はあるけれど貴族じゃないからって理由で何処も雇い入れてくれなかったんだな、ミリアも貴族だけど貧乏だからって無理矢理金持ちと結婚させられそうになってたんだっけか?
どっちも既にエドガがカタをつけてる話だったからすっかり忘れてたわ。
俺がそんな事を思い出していると、二人は揃って頭を振り、その場に跪いた。
「自分の事は気にせず、ルシード様が思われる事を成せばよろしいかと存じます」
「私も、ルシード様が如何なる道を選ぼうともついていく所存です」
二人とも俺が中央府へ行けば欲しがっていたものが得られるというのに、それを押し殺して俺の好きな様にと選ばせてくれたことに感謝した。
「私もルシードの意見に従うわ、だってこのスティレット家の当主はルシードなんだもの」
「私も!お兄様の意見に従います」
「私も、兄さまと一緒が良いです」
ミューレさんもどことなく嬉しそうに言って微笑み、アイリーンとミモザもそれに追随する。
マーサやエドガ、サリアも粛々と首を垂れた。
「待ってくれ!俺の一存でみんなのこれから先にも関わって来る事を決めていいわけが無いだろ!?」
俺は慌ててみんなの意見、その総意を理解して焦る。
これじゃみんなに集まってもらった意味がない、また俺が突っ走るわけには…………。
「ルシード、母をあまり見縊らないで?可愛い息子の母を何年やってると思っているの?貴方が中央府へ行きたがっている事くらい御見通しなんですからね?英雄様直々にお誘いを受けた誉に恥じぬよう、精一杯お仕えしましょう。皆も、それで良いわね?」
ミューレさんの問いかけに、全員がしっかりと頷いた。
それだけでみんなの決意が伝わって来て、結局のところ意見を求めたつもりが皆に背中を押されることになっちまった。
そして俺は初等部の卒業という期限を待たず、次の日にはオーズさんに大吾たちに集まってもらい俺が中央府へと行く事をスティレット家の総意として告げた。
「ありがとうルシード、それと無理を言ってしまって本当にすまない」
アーサーが申し訳なさそうに眉を寄せてながら、辛そうにそう口にした。
確かに聴いた時は驚いたし、無茶な!?とは思ったけどな?
結果として、みんなが俺の背中を押してくれたおかげだから俺だけに言うのは違う気がした。
「それ、後で俺の家の皆にも言ってくれるか?」
俺の言葉に一瞬アーサーが驚いた顔を見せると、いつもの様にふっと笑って、
「キミが来てくれるのなら、それくらいお安い御用――――――じゃないね。きちんと僕自身から話をして頭を下げないといけないな、全然気が付かなかったよ。ありがとう」
「そんな大げさな…………俺はそこまで考えて言ったわけじゃないよ」
「ルシードが普段話してる言葉遣いで構わないよ?何なら父に話していた時のようなものでも僕は咎めたりしないよ?これからは僕たちは家族も同然なんだから」
さすがに大吾と同じってわけにはいかねーよ。
傍から見ればジジイとガキが口喧嘩してるようにしか見えねーんだし?
けどまぁ肩肘張る必要も無いか、これから仲良くやって行こうってんなら尚更だ。
「わかった。これから宜しく、アーサー」
俺はそう言って手を差し出すと、
「こちらこそよろしく、ルシード」
アーサーはしっかりと俺の手を握って、応えてくれた。
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