第63話 ようこそスティレット家へ

三人をスティレット家に招待することになった。

突然来ても何ももてなしできないって事で再来週の土曜日に来てもらう事に、それを全員が揃っていた時にミューレさんたちに伝えたわけなんだが――――――。


「そう、やっとルシードのガールフレンドたちを家に連れて来てくれるのね?」


心なしかそわそわしているような表情を浮かべるミューレさん。

ガールフレンドて…………まぁ女友達ってのは否定しねーけども、言い方よ。

何故かマーサとサリア、エドガは涙ぐんでいるし。


「あのルシード坊ちゃまが……………」

「もう誰も好きにならないだなんて仰っていたルシード様が……………」

「時が経つのは早いものですな…………」


何か知らんが止めてくれ!このはじめてのお〇かいを見てるような雰囲気!!

何か知らんがすげー恥ずいわ!

それにサリアはまだそんな事覚えてたのかよ!?


「模擬戦大会を観覧しに行った時に遠目に見た程度だけれど、どの娘も素敵なお嬢さんたちよねぇ……………?ただ問題はウチの様な中級貴族に嫁ぎに来てくれるかしら?」

「たぶん今のままじゃ無理だと思うよ?三人とも上級貴族の家柄だし」


俺はそれ以上の会話を切り上げるためにそう言った。


「それは問題ないかと思われます」


それに口を挟んだのはフォルスだった。


「今やスティレット家は上級貴族に成ろうとかという勢いのある家ですからね」


ミリアもそれに賛同する。

オーズさん、アイリーンとミモザもうんうんと頷いている。


「ミューレ様は仕方がないにしてもルシードよ、貴様は自分の家の事をもっと把握しておかねばならぬである!」


「すみません。その辺りの事は全てエドガに任せっきりにしてました………エドガもごめん、これからはそうした事も教えてもらえるか?」


「構いませぬよ。ルシード様の御負担を考えれば、それは追々でも良いだろうと私も判断しておりましたので――――――」


素直に謝り、エドガに確認すると穏やかに笑って許してくれた。





三人がウチに遊びに来る当日――――――。

マーサ、サリア以下メイドたちによって準備は完了していた。

今回はミューレさん、アイリーン、ミモザも交えての簡単な茶会を催すことにした。


「うふふ、お茶会なんて久しぶりだわ~」


朝からミューレさんはウキウキしっ放しだ。

テンションブチ上げ過ぎて倒れたりしなきゃ良いけど、傍にマーサとサリアも控えてるし大丈夫か…………。

因みにオーズさんは不在、理由はまぁ…………わかるだろ?


ミューレさんを心配してる場合じゃない、俺はビシッとしたお貴族様の服を着せられて無駄に緊張しているのが自分でもわかる。


「ルシード様、失礼します」


サリアがそう言って、俺の髪をサッと直してくれる。

そして俺をじーっと見つめて、


「とても良くお似合いで、素敵です………坊ちゃま――――――」


うっとりとしたような笑みで久しぶりに俺のことを坊ちゃまと呼んだサリア、俺はそのままサリアに正面から抱きしめられていた。

顔面にはサリアの胸が押し付けられて、服や下着越しでもその柔らかさは充分に感じることが出来る。

俺もサリアの腰を抱きしめて、そのままサリアの香りを吸い込むと不思議と緊張がほぐれていくのが解った。


「ちょっと二人とも!?こんなところで何をしているの!?」

「ハッ!私は何を――――――申し訳ありませんでしたルシード様!!」


ミューレさんにツッコまれて我に返ったサリアは、俺からすぐに離れると深々と頭を下げて謝罪した。


「いや、僕もサリアに久しぶりに坊ちゃまって呼ばれて懐かしくて……………ごめん」


きっとサリアは俺の緊張を解そうとしてくれたんだろうな。

それに甘えちまうとは、俺もまだまだだな……………ごっつあんです。




三人が乗っているであろう軍学校の馬車が見えて、俺は姿勢を正す。

丁度俺の正面に馬車の扉が来ると、御者さんが扉を開き中からまずはマリーが降りて来た。

青を基調としたドレスに身を包んだマリーに手を伸ばし、降りるエスコートをする。


「そのドレス良く似合ってる」


「あ、ありがとう…………」


恥ずかしそうに呟いて、後の二人を待つ。

次はイザベラだった。赤いドレスが良く似合っていて、俺の手を取って降りる姿も堂に入っている。


「流石だな。ドレスにも負けてない」


「ふふっ、ありがとう存じますわ」


華のある笑顔でそう言うと、自然とどこからか「ほぅ」という見惚れている様な声が聞こえて来た………………アイリーンか?


最後のモアは黄色が基調のドレス、俺の手を取って馬車についてる階段を一歩一歩降りる度に一つにまとめられた三つ編みとふくよかの名残である胸が揺れる。

本人は特に気にした様子も無いが、マリーの方から微かに舌打ちの音が聞こえた気がした。

モアの着けている大きな花を模した髪飾りには見覚えがあった、俺が”トーヤ”として作ったアクセサリーだった。


「それ、良く似合ってるな?」


「え?本当!ありがとね?」


満面の笑顔で応えたモア。

俺はミューレさんの隣に並び、三人は俺たちの前に横一列に並んだ。


「「「本日は御招き、ありがとうございます」」」


綺麗に声を揃えて一礼。

家格としてはこっちが下になるから、「御招きいただき―――――」とはならない。

面倒なマナーだが、雑な対応するわけにはいかねー。


「三人ともようこそスティレット家へ」


「「「…………えぇっ!?」」」


急に大声を出すもんだから俺迄ちょっとびっくりした。

なんなんだ?どうかしたのか?


「ルシードの家ってスティレット家だったんだ………………」

「ぜ、全然気づきませんでしたわ………………」

「すごーい!神職人トーヤ様が所属している御家だよね!?」


三者三様の驚き、ところでモア?神職人ってなんだ?

一瞬、紙職人とか髪職人とかの文字が頭を過ぎったぞ?

学校では家名を名乗る機会なんて無いから、知らないのも無理ないか。

それじゃあ改めて――――――。


「ルシード・スティレットです、今日は当家にようこそおいで下さいました」


気取ったセリフで恭しく頭を下げる。

俺だって六年生になるまで何もしてなかったわけじゃないんだ、これくらいの事は出来る。


「どうぞこちらへ――――――」


エドガが先導し庭に用意された茶会の場へと案内する。

スティレット家の屋敷はエンルム家の屋敷に比べて一回り程小さい、庭も中庭が無くて門から屋敷までの間に庭園があるだけ――――――ってそれだけでも充分だよな。

今日はそこで茶会を開いている。


丸テーブルを囲むように座り、全員が座るのを確認してからミューレさんが挨拶を始めた。


「はじめまして、私がルシード、アイリーン、ミモザの母のミューレ・スティレットよ。皆さんの事はルシードやアイリーン、ミモザから良く聞いています。これからも三人と仲良くしてもらえると嬉しいわ」


穏やかに笑うミューレさんに三人とも見惚れているようだ。

そりゃそうだよなぁ、俺みたいな歳の子供がいるようには見えねーんだから。



それからみんなで他愛のない会話に花を咲かせた。

三人は学校での話をして、ミューレさんを楽しませてくれていた。

そんな中――――――、


「ルシード様、申し訳ありません。確認したいことが出来たそうなので至急来てもらえないかと工房から連絡が――――――」


エドガが心苦しそうに俺に耳打ちしてきた。

俺は「解った、すぐに行く」と伝えて、


「三人ともごめんな?何か仕事の事で話があるらしいんだ、ゆっくりしていってくれ」


こうして俺は折角の茶会を退席したのだった。

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