軍学校六年生編

第61話 あれから・・・

「はあっ!」

「せいっ!」


スティレット家の庭に木剣を打ち合う音が響く、それを微笑ましく見守るのはミューレさんをはじめとするスティレット家の面々。

俺はその庭で一人の騎士と剣を交わしていた。

大柄で目つきが鋭い黄色の瞳に茶色の短髪、彼の名前はフォルス、ウチで正式に雇い入れようとしている守護騎士だった。

中級貴族であるスティレット家の当主として、この家に仕え働いてくれる人材の登用も俺の仕事になるらしい。

普段はその辺りエドガとマーサが分担してくれている。

俺なんかよりも余程人生経験積んでるこの二人の眼なら信用できるからなぁ。


けど護衛だとかの実力に関して二人は疎い、そこで俺自ら相手をして見極めてみてはどうか?とオーズさんから提案されたのだった。


そして今に至るわけだが――――――ッ!


強い。


正規の騎士がどの程度のものか知っておくには丁度良い――――――なんて気楽な気持ちで受けたものの、オーズさん程じゃねぇが充分に強い。

俺も六年生になって身体もそれなりにデカくなったが、それでも大人には及ばない。

その違いがくっきりと明暗を分けていた。


「お兄さま!頑張って!」

「兄さま!負けないで!」


アイリーンとミモザもハラハラしながら応援してくれてる。

二人の兄貴としても、この家の当主としても情けないところは見せらんねーよな。


俺は速度を上げた。


オーズさんに教えてもらった技”神威”の転用――――――その名も”仏恥義理ぶっちぎり”。

移動速度を飛躍的に向上させることが出来るんだが、魔力をドカ食いするので乱発は出来ない。

急に速度を上げた俺に、フォルスが目を見張る。


「………………参りました」

「それまでッ!!」


フォルスの喉元に木剣を突きつけた俺に、彼はそのまま両手を上げて降参した。

すかさず審判を務めてくれていたオーズさんが終了を宣言する。


「さすがは模擬戦闘試験大会を連覇しているだけの事はありますね。最後は追いきれませんでした」


「お世辞はいいよ。フォルスは剣よりも槍を使うんだろ?だったらこんな勝負お遊び程度の意味くらいしか無いさ、得意分野でもないのにこれだけ出来るんだ、文句なしに採用だよ」


俺はサリアから受け取ったタオルで汗を拭きながら、フォルスの言葉に応えた。

俺の言葉にフォルスはその場に跪き首を垂れて、


「これより先、貴方様の剣となり盾となります。如何様にでもお使いください」


俺はその肩に手を置いて、


「宜しく頼む。けど見ての通り俺はまだ子どもで普段は学校に居るから、フォルスにも普段はこの家の警備を担当してもらいたい。頼めるか?」

「御意」


堅苦しいがこれも礼儀って奴だ。


俺は次に控えていた希望者の方に目をやる。

金髪ショートボブに青い瞳、彼女の名はミリア。

緊張しているのか唇は真一文字になり、手が微かに震えているのがわかる。

俺はタオルをサリアに渡すと、


「ミリア。緊張するなとは言わない、ただ呑まれるな。終わってから実力が出せませんでしたなんて言い訳は聞かないからな?」


挑発する様にわざと冷たく言った。

その効果はあった様で、相変わらずくちはそのままだったが、震えを抑え込むことは出来たようだ。


「準備は良いであるか?」


オーズさんに問われ、


「はい!宜しくお願い致しますッ!」


彼女は勇ましく歩き出し、定位置につくと木剣を構えた。

俺も位置について、木剣を構える。


「始めッ!!」


開始の合図と共にミリアは真っ直ぐに俺に突っ込んできた。

さっきの俺の速度を見て、押し込まれるのはマズいと判断したんだろう。

その判断は悪くないし、先ほどからの攻撃も的確に俺の嫌なところを突いて来ている。

フォルスが守り主体のじりじりとした戦いだったのに対し、ミリアは相手を攻め崩すのを得意としているようだ。

俺としてはこっちの方がやってて楽しくはある。

だけどミリアの場合、攻撃に魔法を織り交ぜて戦うタイプのようだ。


今回魔法は(ミューレさんが居るから)禁止したので、いつもの戦いが出来ずにもどかしさを感じているようだ。

魔法を禁止したのには他にも理由がある。


「人間最後にものを言うのは体力である!!」


という、オーズさんらしい言い分――――――ゴリゴリの超筋肉論だった。



魔法が封じられたミリア、攻撃のリズムが徐々に狂い始めた隙を突いてあっさりと勝利する。


「――――――ッ!!」


悔しそうに拳を握り締めて唇を噛むミリア、緊張していなくても実力を出し切れなかったことを悔やんでるのかもしれねーけど。


「ミリアには母さんの警護をお願いするよ」

「はい?」


俺の発言に間の抜けた返事を返すミリアだったが、その意味を理解して、


「それは雇い入れて下さるという事で宜しいのでしょうか?」

「あぁ。すぐにでもウチで働いてくれると助かる」


俺の返答に喜んだのも束の間、すぐにミリアはハッとした様子でその場に跪き、


「これより先、貴方様の剣となり盾となります。幾久しく貴方様の御傍に…………」


「宜しく頼む」

「御意」


サリアから再びタオルを受け取り汗を拭うと、ミリアの肩に手を置いてフォルスの時と同じく応える。


今回雇い入れるのはこの二人、それぞれと向き合って俺は告げた。


「雇用の条件については此処に居るエドガに訊いてくれ、二人とも住み込みで働けると聞いて居るが問題無いな?」


「「はい!」」


二人とも姿勢を正して返事をする。

本当はもっと大勢志願者が居たんだけどな?

スティレット家の当主が俺みたいな子どもだと分かると、ほとんど人が居なくなっちまったらしい。

そこからマーサとエドガによる面接、アイリーンとミモザによる罠(?)を潜り抜けて残ったのがこの二人しかいなかった。

アイリーンとミモザの罠については二人に訊いても教えてくれなくて、


「必ずスティレット家の為になる事ですので…………」

「兄さまは大人しくしてて」


申し訳なさそうな二人に俺はそれ以上何も言えなかった。

ミューレさんとサリアも監修してるらしい、俺一人ハブられてるみたいでちょっと寂しかった。


二人を雇い入れたのはオーズさんの努力の甲斐あって、今やスティレット家の名は軍部でも知らない者は居ない………………らしい。

らしいってのは、当主だとは言え俺はまだ未成年だから社交の場に出て行けないのでオーズさんとニーアさんから聞かされるだけだから実感がわかないからだ。


それで徐々に名前が知られる様になったスティレット家を狙うような輩も増えてくるだろうって事で早めに対処する事にした結果だった。

こうした経緯で警備の人間を雇い入れる事になったわけだが、この家に出入りする事になった以上はただの上司と部下では無くて家族みてーになれたら良いなと密かに思った。

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