第55話 忘却の真相・・・ってやっぱお前か!!

アルフォンスはケツ丸出しの状態で、オーズさんに足を持たれて引き摺られて行った。

ロイさんとヘレンさんに事情を説明しに行くんだろう。

けどこの程度で懲りる様な奴だったなら苦労は無いし、エンルム家ももっと平和だっただろう。

一先ず今回の長期休暇の間は大人しくしてるだろ。

そう思う事にして頭を切り替えた。

こっちはこっちで片付けなきゃいけねーことがあるからな?




「…………………………」


アイリーンとミモザを離れに連れて行くと、ミューレさんが何か言う前に二人は事の経緯を洗い浚い話して、同時にその場に平伏して謝罪した。

まぁ全容は俺が予想した通りだったので割愛する。

あまりに予想した通り過ぎて、ピタリ賞が欲しくなったほどだ。


それをミューレさんが何も言わず二人の前を行ったり来たりして聞いて居るから無駄に恐ろしい。

徐々にその沈黙に耐え切れなくなったのか二人とも震えて来ていた。

ミューレさんはまだ何も言わない、今度はベッドに腰掛けたかと思えば徐にマーサから扇子を受け取ると、それで顔を扇ぐでもなく。

そのまま開いて、閉じてを繰り返す。

離れの静寂の中にその音だけが、何度も響く。

そしてそれをどれくらい続けたかはわからないが、たっぷりと時間を使い。


「…………本当に、二人は反省してるのね?」


聞き逃すことも、訊き返すことも、沈黙する事さえも許さない――――――そんな声でミューレさんは扇子を広げ口元を隠し、二人を鋭く睨みつけた。

未だに平伏して顔も伏せていた二人だったが、背筋に薄ら寒いものを感じたのだろう、その身体を跳ねさせた。


「はい!!私たちが愚かでした!!妹の事を階段から蹴り落として囮にしようとするような奴の言う事を聞いていただなんてッ――――――!!ルシードお兄さまに助けて戴かなければ今頃妹はどうなっていたかと考えると――――――…………」


アイリーンの後悔の叫びは最後には涙を含んで、今は平伏しながら泣いていた。

ミモザもあの時の恐怖がフラッシュバックしてきたのか、ガタガタと震えていた。

アルフォンスの野郎………こんな小せぇガキにトラウマ植え付けるとは、何てことしやがる。


「あんな奴のところへ戻りたくないです」


ミモザの声には怒りが滲んでいた。

まぁ当然だよな?下手すりゃ死ぬところだったわけだし?恐怖もあるはずだろう。

けど此処で怒りを滲ませたのは意外だった。

おっとりした見た目なのに意外と芯が強そうだ。

これなら俺があまり心配しなくても大丈夫かもしれねーな。


ミューレさんはパタンと扇子を閉じて、


「それならば此方に居なさい、私の庇護下ならばヘレンさんも口出しできないでしょうし、アルフォンスにだって手出しされないわ。今まで通り私の養女として、ね?」


そんな言葉にがばっと顔を上げた二人は、優しく微笑むミューレさんを見てわんわん泣き出してしまった。

そんな二人をミューレさんは胸に抱きしめて、俺を見た。


「ルシード、この二人と一緒に貴方のお話を聞かせてもらってもいいかしら?」

「はい!勿論です!」


そんな風に訊かれれば、不思議とささくれ立った気分にもならない。

ルシード・エンルムが残した感情も、二人を妹だと認めたのか?何か意外だ。


それから俺は軍学校での事、模擬戦試験大会、みんなとやった試験勉強の話――――とにかく沢山の事をミューレさんに話した。

ミューレさんは模擬戦大会での俺の優勝を本当に喜んでくれて、見に行けなかった事を悔やんでくれたし、アイリーンとミモザも学年五位だった事を言うと目を丸くして拍手して祝福してくれた。


「―――――貴方が楽しそうでなによりだわ。マーサと二人で寂しがってるんじゃないかって心配してたのよ?」


揶揄う様にそう言われ、条件反射のように「そんな事無い!」と否定しそうになったけど、それをグッと呑み込み。

素直な気持ちを吐露することにした。


「…………寂しかったです。楽しかったのは勿論ですけど、母上やマーサ、サリアとエドガが心配でした。自分だけこんなに楽しくて良いのかって思った事だってあります!けど!!自分で決めた道ですから!!」


俺が言い終えるのと同時に、ミューレさんに抱きしめられていた。


「貴方の事を一時でも忘れてしまっていた母を許して、ルシード………愛しい息子。立派な我が子。自分だけが楽しくて良いのかだなんて気にする必要なんてないのよ?母もマーサもサリアもエドガも、今日からはアイリーンとミモザも、皆ルシードの幸福を願っているのだから………」


そしておでこにキスを落とされた。

そんな中おずおずとミモザが手を挙げる。


「ミューレお母さまがルシードお兄さまを忘れていたのは、この薬のせい」


そう言ってミモザは紫色の粉末が包まれた紙を取り出した。

聞き捨てならないとミューレさんは俺を抱いたまま、ミモザに詰め寄る。


「これはヘレンお母様が服用していたものをアルフォンス兄さまがくすねたもので、これを飲んだ相手の思考を一時的に緩慢にするのだそうです。この薬を飲ませることが出来ればミューレお母さまはルシードお兄さまの事を一時的に思い出しにくい状態になるからその間に取り入るようにと言われました」


あー……やっぱり碌な事しやがらねーなアイツ……………。


「ふっ―――――ふふふふふふふふふふふ……………」


あ、ヤベぇ!!この背筋が凍り付くような感覚は………。

今のでミューレさんがマジギレモードに突入しちまった!?

そして最悪のタイミングでマーサが駆けて来て告げる。


「ミューレ奥様、ヘレン奥様が先のアルフォンスの事についての謝罪に訪れております」


俺はこの時のミューレさんの殺意に燃える目を一生忘れねーわ。


「身支度を整えてから参りますと伝え待たせておきなさい!」


凛とした声が響く。

エンルム家最強の虎の尾を踏んだ馬鹿が、まだバレてないと思って白々しく謝罪なんて言ってその牙に殺されにやって来た。


「アイリーン!ミモザ!」

「「イエス!マム!」」


「女の戦いを見せてあげます!よくよく勉強するように!」

「「イエス!マム!」」


「さぁどうしてくれようかしらぁ………‥?よりにもよって私の一番大切なルシードの事を忘れさせてくれたんだものぉ?相応の覚悟は出来てるって事よねぇ?」


久々に見たマジギレモードのミューレさん。

あぁ………エンルム家でこの人だけは絶対に怒らせちゃダメだ。

改めて俺は心に誓った。

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