第45話 怒りの腹パン

模擬戦闘試験大会当日、この学校を取り巻く都市は今まで俺が見た事のない活気に包まれていた。

第一日目の今日は俺たち一年生のトーナメントなんだが…………マジか?

俺たちの前の模擬戦をマリーと観戦してたんだが、何つーか………お遊戯会?のような雰囲気だった。

「たあぁぁぁ」という掛け声と共にとてとてと走って行って、ポカッと叩き泣き出す子ども、魔法を放とうとして暴発させびっくりして泣き出してしまう子。

観客はそれらを微笑ましく見守っていて、俺が想像していたのとは違った雰囲気だった。


「だから言ったでしょ?私たちなら優勝確実なの」


試合を見て呆然とする俺を見て、マリーが何てこと無い様に言った。

オーズさんとのあの予選は何だったんだッ…………!!

観客はそういう子どもたちを見て「勇ましい」だとか、「将来が楽しみだ」とか言ってるんだぜ?どう見ても親の贔屓ひいき目だろ?


「ルシード、解ってると思うけど手加減してあげるのを忘れないようにね?イライラする気持ちもわからないでもないけど………ね?」


そう言ってマリーに手を握られて諭される。

はぁ…………これじゃどっちがガキかわかりゃしねー。

けどオーズさんの教えに反してるようで気が進まねーなぁ………。


「それなりに頑張るよ」


どうせ知り合いは誰も観に来ないんだしな?モチベが上がらない。




俺とマリーのペアは順当に何の不安要素もなく勝ち上がり、あっという間に決勝戦をする事になった。

一回戦で俺とマリーは手加減したんだが、完封・圧勝してしまい。

その後俺たちと当たるペアが次々棄権してしまったからだった。

そりゃまったり勢の集団の中にガチ勢放り込めばこうなるわ!

おかげさまで周囲から「え?アイツら何ガチでやってんの?ww」的な視線がそこら中から飛んでくる。

鬱陶しいったらねーわ、俺のイライラも最高潮だ。

けど此処で暴れてマリーに迷惑かけるわけにはいかねーから大人しくしている。


「これより模擬戦闘試験大会一年生の部、決勝戦を行いまーす!」


審判兼司会を務めるファナル先生が闘技場の真ん中でマイク(の様な物)を持ち、高らかに宣言する。

会場からは割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。


「それでは東門より!シルヴィオ君イザベラさんペアーの入場です!!」


出て来たのはシルヴィオと金髪う〇こだった。

アイツ………イザベラって名前だったのか…………きっとまた忘れるな。

拍手と声援に出迎えられて揃って入場してくる。


「そして西門より!ルシード君マリーツィアさんペアーの入場です!!」


俺たちが紹介された途端、静寂が会場を支配したかのように静まり返る。

何だ?此処はいつからアウェーになったんだ?


「あ、あの………温かい拍手で出迎えてあげて下さい」


ファナル先生の言葉が会場に虚しく響く、マリーがそんな会場に怯えた様に立ち止まる。


「マリー?」

「ごめんなさい、ルシード。今行くから………」


こんな大勢の人たちからこんな対応されりゃ身が竦んで当然だよな?

ただでさえマリーは人見知りで大勢の人の視線に慣れてないってのに………。


「マリー、大丈夫か?無理しなくて良いぞ?」


俺は咄嗟にマリーの肩を抱き、出来るだけ優しく問いかけた。

此処で意地張って出て行ったって、本来の実力を出せるか分からねーしな。

ふと視線を感じてそっちを見れば、シルヴィオの後ろに居るイザベラがいやらしくニタニタと笑っているように見えた。

ほー………まさかこれはテメーの差し金か?


「先生?向こうは怖気づいて出てこられないようですから、ここは私たちの不戦勝ということで――――――………」


ファナル先生もイザベラが仕組んだ事だって解ってる、けど証拠が無いし今あの場で糾弾するわけにもいかねーんだろう、シルヴィオも一緒で二人困った顔でこっちを見ている。


「ルシード、ごめんなさい……………」


泣きそうな声で謝るマリー、とうとう足がガクガクと震え始めている。


「気にすんなって、こんな試合さっさと棄権して気晴らしに町に出てみようぜ?そっちの方がよっぽど楽しそうだ」

「ルシード………」


それは咄嗟に吐いた嘘なんかじゃなくて本心から出た言葉だった。

それでも気を遣われたと思っているのか、マリーはまだ泣きそうで辛そうだ。


「それじゃあ俺はファナル先生に棄権するって伝えてくるけど、無理そうなら控室に戻るのに手を貸そうか?」

「ううん。此処で待ってても良い?」

「おう。じゃあこの後デートだな?」

「もぅ――――――……」


漸く笑ってくれた。

呆れ半分かもしれないけど、あんな奴のした事でマリーが泣きそうになってるのはやっぱ気分が悪いからな。

俺はファナル先生に棄権する意思を伝えるため、闘技場に駆け出した。

丁度、その時だった。

いつもの聞き慣れたメロディーが流れて、何処からか校内放送が流れる。

それを聞いた俺は足を止めて聞く事にした。


「如何なる理由が在ろうとも、私の学校で権力の乱用は許しませんよ~?まさかバレてないとでも思ってるのかしら~?ねえ?イザベラちゃんとそのご両親縁者の方々?」


イザベラの顔が真っ青になる。

馬鹿な奴だな、そんな事を学校の敷地内で相談してたのかよ?そりゃバレるわ。


「ファナル先生~?シルヴィオ君さえ良ければ、決勝戦はイザベラちゃんとルシード君の一騎打ちにしましょう?」

「!!そ、そんなのッ――――――!!」

「棄権は認めないわ~、これは学校の規則に違反した貴女たちへの罰でもあるんですからね~?」


うぉぉ……口調は間延びして穏やかなもんだが、ニーアさんメッチャ怒ってるなぁ。

当然か、あんなふざけたマネをよりによってマリーにしてくれたんだからな?


「勝敗はどうやって決めるんですか?」


俺は何処にでもなく叫んで問いかけた。


「うふふ。勝敗はから安心してね?」


そして放送の終わりを告げるメロディーが響いた。

………どうやら俺の想像以上にニーアさんはお怒りらしい、ニーアさんが判定するって事はニーアさんの気が済むまで俺はイザベラをボコれるって事だろ?

弱い者虐めしてるみたいだが、自業自得でもあるよな?

それはファナル先生もシルヴィオも同じ気持ちだったようで、シルヴィオは早々に闘技場の隅に移動して、ファナル先生も進行し始めた。


「えー。それでは改めまして、一年生決勝戦!始めッ!!」


「お、お待ちくださいファナル先生――――――!!」


イザベラはファナル先生に縋りつこうと完全に余所見をしていた。

うん?もう試合始まってるんだよな?良いんだよな?


ボディがお留守だぜッ!!


俺はそのガラ空き隙だらけの脇腹に向けてちょっと強めに腹パンをした。


「ぐふっ――――――!!」


イザベラはその良い感じに入ったその一撃で白目をむいて崩れ落ちた。

そして沈んだイザベラを中心に地面に水たまりが広がって行った。

あーあ、気ぃ失って漏らしたのか…………。

そんなイザベラの姿はこれ以上無いくらいに屈辱的な敗北の仕方だった。


「勝負あり、ですわね~?イザベラちゃんの御両親様?これに懲りたらくだらないマネはお控えくださいね~?それと対戦相手のルシード君に報復なんて考えない方が良いですよ~?そんな事をすれば困るのは貴方方ですからね~?」


ニーアさんの宣言が鳴り響いても、会場は静寂に包まれていた。


「ルシード君、後は任せて早く退散して?」


ファナル先生に耳打ちされて、俺はマリーの所へ駆け出した。

その背後から、


「一年生の部、優勝はルシード、マリーツィアペア~!!」


優勝?良いのか?そう思いながら俺はマリーの手を引いて会場から逃げ出した。

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