第43話 オーズさんの春?
花丸合格?とりあえず合格は合格だよな?
俺は痛む身体を引き摺って、マリーの所へと向かった。
どこも怪我は無いみたいでよかった、盾になった甲斐があったってもんだ。
マリーは俯いたままへたり込んでいて、動く気配は無い。
やっぱどっか怪我したのか!?
「マリー!?どっか痛むのか!?医務室まで運ぶか?」
心配になって声を掛けると、
「ルシードの方が酷い怪我でしょう!?どうして私の心配するの!?防御魔法使ったのにルシードを守れなかったぁー!!」
悔しそうにそう叫ぶと、地面を拳で叩いた。
どうやらアレを破られたのが相当ショックらしい、けど相手はオーズさんだしなぁ?
「うむ。アレはなかなかに面倒であったからな半分本気で蹴り壊したのである」
オーズさんが気分爽快って顔で頷いている。
半分本気?「俺はまだ50パーセントの力しか出していない」ってか?
戸〇呂かよ。
つーかその威力で放った蹴りを受けてこの程度で済んでるって事は、マリーの防御魔法が無けりゃ俺死んでたんじゃねーの?
それに思い至った時、俺はマリーの手を取って頭を下げた。
「ありがとう。きっとマリーの防御魔法が無かったら今頃死んでたわ」
「私は完全に防ぎたかったの。ルシードにこんなにケガさせるつもりじゃなかった」
それでも悔しさは拭えないのか、マリーにしては珍しくグズっている。
マリーは良い奴だな、自慢の魔法が破られて悔しいって時に俺の怪我の心配までしてくれるんだ。
俺のブレーンがマリーで良かった。
「俺は慣れてるし前衛だから良いんだよ、それよりマリーは本当にどこも痛くないか?前衛が無事で後衛が大けがしたなんて前衛の恥だからな」
「その通りであるッ!!」
うおぉ!?びっくりした…………いきなりデカい声出さないでくれよ。
びっくりして飛び跳ねた時に身体から”ミシィ”って聞こえたんだけど?
そんな俺の抗議の視線に構わず、オーズさんは俺たち二人の頭をガシガシと撫でた。
「互いが互いを認め合い、そして連携する事がこの試験で最も重要視される部分である。そして二人はそれを遺憾なく発揮してくれたのである、故に文句なしの花丸合格である!!」
「「ありがとうございます……………」」
俺とマリーはオーズさんにそうやって褒められるのが何だか照れくさくて、二人顔を見合わせて笑った。
その後、俺とマリーはオーズさんの肩に担がれて保健室へ運ばれた。
そこで――――――、
「オーズ先生ッ!?初等部一年生の子たちを相手に何てことしてるんですかッ!!」
俺とマリーを見るなり血相を変えてベッドに寝かせてくれたこの学校の保健の先生リズベットさんが、運んで来たオーズさんを床に正座させて説教していた。
多少やり過ぎた事を自覚していたのか、オーズさんはその場で大人しく正座して粛々とリズベット先生の説教を聴いている。
「幾ら試験だからってものには限度というものがあります!教育熱心なのは大変素晴らしいですがこの子たちはまだ無茶をするには早過ぎます!!」
普段は優しく、温厚な先生として――――――そしてこの学校一の爆乳の先生として有名なリズベット先生、プンプン怒ってる間も揺れる揺れる。
オーズさんも説教されてるのでリズベット先生から目を逸らすわけにもいかず、若干そのたわわに揺れるものから目を逸らす紳士ぶりを発揮した。
だが――――――、
「オーズ先生ッ!!きちんと聞いていますかッ!?目を逸らさないでくださいッ!!」
グイっとオーズさんの頭を両手で挟み込んで無理矢理リズベット先生の方を向かせられていた。
うわーありゃ生殺しだな………まぁオーズさんは紳士だからガン見する事も無いだろうけど――――――なんて他人事のように同情していると、
「ルシード、回復しようか?リズベット先生はまだまだかかるみたいだし?」
魔力回復ポーションを飲んだマリーが俺のベッドの傍らに来て問いかけてくる。
「いやマリーだってオーズさんの一撃でごっそり魔力削られてるはずだから無理すんなって、気持ちだけ貰っとくよ。ありがとな?」
「当然でしょ?私たちはペアで、私はルシードのブレーンなんだから」
マリーにしては珍しく勝気に笑う、それが妙に似合っていて俺も笑っちまった。
「――――――とにかく、オーズ先生は教育熱心なのもほどほどにしてくださいね?」
そう説教を締めくくって白衣を翻しこっちに来たリズベット先生、ファナル先生と同い年くらいに見える彼女は肩まであるふわったした金髪、たれ目の碧眼、左目の下にある泣き黒子にまで色気を感じる。一部生徒からは”女神”と崇拝されているのも頷ける美貌の持ち主だった。
そのままリズベット先生は俺と目線の高さを合わせる様に屈んで、
「はじめまして、私がこの保健室を管理しているリズベットよ。すぐに治療するからね…………」
俺と目線の高さを合わせてにっこりと微笑んだ。
その魅力的な笑顔もさることながら、視線はついつい胸の方を見てしまいそうになりグッと堪える。
自己紹介してくれてるのに、そんなとこ見るのは失礼だよな。
俺もオーズさんの弟子ならば、紳士を目指さねーと――――――………とは言うもののその圧倒的ボリュームを誇る胸の存在感は恐ろしいくらいだった。
「はじめまして、ルシードです。治癒の方宜しくお願いします」
俺は早々と自己紹介を済ませて頭を下げる、そうする事で強制的にリズベット先生を見ないようにした。
そしてそのまま何事もなく治癒魔法を受け、保健室から出る時に、
「オーズ先生、お暇があれば教育について語り合いましょう?」
これにオーズさんは笑顔で応じる。
「うむ、それではファナル先生や他の先生方も誘って――――――……」
「いいえ。私とオーズ先生の二人っきりが良いです、ダメですか?」
……………マジか。リズベット先生ってオーズさんの事が気になってるのか?
「う、うむ………それはまたいずれ……………」
「オーズさん!罰点!!」
言葉を濁すオーズさんの弁慶の泣き所を俺はおもいっきり蹴飛ばした。
油断していたのか、オーズさんはその場にしゃがみ込んで俺が蹴った場所を抑えている。
「ルシード、なにするのである!」
「なにするのである!じゃないですよ!!女の人が勇気出して誘ってるんですよ?男見せなくてどうするんですか!?意中の人がいるなら別ですけど、その場合はきっぱりと断るべきでしょう!?」
「しかしだな、本当に教育論を語るだけやも…………」
「それはそれで良いじゃないですか、オーズさんも語明かすとかそういうの好きでしょう?それともリズベット先生はオーズさんの好みではありませんか?」
「それは無いのである!リズベット先生は素晴らしい女性だと思うのである!!だがしかし、うぬぅ…………」
しゃがんだオーズさんの肩を組み、リズベット先生には聞こえないように相談する。
もしかしたら向こうにその気は無くて、純粋に教育について語りたいだけなのかもしれないけどさ、今のオーズさんの態度にはヘタレの影が見えた。
「オーズさんは次の休みはいつですか?」
「…………全学年の試験が終わった後である」
という事は六日後か、俺個人のトレーニングもしてもらってるしハードなスケジュールしてんなぁ、申し訳ねーわ。
だからこそ、オーズさん春が来るかもしれねーこのチャンスを逃さねー。
「リズベット先生、オーズさんは六日後にお休みだそうですがその日は如何ですか?」
「ルシードッ!?」
俺はオーズさんから離れ、リズベット先生の予定を聞いてみた。
すると途端にぱあっと眩しい笑顔を見せて、
「えぇ、問題ありません。休暇を取りますので楽しみにしております」
見た男全員を勘違いさせてしまうようなその表情はとても嬉しそうで、魅力的に見えた。
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