第13話 茶番劇への招待状
俺がアルフォンスをボコしたのも一因みたいだが、一番の理由としては自分の将来の為に謝っておきたいって事か。
いや………もしかすると本人は謝るつもりなんて無くて、ブルカノン家に無理矢理謝っておけと命令されたくさいな……………。
何となく、そう間違ってはいない気がする。
「ミレイユ・ブルカノンの謝罪を受けなくて良いのでしょうか?向こうは”謝ろうとしているのに、エンルム家は会ってもくれない!!”とか言い出しませんか?」
俺は向こうが言い出しそうな事がパッと思い付いたので聞いてみる事にした。
「それなら心配無用である。ミレイユ・ブルカノンがそう喚き散らしたところで、周囲の者たちは”当たり前だろ”ぐらいにしか思わないのである」
ほほぅ?ミレイユ・ブルカノンの対応はそんなにマズい事だったのか。
まぁ俺からしてもアレは無い、悪意しか感じられないからな。
なぜあんな断り方をしたのか?について、手紙では「取り巻きの一人が勝手に手紙を抜き取ってあんなことをした」と書かれていた。
そんなの信じられると思うか?俺だったら信じない。
「取り巻きの一人が仕出かした事ならば、その取り巻きの者の実名を記載しておくか、連名で謝罪文を寄越すか、我々に本人を差し出すかしなければいけないところだろうが、それが一切無い所を見ると急遽それらしい理由をでっち上げたと見るべきだろうな」
ロイさんが神妙な面持ちで、手紙についてダメ出しした。
おいおいブルカノン家さんよ?仮にも上級貴族ならその辺のマナーだって知ってなきゃだろ?おたくの寄越した手紙、全員から白い目で見られてるぞ?
「坊ちゃま?如何なさいました?」
サリアが俺の何とも言えない表情に気が付いた、俺の事を嫌ってても何だかんだ一番に気が付いてくれるサリアは本当にメイドの鑑だと尊敬する。
「もうあの学院には二度と関わらないから、謝罪を受けても良いと思っただけだよ」
だから俺も、何となく思っていたことを素直に白状する。
俺はすぐに転校するんだから、どうせ関りなんて無くなるだろ?
向こうだって謝罪した事実さえあれば俺に二度と関わってこようとはしなくなるだろうからな。
生前にも似たような奴らが居たが、所詮そういう連中の対応なんてそんなもんだ。
「なりません!!もし仮にブルカノン家がルシード坊ちゃまとの縁談を持ちかけて来たらどうするのです!?」
マーサが唾を沢山飛散させて、怒りを滲ませて叫んだ。
この人もこの人で俺の事嫌いなんだろうけど、仕事上では真面目な事を言う人だ。
そしてマーサのその指摘にロイさんとミューレさんがハッとしたように顔を見合わせると、
「おそらくブルカノンの狙いはそれだ」
「ええ、間違いないでしょうね」
二人が力強くその可能性を支持した。
「中級、下級の貴族と利の無い縁を結ぶよりも、同じ上級貴族であるエンルム家に娘を嫁がせるつもりであるか?それはあまりにも虫の良過ぎる話である」
「向こうはそれも重々承知の上なのでしょうな。それならばこの
ロイさんの説明に、俺を除いた全員が一斉に苦々しいものを口に含んだような何とも言えない表情を浮かべていた。
俺一人意味が解らず、きょろきょろとみんなを見ていると、
「ルシードにはまだ難しいかもしれぬが説明が必要であるか?」
オーズさんが説明を買って出てくれた。
今聞いても正直判らねーかもだけど、今この場で俺だけ知らないのは何か嫌だった。
オーズさんに大きく頷いて見せると、説明してくれた。
「まだルシードには早いであるが、貴族同士の結婚というものには色々と金がかかるのである。例えば、ルシードがサリアを妻に娶りたいと言ったとするのである、そして双方の両親が納得し、婚約が成立した場合、エンルム家からサリアの家に相応の額が結納として渡されることになるのである。
だが今回のブルカノン家の場合、向こうから貰ってくれと暗にであるが打診されている事からエンルム家は結納を渡す必要が無いのである」
へー……………何となくだが分かった。
それでサリア?何でじーっと俺の事を見てくるんだ?
マーサも、サリアの前に立って俺を威嚇しなくても例え話だろうがよ?
俺は気を取り直す為にわざとらしく咳払いをして、
「先ほどの父上の言葉も何となく理解できました、説明ありがとうございます」
「うむ、構わぬのである」
真っ白い歯を見せて笑うオーズさんに、俺も笑い返して思考する。
ミレイユ・ブルカノンはもう既に家からも見限られてるらしい、せめて少しでも利がある縁を望んだ結果、この茶番への招待状が届いたわけか。
ミレイユ・ブルカノンがそれを知らされてるのかいないのかも気になるな。
知らされていた場合、ルシードに詫びの一つでも言わせられるかもしれない。
もしも知らされてなくてまた同じような事仕出かした時は、そん時ゃ俺はもう知らん!!とか言って何言って来てもガン無視すれば良い。
元々アイツに対する情なんて最初っから俺にはねーんだし?言いたいこと言わせてもらって、もう居ないルシードの事に身体を貰った俺がけじめをつけてやるか。
最近になってそう思えるようになった。
「やっぱりミレイユ・ブルカノンの謝罪を受けたいです。僕自身、けじめをつけなければ転校してからも何だか気分が悪いですから」
みんなの前でルシードのけじめをつける事を宣言した。
俺の意志を尊重してくれたみんなは、何も言わずに力強く頷いてくれた。
まったく、この人たち頼もし過ぎるわ。
そしてその後、何度か日程の調整を手紙で打ち合わせした後、いよいよミレイユ・ブルカノンがエンルム家に謝罪に訪れる日になった。
朝からきっちりとした正装をサリアとマーサに手伝ってもらって着こむ、何つーか俺でさえこういう格好すると身が引き締まる気がする。
何処からどう見ても良いとこのボンボンにしか見えねー、まあ実際そうなんだが。
出来上がった俺を見てサリアがじーっと見つめてくる。
何だ?アレか?こういう時お決まりの「馬子にも衣裳」とか言うつもりか?
そもそもその言い回し、異世界にあんのか?
「サリア、何処かおかしなところでもある?」
あまりにもじーっと見てくるもんだからちょっと心配になって訊いてみる。
サリアは俺の言葉にハッとしたように慌てて頭を振って否定する。
「そっか、良かった」
ビビらせんなよな…………これからミレイユ・ブルカノンとの因縁にけじめをつけに行くってのに、何かマズい所があればこっちがナメられるからな。
そして俺はサリアを伴って部屋を後にした。
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