第8話 そこだけは馬鹿にすんな!!

オーズさんの熱血指導(流血でも間違いじゃない)が始まってから一週間が過ぎた。

今日はエンルム家に医者が来て、俺の診察をするそうなので早朝森ダッシュは中止となった。

もうどこも異常なんて無い健康体だけど、仮にも上級貴族の家の子どもだから万が一があっちゃいけないんだと。

そう言われて気付いたけど、俺ってまだ一応療養中の身だっけ?

あまりにもオーズさんがしれっと森に置き去りにしたりするから、忘れてたわ。



「……………どこも異常は無いようですな。明日から学院に通っても問題無いでしょう」


エンルム家の主治医、ス〇ムダンクの安〇先生に激似の人が俺の診察をした後、オーズさんに診断結果を伝えた。

親父さんは忙しくて立ち会えない、ミューレさんは離れから出られないので立会人はオーズさんとサリアだった。


「先生、ありがとうございました」


サリアが深々と一礼すると、先生は穏やかに笑った。


「ほっほっほ、ルシード坊ちゃんは随分と大人しくなったので、今日はとても診察し易かったですよ」


……………主治医にまで迷惑かけてたのかよあのクソガキ。


俺、オーズさん、サリアでもう一度御礼を言って、主治医の先生は帰って行った。


「明日から学院に通う許可は下りたであるが……………ルシードよ、どうするのである?」


オーズさんにしては珍しく言葉に詰まりながら、俺の顔色を窺う様に言って来た。

きっとルシードの事情を知っていて、オーズさんなりに気を遣ってくれてるんだろうな。


「どうするって……………行きますよ?ずる休みしても良いんですか?」


だからこそ俺は行く意思を示す、今度は真面目に学校行くって決めてるんだ。


「吾輩は今回のことに関して伝え聞いているだけであるが…………転校を選択肢に入れても良いのではないかと思っているのである」


本当に珍しい。

いつもの超筋肉論はどうした?心なしか身体もひとまわり小さく見えるぞ?


「私もこの筋に…………――――――オーズ様と同意見です。無理に今の学院に通わずとも宜しいのではないでしょうか?」


サリア、今オーズさんの事”筋肉”って呼ぼうとしただろ?

気持ちは解らんでもない、俺も何度もうっかりそう呼びそうになったからな。

けどサリアにまでそう言われるとは思ってなかったな、てっきり俺の自業自得なんだからって事で無関心なのかと思ってた。


「二人ともありがとう、でも僕が蒔いてしまった種だから……………」


俺がそう言うと、二人はそれ以上何も言わないでくれた。







そして翌日、俺にとっては初登校の日となった。

早朝森ダッシュをしなくて良くなった代わりに、オーズさんと組み手をして、中庭を時間ギリギリまでランニングさせられた後、サリアに風呂へ(文字通り)放り込まれ朝食、身嗜みを整えられて登校となった。

サリアにはすっかり傍仕えの仕事をされてしまってるけど、おかげさまで遅刻せずに済みそうだ。

ホント、サリアには感謝しかねーわ。



「どうして僕がお前なんかと一緒に登校しなきゃいけないんだ……………」


学院へと向かうエンルム家の馬車の中、アルフォンスにネチネチと嫌味を言われて朝からやる気が萎える萎える。

けどまあ学院に着いたらこんなもんじゃないんだよな。

しっかり覚悟決めとかねーと………………今度は真面目に学校に通う!!


――――――……………………帰りてぇ………。

馬車から一歩降りた瞬間、俺に冷たい視線が突き刺さった。

それも一本二本じゃない、もうメッタ刺しだ。


エンルム家の馬車から降りたアルフォンスににこやかに挨拶をしていた名も知らぬ同い年くらいの令嬢たちに「なんで居るの?」的なゴミを見る様な目で見られた。

誰だよ今度は真面目にとか言った奴、生憎だが俺はそんな目で見られて性的興奮を覚えれる様な奴じゃねーんだよ。

それでも一応俺も「おはよう」と言ったのだが、当然のように無視された。

アルフォンスは足早に俺から離れて行ってしまい、ルシードの記憶を頼りに教室まで向かっている間も、周囲の人間からこちらに向けられる視線は好意的なものじゃなく好奇の目だった。

時折聞こえてくる嘲笑に混じって、


「今日からかよ」

「よく来れるよな」

「恥ずかしくないのかしら?」


そんな言葉が聞こえて来てしまう。

泣くんじゃねーぞ?ルシード・エンルム、今泣いたら余計に嗤われるだけだからな。

今にも目に溜まりそうになる涙をグッと堪え、何とか辿り着いた教室に逃げ込むようにして入った瞬間、静まり返る教室。

一斉に俺に視線が向けられ、それは俺がこの教室に入る事を拒絶していた。

足が止まりそうになるが、此処で止まってしまったらもう二度と動けなくなるような気がして、俺は一気に自分の席まで辿り着くとそこには――――――……。


”直接告白する度胸も無い者に、興味はありません”と書かれた紙が貼りつけられていた。


俺が足を止めると、途端に周りからくすくすと嗤う声が聞こえてくる。

見れば同じクラスのアルフォンスも友人らとニヤニヤと嗤っていた。


ああそうかよ、お前らはルシードの想いを馬鹿にするんだな?


これは俺に対する宣戦布告だと思ってファイナルアンサー?


コイツが馬鹿な事をしたのは知ってる、けどな?それは、そこだけは馬鹿にするんじゃねえよ!!


俺は右手に炎を宿し、机を思いっきり殴りつけた。

轟音と共に弾け飛ぶ机、木製のそれは細かな破片となって周囲に飛んでいき、周囲で嘲り嗤っていた連中の何人かに突き刺さったのか悲鳴が聞こえる。


「さっきの紙貼った奴、名乗り出ろ」


俺がこんな事を言ったところで素直に名乗り出る奴が居ないのは解ってる。

けどな?人の目ってのは口よりも語る時があるんだぜ?

周囲の生徒、それまで無関心を装っていた連中の視線が一点に向けられる。

アルフォンスの隣に居た生徒だ、アルフォンスも知ってて止めなかったな?後で泣かす。


俺はまだ燃え盛る右手をそのままにして、ゆっくりとそいつに近付いて行く。

自分に向かって来ていると認識したそいつは慌てて逃げ出そうとするが、逃がすかよ。


一気に距離を詰め、その鼻っ柱に拳を突き刺してやった。


殴り飛ばされた男子生徒は机を巻き込み吹き飛んだ。

意識が飛んだ様でピクリとも動かない。

驚いて動けないのかアルフォンスが目を丸くしているのが見えた。

オイ兄上さんよ?お前は逃げなくていいのか?ま、逃がしゃしねーがな!!

俺と視線が合うとアルフォンスは、


「ま、待て、こんな事して、先生に言いつけ――――――……」


下らねーことしか言わなさそうだったので問答無用でさっきの奴と同じように、けど魔法は解除した拳で殴り飛ばした。


「先生に言いつける?何言ってんだ?俺だってなぁ……………穏便に済ますつもりだったんだよ」


まだ意識が有るのか怯えるアルフォンスに俺は馬乗りになって拳をアルフォンスの顔面に突き立てる。


「お前が教えたんだろ?俺が今日此処に来る事、そんで下らねー紙を貼り付ける事思い付いたんだろ?なあ?何とか言ってみろよ?」


俺はそう問いかけながらもずっとアルフォンスを殴り続ける。

返事も反撃もさせるつもりはない。

ずっと俺のターンだ。


騒ぎを聞きつけた教師に止められるまで、俺はアルフォンスを殴り続けた。

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