第995話  ディスりすぎだろ!

 くっ…俺の幼い頃のエッチな記憶は、消す事が出来ないんだ!

 変身前の志穂〇悦子さんのあれやこれやは、幼い俺の心を強烈に震えさせたのだ。

 毎回毎回、戦うちょっとエッチなヒロインは、俺だけでなく多くの幼い少年を虜にしたはずである。

 幼い頃の、あのはらはらどきどきの記憶を消す事なんて出来ない!

 例え恥ずかしい記憶であっても、消すなんて出来っこない!

 こうなったら、一思いに俺の息の根を止めてくれ! 

 全員に俺の恥ずかしい思い出がばれてしまったんだ、もうお婿に…は行ったけど…それでも…それでも…!


「じゃから…もう、妄想は止めい!」

 ちょっとお怒り気味のボーディに怒鳴りつけられた。

「も、妄想なんて…」

「いえ、トールヴァルド様。全部声に出ておりましたよ。幼い頃の記憶とか何とか」

 表情が全く無いモフリーナの冷たい視線が、俺のピュアなハートにグサグサと突き刺さった。

「…全部声に出てましたか?」

 俺が周りを見回しながらそう問いかけると、全員が黙って大きく深く頷いた。

「もう、完全に癖になってますね」

 少しだけ同情的な目をしたユズキの言葉に、またもや誰もが大きく頷く。

 そうですか、俺はそんなおかしな癖を身に付けてしまっていたのですか…そうですか…。

 

「まあ、お主のアホな妄想の事はどうでもよい」

 どうでも良いって…ボーディ酷い…。

「確かにアホが妄想癖を拗らせるほど放置しておった、妾達にも多少は責任があるじゃろう」

 アホって…妄想癖を拗らせるって…。

「とはいえ、こ奴の妄想癖は元からなのじゃが」

 元からって、俺をディスりすぎだろ!

「とにかく、長い時間拘束してしまって申し訳なかった。すぐに邸へと送ろうぞ。おい、お主は何か言い残す事はあるかや?」

 まるで、処刑人が死刑執行前の罪人に尋ねる様な言い方だな…。

 言い残す事…う~~ん…あ、そうだ!

「例の土地に住んでる人達とコンタクトできるか?」

「えっと、はい。それは可能だと思いますが、すぐには難しいかと」

 俺の問いにモフリーナが応えてくれた。

 すぐには…ってのは、ちょっと都合いいかな。

「それじゃ、何とか接触して欲しい。そんで、うちの父さんと騎士や兵士達を受け入れてもらえないだろうか? 無論、危害も迷惑も一切加えない。食料その他の物資は持参するし、必要であれば援助もしよう」

「それは可能じゃと思うが…何故じゃ?」

 主語が無いから、その問いかけの真意を測りかねるが、

「ああ、そのぉ…今は父さんが連れて来た騎士や兵士って、毎日の様にモフリーナのダンジョン攻略に勤しんでるだろ? そろそろ本来の目的の為に、あの地へと送り出したいんだよ。誰も死なせたくないけど、ある程度は彼等にも何らかの手柄も必要だしな。確か北の方のでかい湖の近くに人が住んでるとか言ってたじゃないか。だから、取りあえずその近くを野営地として、湖でも調べさせようかと」

 まあ、何も分からないとは思うけどさ。湖の測量でも出来たら上出来じゃね?

「それで、現地の民に援助もするのかや?」

「まあ、迷惑かけるかもしれないから迷惑料代わりにね。何か不足している物…食料でも衣服でも何でもいいけど、何か欲しがってたりするなら出来る限りの援助は約束する。継続的な援助は、まだあの地の問題が解決してないから難しいけど…」

 完全に問題解決したのならば、精霊建設さんにあの巨大な連峰をトンネルでぶち抜いてもらうって手もある。

 そうすりゃ継続的な援助どころか、色々と交流も出来るかもしれない。

「それでお主に利はあるのかや?」

「まあ、損して得を取れって言葉もあるし、別に商人みたいに利だけ求めてるわけじゃないからね」

 最終的に交易まで行けば、きっと互いに利も出るんじゃないかな。

 そこまで行かなくとも、危険な地の調査に向かった部隊を指揮したって功績が父さんには付くだろうし、騎士や兵士さん達だって同じように何らかの褒章があるんじゃないかな。

 んで、誰一人欠ける事なく生きて戻れば、それをサポートした俺と加護を与えた聖なるネス様の名声も高まるってもんだ。

 別にネスを持ち上げて宗教の立ち上げなんて考えていないし、今回の軍の派遣で儲ける気も全然ない。

 ただ、折角自ら死地へと赴こうとしてくれた人達に、何か良い目も見せてあげたいし、現地の人が協力してくれるのであれば、物資の援助ぐらいは必要経費なんじゃないかな。

「ふむ…わかった。モフリーナの言う通り、少しばかり時間はかかるかもしれんが、何とか接触を図ろう」

 そう言って、ボーディはニヤリと笑った。

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