第970話  例外中の例外

「平たく言うとじゃな…お主と同じ記憶を、ひよこ達も持っているという事じゃ」

「おな…じ?」

 そんな馬鹿な…。

「そう思うじゃろうが、これは事実じゃ。じゃから、先程お主の記憶にかんして色々と質問したのじゃ」

 …つまり、妻とか子供の名前とか…?

「とはいっても、完全に同じ記憶では無い。例えば、確かお主は、前世で❝からて❞とかいう近接戦闘の技を生涯磨いておったと言うておったじゃろ?」

 えっと…そんな話したことあったっけかなあ? 何かの話のついでに話したかもしれんけど、

「ああ、それがどうかしたのか?」

「ひよこ達は、❝けんどう❞とか❝じゅうどう❞とか❝けんぽう❞とか❝かどう❞とか…あとは何じゃったかのぉ?」

 ボーディが首を捻りながら、モフリーナにたずねると、

「確か、❝きゅうどう❞と❝あいきどう❞とか❝さどう❞とか言ってたと思います」

 そう答えた。

 俺の前世では、ごくありふれた…いや、あんまり周りにやってる奴は居なかったけど、よく聞いた名前だ。

 華道だけは、何か違う気がするけど…。

「そうじゃったな。あとは、妻との年齢差や子供の性別や年齢なども幾分違っておった。しかし…じゃ」

 そこまで違ったら、同じ記憶とは言えない気がするけど…じゃ?

「全員の名前が、大河芳樹なのじゃ」

「ど、同姓同名…では?」

 ど、どうせいっちゅーねん…って、ギャグに走る余裕はねぇな…。

「いや、それはない。何せ、全員が別の次元にある地球…つまり、並行世界の住人なのじゃからな」

「別次元…並行…え?」

 まさかのファンタジー設定なのか?

「そうじゃ、全員が別々の地球の日本で生まれ育った記憶を持っている事が判ったのじゃ。とは言っても、もふりんやカジマギーが調べた結果では無いぞよ? ひよこ達が長い年月を掛けてめぐり逢い、そして話をした結果、分かった事らしいのじゃ」

 ひよこが…それぞれ…。

「まあ、混乱するのも分かるが、取りあえず聞くのじゃ」

「お、おう…」

 聞くしか出来ないけど。


 そして黙ってボーディの話をじっと聞いた。


 ひよこ達は、それぞれが別の次元に存在する地球の日本で生まれ育った。

 結婚し、子供も授かり、そして離婚。

 やがて幼い時から打ち込んでいた何かにまたのめり込み、やがて仕事中に死亡。

 魂は輪廻転生システムにより、別の肉体に宿ったらしいのだが、記憶が戻ったのは全員が5歳ぐらいの時だと言う。

 魔法が存在しない世界で魔法を使えたという事に、最初ははしゃいだそうだ。

 チート能力に大喜びし、それぞれの世界で歴史にも残る程に大暴れしたそうだが、やがて何か大きな違和感に気付いた。

 自分という存在が、前世の記憶が、そして己その物の存在が、何かちぐはぐな感覚だったという。

 その感覚の正体を突き止めるべく、1人誰も居ない人里離れた山奥で、何年も思考に耽ったらしい。

 そして、とうとう前世よりももっと前の記憶にたどり着いた

 それが、宇宙開闢の時の記憶であったそうだ。

 元の自分に覚醒したひよこは、全宇宙・全次元・全時間軸の狭間を漂っていた❝何❞かの能力にも限定的に目覚めた。

 きっと己と同じちぎれた欠片となって、この宇宙のどこなの次元、時間軸を漂っている仲間が存在を探しに旅立った。

 そして、長い年月の旅の果て、彼等は出会う事になった。

 何故、全員が多次元の平行世界の地球で、同じ名前の大河芳樹という名前で生活していたのか、それは分らないそうだ。

 ただ一つ分かっている事はどの次元においても、全く同じ時間、同じタイミングで、まったく同じ器として生まれた存在だったから…としか言えないそうだ。

 この宇宙には、無数の次元が存在しているのだが、地球と呼称される惑星はそう多くないそうだ。

 その各地球の日本に、大河芳樹は誕生し、そして莫大なエネルギーの欠片を内包したまま死んで、転生した・・・。

 

「そして、彼奴等が今まで遭遇した事のない、例外中の例外がお主なのじゃ」

「え、でも…ほぼ俺と同じなんじゃねーの? どこら辺が例外なんだ?」

 もう、ひよこと俺が一緒という部分は受け入れよう。

 だけど、何で俺だけが例外なんだ?

「簡単な事じゃ。彼奴等とお主の大きな違い…分からぬか?」

 そんなに目を細めても答えは出ませんけよ、ボーディさん。

「それはな…転生に管理局長が直接転生に絡み、胎児の頃から意識と記憶を持ち、未だに覚醒しておらぬという点じゃ」

 あっ!

「分かるか? 全員、基本的に普通に輪廻転生システムで転生したのじゃ。しかし、お主だけは局長によってこの世界のトールヴァルド・デ・アルテアンという肉体に直接押し込められたのじゃよ」

 言われてみれば…確かに…。

「お主には、何かあるのやもしれぬ」

 そう独り言のように呟くボーディの視線は、俺の中身まで見通す様な視線だった。

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