第968話 どうなってんの?
「あ奴はな、あ奴にとって都合の良い器を求めていたのじゃ」
「うつわ…?」
急に何を言い出すんだ?
「お主が前世で死んでからこの世界に転生するまで、どのぐらいの時が経ったか知っておるかや?」
「あ、ああ…確かサラが言うには、100年以上の時が過ぎているとか、昔に聞いた気が…」
確かそう言ってたはず…。
「トールヴァルド様…非常に申し上げにくいのですが、前世で亡くなってからこの世界に転生するのに際し、輪廻転生システムではタイムラグなど、基本的に存在しないのです」
補足説明なのか、モフリーナが口を挟んだが…どゆこと?
もう、何か聞けば聞くほどに混乱するんだけど…。
「良いですか、輪廻転生システムにおいて、魂のエネルギーを次の器に転生させるのに、それほどの時間がかかってしまうと言う事は、その間はこの宇宙において魂のエネルギーが消えてしまっているという事です。簡単に言えば、この宇宙の全次元・全空間において、エネルギーバランスが変わってしまう事を意味します」
「えっと、モフリーナの言ってる事って、例えば…質量保存の法則的な?」
かなりスケール的にでっかい話だけど…。
「ええ、それに近いです。一般的に、亡くなった方の魂のエネルギーは、輪廻転生システムによって即座に別の器に移されるのです。例外として、以前にもお話しましたが、自ら業から解脱する事によって、肉体を捨て去った者に関しては、私達の所属する解放魂魄統轄庁の管轄となりますので、その者が保有しているエネルギー相当分を輪廻転生システムを通じて新たな器に宿らせてバランスを取っているのです」
悟りだったっけ? え、解放魂魄統轄庁ってバランス取ってんの?
「うむ、モフリーナの言う通りじゃ。お主の記憶の中にある‶らのべ”とやらでは、過去や未来に転生した者の話もあったであろうが、この宇宙でそれはあり得ないのじゃ。っという事は…その100年程の間、お主の魂は何処を彷徨っておったのじゃ?」
現在〇何処を~♪ 彷徨い行~〇の♪ って感じ? ってボケてる場合じゃねえよ!
「よく昔に転生して、建国の父となったとか、魔王を倒したとかって話は…嘘なのか、ボーディ?」
「妾達が知覚できる、この宇宙の全次元・全空間ではあり得ぬな」
がーーーーん!
「つまり、もしもお主の転生の話が本当であれば、あ奴はお主の魂のエネルギーを何かに閉じ込めて隠し、解放魂魄統轄庁すらエネルギー量の変化に気付かれぬ様に欺いておったという事になる。この全宇宙において、何千兆もの生命が輝きを失い、新たな輝きを放つ100年もの間をのぉ」
もうスケールが壮大過ぎて理解が追い付かん…。
「如何なる手段を用いても、そもそもエネルギー総量が宇宙開闢の時より観測しておる我々を欺く事は出来ぬ」
え、出来無いの? んじゃ、俺って一体…。
「そこで、やっとお主の記憶の欠落とひよこに繋がるのじゃ」
やっとその説明かよ…。
「つまりじゃな…そもそも、お主の前世は大河芳樹では無い」
「そんな事あるか! 確かに俺の前世は大河芳樹だったぞ!」
これだけは、間違いなくはっきりしてる!
「いや、残念ながら違うのじゃ。もしもお主が転生者であるのならば、お主の魂が100年も彷徨っている事は無いのじゃ」
無いのじゃって言われても…。
「だからシステムバグの所為で…」
「トールヴァルド様、そんなバグは一度たりとも起こって居ないのです。我々は、貴方が記憶を持ったまま転生したとばかり思い込んでいましたが、亡くなってから100年経っているという事は知りませんでした。なので、『記憶の浄化が出来ていない』というバグが起きたのだと思っておりました。しかし、実際に貴方が認識していたバグの内容は我々が認識しているそれとはズレていた…」
モフリーナの説明は分り易い…。
じゃなくて、俺とダンジョンマスターズ(解放魂魄統轄庁?)で、システムバグという事象の認識にズレがあったから、今まで真相にたどり着かなかったって事か?
「んじゃ俺の前世って、どうなってんの?」
いや、前世は無い? でも肝心な所を覚えていないが、記憶はある?
え、またまた、どゆこと??
「うむ、そこじゃの。お主の前世は、宇宙開闢時からその器に宿るまで、ずっと休眠中であったエネルギー体の一部じゃ」
…とうとう、俺ってば前世が人間でもなくなっちゃったの?
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