第940話 秘密への足掛かり
さて、そんな人魚さん達の狂乱の宴があった頃、王国の北にある山脈の向こうでも動きがあった…らしい。
どこかにある部屋の中で、ダンジョンマスター達はソファーで寛いでいた。
「モフリーナよ…この反応は…」
ボーディの脳裏に何かが反応した。
「え、ちょっと待って下さ…ああ、なるほど、これは…」
ボーディの声を耳にしたモフリーナは、少しだけ目を閉じた後、そう呟く。
「…んぉ…」
ボーディとモフリーナが手にしたカップをテーブルに置きながら、少し驚いた様な声をあげて身じろぎした。
そして、その微妙な動きは、モフリーナの太ももを枕に寝ていたモフレンダにも伝わった様で、うたた寝から目覚めた。
「消えたな」
「ええ、消えましたね」
ボーディとモフリーナが驚きの声をあげる中、
「んぁ~…おやすみぃ…」
モフレンダだけは、また目を閉じてモフリーナの太ももの上でもぞもぞといい位置を探りつつ頭を乗せ直した。
「もう…この子ったら…」
そんなモフレンダの頭を優しく撫ぜていた優しい顔から一転し、真剣な顔になったモフリーナがボーディに向かい言葉を続けた。
「送り込んだゴブリンの一団が消えましたね、例の魔法陣で」
「うむ。妾が送り込んだコボルト達もじゃ」
ボーディも真剣な表情でそれに答えた。
彼女達は、例の土地のダンジョン化と並行して調査を行っていたのだが、どうにも手詰まりを感じていたので、自らのダンジョンからモンスターを何体か送りこみ、調査を続けていたのだった。
送り込んだモンスター達は日々歩き回り、様々な角度から調査を続けていた。
例の魔法陣を除いて。
調査は遅々として進まなかった。
魔法陣に近づかぬ様にしながらの調査では、ダンジョン化の際に発見したひよこすらモンスター達には見つける事が出来ない。
なので、思い切って本日例の魔法陣の調査のため、モンスター達を魔法陣へと接近させてみたのだ。
「じゃが、魔法陣の概要が分かったのは上出来じゃろう」
ボーディがそう言うと、
「ええ、あのひよこも姿を見せましたし、やはり間違いなさそうですね」
モフレンダも小さく頷いた。
彼女達の命令で魔法陣の調査に向かったモンスター達は、魔法陣の周囲を注意深く調査した。
だが、外から見ているだけでは何の情報も得られなかったため、思い切って2人は送り込んでいたモンスター達に魔法陣を多方面かつ時間差をつけて踏ませる事にしたのだ。
結果は、見事にあの地からのモンスターの消失。
しかし、何体かのモンスターは、魔法陣を踏んだ瞬間に見ていた。
あのひよこを。
ひよこを見たモンスターも、見なかったモンスターも、等しく魔法陣によりどこかに転送された。
送り込まれたモンスター達と送り込んだダンジョンマスターとの間には、意識がある限り見た物や聞いた物を共有できる線が繋がっている。
ダンジョン化が敵わなかった魔法陣の内側で、モンスターとダンジョンマスターのつながりがキレる可能性も高かったからこそ、彼女達は魔法陣を踏む瞬間から注意深くその様子を観察していたのだ。
トールヴァルドへとナディアが思念波で救援を求めたという事も、彼女達の中では引っかかる点であった。
一体、どの時点で助けを求めたのか。
もしも、魔法陣から転送された地であれば、繋がりが切れない可能性もある。
その可能性に、モフリーナとボーディは賭けた。
そして、目にした光景。
問題のひよこの姿もとらえる事が出来たのも大きかったが、何よりも不思議な事を発見したのだ。
転送された地でほとんどのモンスター達は何故か同じ場所にいたのだった。
魔法陣を踏んだ時間も場所も変えたというのに。
しかし、ただ1体だけ、ボーディが送り込んだコボルトの中の1体だけがが、違う反応を見せていた。
一瞬だけの事であったが、何と誰も居ない場所で佇んでいたのだ。
その時にはすでに集められたモンスター達の姿はどこにもない。
時間差ではあったとはいえ、同じように魔法陣を踏んだというのに。
となると、寸前に魔法陣を踏んだ者達とは違う場所に送り込まれたのか?
普通であればそう考えるのだが、彼女達ダンジョンマスター達は違った。
何せモンスター達との繋がりが保持されているという事は、モンスター達の正確な位置や、その時々のあらゆる情報まで手に入るのだから。
そう、これこそが例の土地の秘密への足掛かりとなったのであった。
「モフリーナよ、位置の特定は?」
「もちろん、ばっちりです」
ボーディの問いかけに答えるモフリーナ。
その言葉に満足したのか、ゆっくりと大きく頷いたボーディは、
「魔法陣の解析も確認出来ておるな?」
「ええ。もちろんですとも」
どこかにある部屋の中で、2人のダンジョンマスターは、静かに笑い合っていた。
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