第900話  なんでやねん!

 第9番ダンジョンにダンジョンマスターを迎えに行こうとすると、嫁ーずもなぜかついて来た。

 別について来られても構わないのだが、3人を拾ってすぐに戻るんだから、一緒に来ても仕方ない気がするんだけどなあ


 俺と嫁ーずを乗せたホワイト・オルター号は、父さんの邸の前を飛び立つと、そこからでも望むことが出来る、空高く聳えるダンジョン塔へと向かった。

 飛行船の速度では、ほんの数分の空の旅。

 実はつい最近の事なのだが、ダンジョンの屋上には、飛行船の発着場が造られた。

 よくビルとか病院の屋上にあるヘリポートのような物ではあるのだが、形状や大きさはヘリポートと違って長方形でかなり大きい。

 これはヘリコプターとは比べ物にならない程にデカイ、この飛行船専用だからだ。

 滅多に使う事はないのだが、もしものためにとモフリーナが造ってくれた発着場が、今回は役立った。

 発着場にゆっくりと着陸させると、発着場の隅の床がゆっくりとせり上がってきた。

 そこに居たのは3人の女性。

 いつもの様にスーツをビシッと着こなしてはいるが、今にも巨大な胸がこぼれそうになっているネコミミ美人のモフリーナ。

 そのモフリーナよりも若干背が高く、真っ白ふわふわの層天然パーマの髪、最近は隠しきれてない巻き角を持った、ヒツジ系の推定美女のモフレンダ。

 前世の日本でいれば小学生高学年から中学生ぐらいのコウモリっぽい羽根を持った金髪美少女のボーディ。

 俺がキャビンからタラップを降ろし、軽く手を上げて挨拶をすると、同じく軽く会釈をした3人が近寄ってくる。

「んじゃ、早速乗って」

 俺が乗船を促すと、何の躊躇もなくタラップを踏みしめ昇って来た。


 キャビン内に嫁ーずが勢揃いしているには、ちょっとびっくりした様だが、そんなのは無視して、さっさと離陸させる。

 帰路は往路よりももっと早い。

 往路はこの高い塔の屋上目指して上昇してきたが、帰路は斜め下へと降りるだけなのだから、そりゃ当たり前なんだが。

 一気に父さんの邸の前まで加工すると、誰も着陸ポイントに居ない事を確認した後、そっと着陸する。

 駄弁る暇などない程に短い飛行時間。

 実際、今は世間話に興じている時間など無い。

 山向こうで何が起きているのかを、さっさと解明するのが先だ。

 妙に口を噤んだ嫁ーずとダンジョンマスターズを引き連れて屋敷の応接室へと、一直線に俺は向かった。

 父さんの応接室で、腰を落ち着けた俺達の前には、この大陸のでっかい地図と、蜂達から聞き取り調査をした物を書き起こしたクイーンのメモと、巨乳メイドさん達によって各人の前に配膳されたお茶。

 まずは黙ってお茶で口を湿らせる。

 しんと静まり返った応接室の中は、妙な緊張感が漂っている。

 嫁ーずの夫であり、ダンジョンマスターズを呼び出した俺が何も言い出さないのだから、誰も発言しないのだから、緊張が漂うのも、ある意味当然かもしれない。


 何時までもこの緊張感漂う雰囲気というのもストレスが溜まるので(その原因は俺だが…)、事情説明を兼ねてダンジョンマスターズに、これまでの概略を時系列順に話をした。

 もちろん、先の大戦の話から、先程の蜂達の話までの全部だ。

「ふ~む…なるほどのぉ…」

 クイーンが書いてくれたメモを睨みながら、ボーディが何やら考え込む。

「どうかしたのか?」

 メモを手にして考え込むボーディに尋ねてみたのだが、

「おい、そこな蜂っ子達よ、少し確認したい事があるのでの。ちょこっとここへ来やれ」

 窓辺の日当たりの良いカーペットの上で固まってお昼寝中のクイーンと蜂達に向かってボーディが声を掛ける。

 ちなみにブレンダーはホワイト・オルター号でお留守番。

 ああ、残念だなあ、ボーディよ。

 クイーンも蜂達も俺の言う事しか聞かないのだよ。

 まあ、ボーディが話を聞きたいというのだから、この俺様がちょっと呼んであげようでは、あ~~りませんか!

「さあ、クィー…ん…って、お前達なんでボーディの言葉に従ってんの!?」

 俺が呼ぶ前に、ボーディの言葉に従って、地図の上にさささっと整列する蜂達とクイーン。

「トール様…私達の指示で蜂達はナディアと調査に出かけたのですけど?」

 そういや、メリル達の指示にも従ってたな。

「ああ…あれは、まあ、メリル達は家族だからそれはいいとして…何でボーディにまで従ってんの?」

 俺の言葉の意味を正しく理解したクイーンは、ボディランゲージで答えてくれた。

 曰く、逆らったら怖い人達だから。

 確かに嫁ーずは間違いなく逆らったら怖いだろう。

 ダンジョンマスターズも…それに近いのか。

 いや、待て。それじゃ怖そうな人だったら、誰でも言う事を聞くのか?

 え、俺が仲良くしている人限定? あ、そうなのか…ならいいや。

 いいのか?

 ふと顔をあげると、俺とクイーンの一連のやり取りを見ていたこの部屋の女性陣…というか、俺以外の全員が、すぅっと目を細めて俺を見つめていた。 

 クイーンとの会話は、一切声には出していない! 断じて言葉にしてはいない。

 だが、全員に正しく俺とクイーンのやり取りは伝わってる様だ。

 じーーーーー…っと無言で見られるというのは、斯くも恐ろしい物なのか。

 うん、クイーンごめん…俺も逆らったりできないよ…唯々諾々と指示に従ったのもうなずける。


「んんっ! それで、ボーディは、クイーン達に何が聞きたいんだい?」

 爽やかににこやかに、ハンサムスマイルでボーディに声を掛けたのだが、

「嘘くさい笑顔じゃのぉ…」

 一刀両断されたのであった…なんでやねん! 

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