第895話  どっちなんだろ?

 邸の中、元はコルネちゃんの部屋に並べられた4台のベッドの上に、そっと嫁ーずに横たえられた妖精達。

 意識は取り戻しはしたが、まだ満足に体を動かせるほど回復している分けでは無い。 

 唇がわずかに「有難うございます」と言おうと動くのだが、それでもほとんど声になっていなかった。

 そんな妖精達に嫁ーずは、「今は何も言わなくていいから」と、優しいで見つめていた。

 やがて妖精達が静かに眠りにつくと、メイドさんを残し、そっと俺達は応接間へと移動した。


「それでトール様…一体原因は何なのですか?」

 応接室で一息ついた後、メリルが妖精達の疲弊の原因を俺に尋ねた。

「いや…まだ正直なところ、何も聞きだせて無いんだ。あの状態だからね」

 これは事実。

「それはそうでしょうね…でも、何か心当たりとかはあるんじゃありませんか?」

 俺に心当たりを尋ねるマチルダに、現在の状況を説明する。

「いや、それは全く…。俺とナディア達が離れていても意思疎通が出来る事は知っているだろう?」

 まず、この場に居る者であれば誰もが知っている事から話す事にした。

 もちろん、これには全員が頷く。

「当然の事なんだが、常に意思疎通している分けじゃ無い。ある程度強く相手に何かを伝えようと思って無ければ、意思を伝える事は出来ない。だから捜索でも居場所の特定も出来なかったわけだ。それで、現在なんだが…まだ、話しも満足に出来ない状態では、この心の中での会話もままならない…ぶっちゃけ、今は出来ない状態だな」

 念話が出来てれば、この状態でも色々と聞けるんだが、これが意外とエネルギーを使う様で、彼女達と脳波を繋げる事は出来ない。

 折角注ぎ込んだエネルギーを、念話で消耗させるわけにはいかない。

 そんな事でエネルギー消耗するのであれば、その分を回復にあてて欲しいというのが本音だ。

「そうなんですね。だとすると、彼女達の回復待ちという事になりますねえ」

 ミルシェが少し残念そうに言うが、もしも原因とか分かったら、どうするつもりなんだ? まさか、お礼参りに行くのか!?

 いや、俺も敵がいるなら吶喊するけどな! ナディア達が受けた苦しみは何倍にもして返すつもりだけどな!

 ミルシェが言うように基本的に回復待ちなのだが、そんなの俺には似合わない。

 そこまで消極的な俺では無いのだ!

「いや、回復を待つまでも無い。俺の持てる手を全て使って原因を探ってやるつもりだ…」

 その方法は既に考えてある。


「が、先に確認しておかなければならない事がある。ちょっと待ってろ…」

 そう嫁ーずに告げると、俺は応接室を出て大樹の元に。

 そこでクイーンと蜂をピックアップして、再度応接室へと戻った。

「さて、そんじゃ蜂達も落ち着いた頃だろうから、ちょっと話を聞かせて欲しい。クイーン、頼めるか?」

「確認したい事って、みんなの話を聞く事…ですか?」

 妙に滑らかな会話のミレーラ。もしかして、ぬいぐるみとかペット相手だと、話しが弾む…の?

 ってか、蜂達をみんなって…いや、別にいいんだけど。

「ああ、そうだ。ナディア達と共に調査に向かった蜂達の話も聞いておきたいからな。何があったのか、一番それを知ってそうなのが、今の所この蜂達だからね」

 クイーンに目くばせをすると、こくりと頷き、蜂達に事情聴取? を始めた様だ。

 キチキチ…ギチギチ…ぶーんぶーん…カツカツ…キチキチ…

 うん、昆虫の会話って目の前で見ても良く分からんな。

 昔やってた様に、空中で文字とか作ってくれれば直接分かるんだろうけど、聞きたいのは単語では表せないだろう。

 色々な会話を通じて詳細をクイーンには聞きだして欲しい。

 ん? 静かになったな…どうしたんだ、クイーン?

 えっと、そのジェスチャーは…もしかして、

「紙とインクを所望って事か?」

 俺の問いかけに、コクコク頷くクイーン。

「よし、ちょっと待ってろ」

 俺はすぐさま立ち上がり、この邸にある父さんの執務室(現、巨乳メイドさんの仕事場)へと駆け込み、インクと真っ新な紙を抱えて応接室へと戻って来た。

「クイーン、これで良いか?」

 そう言ってテーブルの上に紙を広げ、その片隅にインク壺を置いてやると、クイーンは前足をインク壺に突っ込んだ。

 そして、その足を使い、紙に何やら書き始めた。

 その内容を早く見たい、確認したいという思いからか、俺だけでなく嫁ーずも含めて、この場の全員が紙を覗き込んだ。


 それは、いまいち要領を得ない内容。

 蜂達がナディア達と行動を共にし、共に見て体験して来た事のはずなのだが、いまいち俺には理解できなかった。

 俺と嫁ーずも、その内容を読んではみたものの、どうにも意味が理解できない。

 いや、クイーンの書いた文章は理解できる。

 だが、何がどうなってそうなってたのかが、全く理解できなかったのだ。 

「えっと…これじゃさっぱりさーちゃんだな…」

『さーちゃん?』

 思わず呟いてしまった…昭和死語…。

 あれ? これって死語だっけ? 

「ん? 聞き違いだろ。さっぱりだーって言ったんだけど?」

 何故か恥ずかしくなって誤魔化す俺でした。

 いや、これって今でも使われてるよな? 死語じゃないよな?

 え、どっちなんだろ? 

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