第855話 意味はある!
「本日集まってもらったのは、他でも無い。先日より、私が危惧していた問題の対策をここに発表するためだ」
薄暗い俺の執務室には、蝋燭の炎の揺れる光に浮かび上がる顔が…1、2、3、…えっと、いっぱい並んでいるのである。
「えっと…トール様…何でこんなに暗いのでしょうか?」
「うむ、カーテンを閉めているからだ」
出鼻を挫くんじゃない、メリルよ。
「あのぉ…私からも…何で蝋燭なんですか?」
「光の魔道具では明るすぎて雰囲気が出ないからだ」
ミルシェも余計な事は突っ込まなくてよろしい。
「と、トール様…何で…このメンバー…なんですか?」
「うむ、良い所に気付いたな、ミレーラよ。だが、それは今から発表するので、もう少し待つように」
俺がそう窘めると、小さい声で「…はい」と、ミレーラは返事をした。
「マスター…何故に私達まで呼ばれたのでしょうか?」
「妖精一同を読んだのは、一応念のためだ。君達はそこで座って聞いていればいい」
ナディアは、「はぁ…」と、意味が分からないといった顔で口を閉じた。
アーデ、アーム、アーフェンは、呼ばれた理由に心当たりでもあるのか、むふふふふ…と笑っているが、きっと見当違いの事を考えているに違いない。
イネスとマチルダは何も発言しないが…実はこの先の展開を知ってたりするのかな?
「お兄様、取りあえず話を進めてください」
「おにいちゃん、カーテンあけてもいい?」
おっと、マイ・シスターズのご機嫌が悪くなって来たな。
「そうだな、コルネちゃん。この後すぐに話そう。あと、ユリアちゃん…もちょっと開けるの待ってね」
俺の言葉に、「分りました」と、不満げなコルネちゃんが応え、「はーい!」と元気よくユリアちゃんが応えた。
さて、この薄暗い部屋に勢揃いした者達の顔を1人ずつ見るが、誰もこれ以上口を開く事も無かった。
うむ、これで俺の話を遮る者は居ないな?
では、話を続けようじゃないか。
「先日より、私が危惧していた問題とは、諸君が屈強なる並み居る冒険者達を差し置き、ダンジョンの中層で好き勝手に暴れている問題だ」
俺の言葉で、俺と妖精達以外のこの場にいる全員が少しだけ俯く。
「モフリーナが支配する第9番ダンジョン出現から現在に至るまで、ダンジョンに挑戦し続けて来た冒険者達の到達改装は、未だ15階層なのだ」
更に俯く一同。
「私の元には、冒険者ギルドからの定期的な報告書も上がって来ているのだが、ダンジョンから産出される魔石の数が増えると共に、冒険者たちの死傷者や行方不明者の数も増えている」
あ、俯いたままで微妙に顔をあっち向いてホイしたな?
「しかるに! 諸君は、変身してダンジョンで大暴れしただけでなく、先日は禁断のバトルスーツまで持ち出したそうではないか! それも街中をバトルスーツで走って移動などという、衆人環視にその姿をばっちり見られました!」
誰だ、下手な口笛吹いてる奴は?
「ウルスラグナ2機を持ち出した事はまだ良い。ただ、その存在すら知らないこの街の住民や観光客達に、あれを見られたのは不味い…だが、そこも私が何とか抑える事が出来無い分けでは無い。だが…」
そこで俺は、小さく息を吸った。
「あんなもん持ち出して相手するようなやばい奴がこの地に襲撃して来たとか街中で噂になってるのは止めれる訳ねーだろーが! 諸君が神具を装備するだけで一般人だけでなく騎士達や冒険者でも到底太刀打出来ないというのにあんなもん持ち出して衆人環視にその姿を晒すとは何考えとんじゃ!」
『ごめんなさい…』
俺の怒り爆発の言葉に、叱られた一同は声を揃えて謝った。
うん、ユリアちゃんはきょとんとしてるけど、君も同罪だからね?
「そこでだ…諸君の先日の失態に関しては、何とかかんとか冒険者ギルドと温泉街の有力者達を通じ、て無理やり誤魔化す事にした」
何ですか、皆さんのそのホッとした顔は?
「勿論、諸君がウルスラグナを持ち出すに至った心情も理解は出来る。ストレスも適度に発散すべきではあるし、冒険者がまず来ないダンジョン中層でモンスターを相手にするのも、まあ戦闘訓練とも言えなくはないので良しとしましょう」
うん、さっきまで俯いてた人は、明らかにホッとしてるよね?
「なので、そんな諸君が安心して暴れる事が出来る場所を用意いたしました。では、本日の特別ゲストに登場して貰いましょう。モフリーナさん、どうぞ」
俺が背後…まあ、外の光を遮っているカーテンに向かって振り向くと、カーテンの影からビシっとリクルートスーツっぽい服できめた、服を弾き飛ばさんばかりるほどの巨乳をお持ちのネコ耳お姉さんが現れた。
皆さんご存知の、第9番ダンジョンのマスターである、モフリーナだ。
「私…今までカーテンの影に隠れてる意味ってあったのでしょうか…」
巨乳ネコ耳お姉さんが何か言ってるな。
「敢て言わせてもらおう。意味はある! 雰囲気が出ないっていう、とっても大事な意味が!」
俺の心からの叫びを聞いたこの場の全員から、冷たい目を向けられたのは納得いかないぞ?
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