第848話  放送事故

 俺は、昨晩はぐっすりと寝たはずなのに、何故かフルマラソンを走り切った市民ランナーの様に、寝起きにものすごい倦怠感を覚えた俺だった。

 まあ、誰にも何も聞かずとも、ベッドで死屍累々なすっぽんぽんの嫁ーずを見たら、いくら鈍い奴でも答えを推し量る事など造作も無いだろう。

 もちろん、少し俺より遅れて起きた嫁ーすは、何も言わずにシャワーを浴びて、さっさと身支度を整えていた。

 当然ではあるが、朝食の席では、母さんやコルネちゃん、ユリアちゃんと、昨晩は何事も無かったかのように普通にお喋りをし、そして各自俺が割り振った仕事を熟しに散った。

 まあ、俺の方は、そんな嫁ーずのあられもない姿を朝から目にしたわけだが、それでも俺は、頑張って毎朝のルーティンを熟し、にこやかに朝食を頂いた後は、執務室で書類と格闘を始めたのであった。。 

 

 そんな俺の元にやって来たサラは、ティーセットを手にしていたので、てっきり俺にお茶でも淹れてくれるのかと思ったら、備え付けのソファーテーブルにお茶を淹れたティーカップを置くと、どこから取り出したのかは知らぬが、薄い本を手に茶をずずずっと啜ったと思ったら、ソファーに横になって本を読み始めた。

「なあ、サラ…」

「何ですか、大河さん」  

「お前、何しに来たの?」

 俺が一生懸命仕事をしているというのに、この駄目メイドは…。

「もちろん、さぼりと昨晩の出来事をお知らせするためです」

「さぼるな…よ…って、昨晩?」

 まさか、俺が記憶を失っていたあの時の出来事か?

「考えてる通りですけど?」

 こいつ、俺の思考が読めるんだったな…。

「いえ、口に出てますけど、考えてる事」

「またか!」

 まぁ、今はそれは置いといて…っと。

「昨晩、一体何で俺は目を覚まさなかったんだ? ってか、何があって嫁ーずはベッドの上で寝てたんだ? まあ、おおよそ想像は出来るんだが…」

 うん、想像は出来るんだよ、想像は。

 でも、あくまでも仮定で合って、確定じゃないからな。

 だから、出来る事なら何があったかが知りたいのだ。

「あ、そうですか、やっぱ聞きたいんですね」

「是非とも教えて下さい、サラ様」

 こいつに頭を下げるのは癪だが、ここは頭の1つでも下げようじゃないか。

「にゅふふふふふふふふふ…では、特別に映像と音声を大河さんの頭の中に直接送り込みましょう」

「んなっ!? ちょ、まて待て待て待て待てま…て………んぎゃーーーーーーーーーー!!!」


 サラの言葉が終わるかどうかというタイミングで、昨晩の映像と音声が頭の中に流れ込んで来た。

 それも、途轍もない頭痛を伴って。

 しかし、それによって幾つか真実が明らかになったのだ。

 そもそも、俺に隠れて妖精が付いていたのにも驚くのだが、完全に俺を裏切っていたという事実。

 次に、あんな恐ろしい薬を魔族さんが開発に成功し、しかもそれを嫁ーずが手に入れていたという事実。

 それも、どうも複数本持っているらしいという、恐ろしい事実。

 しかし、何故か流れ込んで来る映像の大半が、『しばらくお待ち下さい』と文字が浮かび、背景が海中のサンゴだったり、木の枝にとまった小鳥の画像だったり。

 それに音声も結構な頻度で、『ぴーーーー』っと流れ込んで来るのだが、放送事故か?

 あ、サラがポンコツだから、こんな中途半端なものが送られてくるのか…なら仕方ないな。

「誰がポンコツか! R18に引っかかる内容は、全部良心の塊であるサラちゃんがカットしただけなんですー!」

「良心? お目にそんな物ないだろう?」

「あ・り・ま・すーーー! よく見なさい、この全身が良心の塊のような、超絶美少女サラちゃんを!」

 こいつも、どっかのダンジョンマスターと同じで、無い胸はるのか…。

「あるって言ってんだろーが!」

「はいはい」

 うがー! だの、がおー! だのうるさいサラは放っておいて、俺の頭の中に流し込まれた昨晩の記録は、画像と音声を加工された物だったのか。

「でも、肝心な所はちゃんと聞こえたし見えたでしょ?」

 うむ、ポイントは押さえた。

 だが、嫁ーずにあまり強く言えない俺がいる…。

「ま、その証拠をどう使おうが大河さんの勝手ですけれど、直接奥様連合に問いただしたら、証拠の出所を追及されますよ」

 そりゃそうだわな。もちろん言う気は無いぞ。

「とは言っても、大河さんですから、こうして昨晩の真実が分かった所で、どうせ何も出来ないでしょうがね」

 うぐっ…痛い所を突きよる…。

「ってなわけで、色々と疑問もすっきりしたでしょうから、サラちゃんはちょっと横になりますねぇ~。邪魔しない様に」

 そういうと、ソファーに横になり薄い小説のような物を読みながら、鼻クソをホジホジし始めた。

「……仕事はしないのか?」

「だから、さぼり中だって言ってるじゃないですか」

 今度は、屁こきやがったぞ、こいつ!

 もう我慢ならん! ここはサラの天敵を召喚しよう。


「リリアさーーーん! ここでサラがさぼってますよーーー!」

「お、大河さん、あんた何て者を呼び出し…」

 サラが何かを話しかけている途中で、バーーーン! と、執務室の扉が開け放たれ、無表情なリリアさんが召喚された。

「サ~~ラ~~? 覚悟は出来てるのでしょうねえ?」

「り、リリア! これには、ふ…深いわけが…」

「問答無用!」

 正しくこの時、放送事故レベルの大騒動が俺の執務室で起きましたが、もちろん映像をお届けする分けには生きませんので、サラがリリアさんにどの様な折檻をされたかは、皆様のご想像にお任せいたします。

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