第847話  犯人達

 トールが深い眠りに落ちた頃、この事件の犯人達は蠢き始めた。


 実は、トールが食したディナーには、魔族特製の睡眠導入剤が仕込まれてたのだ。

 彼の味覚に異常があった分けでは無く、本当にトールの食べたディナーの味がおかしかっただけなのであった。

 そんな事にトールが気付かなかったのも、実はあの難解な会談で酷使した脳が考える事を放棄してしまったのと、帰宅後すぐに嫁ーずに取り囲まれ、苛烈を極める取り調べを受けた事と、多少なりとも後ろめたい気持ちがあったため、必死に嫁ーずのご機嫌取りをしていた事が重なってしまった事が、不幸の始まりだったのかもしれない。

 

 犯人達の思惑通り、トールはベッドに横になると、すぐに深い眠りについた。

 ガッチリと施錠されたトールの寝室ではあるが、それはあくまでも侵入しようとする者が外側から見た時の事であって、内側からすればそんな鍵などあって無い様な物である。

 犯人達の協力者は、トールが寝入ったのを確認すると、すぐさまトールが隠している鍵の束を使い、扉の鍵を解錠した。

 そして、犯人達は寝室へと雪崩れ込んだ。

 いや、その表現は適切では無い。

 犯人達は開けた扉の隙間から室内へ、身体を滑り込ませるように音も立てず侵入したのだ。

 ほんのわずかな衣擦れの音と、微かな呼吸音だけが、この寝室に広がる。

 トールがしっかりと寝入っているのを確認した犯人達の家の1人が、そっと手に持った怪しい瓶を、その薄絹の懐から取り出す。

 そして巨大なベッドを必要以上にきしませない様に慎重に上り、そっとトールの側に寄った。

 他の侵入者も、同じようにそっとトールを取り囲む様に近づく。

 侵入して来た犯人達の内、最も身長の低い者が、そっとトールの額を押して下顎を軽く上に向けると、少し背の高い犯人がその鼻を摘んだ。

 すると深い眠りに落ちていたトールも、流石に寝ていても空気を求めるように口を開けた。

 その小さな隙間に、最初にベッドに上がった犯人が、すかさず手に持っていた瓶の蓋を外して、中身を口の中に注ぎ込む。 

 口中に突然流し込まれた液体に、無意識乍らもトールは吐き出そうとしたが、少しばかり背の高い犯人が、寝ていたトールに馬乗りになり、口を強引に閉じた。

 それと同時に、先ほどまで摘まれていた鼻は開放され、大きく呼吸をするトール。

 そして、多少嘔吐きながらも、トールは無意識のまま、口中の液体を呼吸の合間に飲み干してしまった。

 こうして、トールは侵入者達によって、毒薬を飲まされたのであった…。


「まあ、これは毒薬ではありませんけどね」

「でもメリル、こんな薬…どこで手に入れたの?」

「あ、それは私が手に入れました」

「マチルダ…お前、どこから?」

「…あのぉ…私が、街の魔族のお医者様が、そういうのも作ってるって聞いたので…」

 トールに一服盛った犯人達は、トールのベッドの上で、何やら楽し気に話し始めた。

「ミレーラさんが情報を手に入れ、マチルダさんが金に物を言わせてこの薬を手に入れたんですわ」

「それよりも、どうやってトール様付の妖精を懐柔したんだ、ミルシェ?」

「ああ…それは、『嫌よ嫌よも好きのうち』とユズカの言葉で説得しただけです。寝入ったら扉を開ける様にと」

「…犯人は、実は最初から…室内にいた…」

「ミレーラ、上手い事言うなあ。その通りだが」

「あ、皆さん。そろそろお薬が効いてきたようですわよ」


 つまりは、トールヴァルドの寝室に侵入して来た犯人達とは、単に彼の嫁ーず5人であった。

 そして、トールが飲まされたのは、ディナーの睡眠導入剤だけでは無かった。

 先ほどメリルがトールの口の中に流し込んだ液体とは…性欲を亢進させ、ナニを強制的にナニ状態にさせる、一種の催淫剤や媚薬の類であり強制剤でもあり、喰われ系男子にとっては超危険な薬であったのだ。


「浮気でなければ、絶対に元気なはずですわね」

 メリルが、トールの掛けている布団を剥ぎ取る。

「ええ、濃度と量で確認しましょう」

 ミルシェが、妖艶に舌なめずりをした。

「…本当に起きませんねぇ…」

 ミレーラが、トールの股間をつんつん突っつく。

「この状態だと、結構可愛いですね」

 マチルダが、そっとトールの寝間着をはだける。

「では、この私が最初に毒見を…」

 イネスが、いきなり自ら寝間着を脱いだ。

「イネスさん! それは私の役目です!」

 メリルが、対抗するかのように裸になる。

「いえ、第一婦人にそんな事をさせる訳には行きません!」

 ミルシェも、続いて裸になった。

「では…最年少の私が…」

 ミレーラは、そっと両手でトールのナニを掴む。

「いえいえ、ここは冷静に分析できるこの私が…」

 マチルダが、そっとミレーラの掴んだトールのナニへと顔を近づける。


 トールの意識が戻らないまま、身体の一部だけは妙に(強制的に?)元気にさせられ、5人の気が済むまで蹂躙された。

 まあ、実際の所、トールに意識があろうとなかろうと、ヤル事には変わりないのだろうが…。

 今回は、嫁ーずがトールの浮気が本当に無かったかどうかをチェックするための行為であり、その濃度と量を測る為の物なので、そこには触れないでおこう。

 何の濃度と量なのかって?

 それは各自の想像にお任せいたします。


 こうして翌朝にトールが目を覚まし、もう、お婿に行けない…としくしく泣く事になったのだった。

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