第770話  何だ、コレ?

「なあ、トール…何でこうなった?」

 うつむいたままの父さんが、ぼそりと呟く。

「俺に分かると思う?」

 俺もうつむいたまま答えた。

「だよなあ…何が会議の原因なんだろうなあ…?」

「そんな事、俺に分かると思う、父さん?」

 分かるはずないだろ? 

 ってか、分かってたら、会議なんて開催されてないよ。

「だよなあ…」

「…だろう?」

「「はぁ~~~~~~~~…」」

 父さんと俺は、深く長い溜息をつくのだった。

 ふと顔を上げて辺りを見回すと、食堂の中には、執事さんだけ…えっと、確か名前はセルバス・ジェンさんが立っていた。

 何故か略してセバスさんだったね。

「えっと…セバスさんは、何か知ってる?」

 折り目正しく、頭のてっぺんから足元まで隙の全くない、完璧執事さんなら何か知ってるかも?

「アルテアン伯爵様。私、執事でございますので、たとえ存じ上げておりましても、口に出す事は出来ません」

 って事は、

「原因を知ってるの?」

 って事だよね? 知ってるからこその言葉だったよね?

「申し訳ございませんが、これは王家にも関係する事ですので、陛下の許可無くしてお伝えする分けにはまいりません」

 んぇ!?

「王家…陛下の許可? そんな大事なの!?」

 驚いた父さんが顔を上げ、俺も立ち上がって詰め寄ろうかと思った瞬間、

「それに関しましては、現状では、侯爵様にも伯爵様にも一切お伝えできません。ただ一言…」

「「一言?」」

 やだなぁ…父さんとハモッちゃったよ…。

「アルテアン伯爵様に原因があるとだけ…」

「お、俺!?」「トールが!?」

 俺と父さんがそう言うと、セバスさんはまた背筋を伸ばし無表情で直立不動の姿勢に戻った。

 もう、俺と父さんとは目を合わそうともしない所を見ると、これ以上は聞いてくれるな、もう何も言わないぞっという意思の表れの様にも見えて、それ以上の追及は躊躇われた。

 そんなセバスを見た父さんと俺は、また顔を見合わせた後、「はぁ~~~~…」と長いため息をつくのだった。

 だが、一言だけ言わせてほしい。

 セバスさんの怜悧な視線がじ~っと見つめ続けていたが…それ、止めて欲しい。

 何かやばい気持ちになっちゃうから…俺って、Mなのかなあ…。


 でも、何だろうなあ…一体。

 何が母さんのアルテアン家の女会議開始スウィッチをONにする切っ掛けになったんだろうなあ…。

 蒸気自動車開発の話をしていたのは覚えてるんだけど、そうれがどうしてこうなった?

 俺と父さんは、食堂の長いテーブルの端っこで、2人して黙って小さくなって頭を抱えていた。

 おかしいなあ…数々の呪法具は、結構母さんにも好評で、良い感触だった気がしたんだけどなあ。

 いや、いい感触ってのはちょっと違うか。

 でもご機嫌取りにはなったと思ったんだけどなあ。


 今度の嫁会議が終わった時に、一体嫁ーずや母さんが何を言うのか、どんな顔をしているのか、父さんと戦々恐々としていたが、今回は実にあっけなく第96回アルテアン家の女会議は終了した。

 応接室の中が賑やかになって来たなあ…と思ったら、扉がカチャっと音を立てて開き、ぞろぞろと全員が応接室を出て食堂へとやって来たので、会議が終わった事はわかった。

 しかも、何故か今回は全員がニコニコしてたり、ちょっと赤い顔でモジモジしてたり、晴れやかに笑ってたり。


 何だ、コレ?



※こっそり新作投稿しています。

 姫様はおかたいのがお好き

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558018401730

 不定期更新ですが、( `・∀・´)ノヨロシクオネガイシマス!

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