第768話  どこで買った

 そんなこんなで、朝も早よから俺と父さんは練兵場に直行。

 取り合えずは大小さまざまな呪法具の試作品を馬車に詰め込んで、練兵場から一路王都の父さんの屋敷へ全速力で戻る…って、わけには行かなくて、何故か物々しい騎士さん達が馬車を取り囲んで護衛して、周囲を警戒しながらゆっくりと帰宅だ。

 でも、そこまで警戒必要? 

 え、秘密が漏れたら困るから、絶対に必要?

 あ、さいですか。

 とは言っても、馬車でも数十分の距離の父さんの屋敷。

 屋敷の門番をしてくれてる衛兵さんも、いきなり無言馬車を取り囲んで近づく騎士さん達の列に、ちょいビビり気味でひきつった顔をしていた。

 もちろん、俺と父さんのが顔出ししたので、そのまま門はスルーしたんだが、ごめんねビビらしちゃって。


 さて、到着した俺たちは、正面玄関前のロータリーを通り過ぎ、そのままコの字になっている屋敷の裏側にある中庭…と言うか、ほとんど裏庭へと馬車事乗り入れる。

 一部芝生も踏みつけちゃったけど、庭師さんごめんなさい。

 中庭では、屋敷中の人が待ち構えていたようで、母さんとコルネちゃん、ユリアちゃん、そして俺の嫁ーずを中心にずらりと並んでいた。

 それを目にした騎士さん達、俺と父さんをほっといて、素早い動きで母さんの元へと駆け出して、25人ずつ綺麗に横に二列になって整列し、中の1人が1歩進み出て敬礼すると、

「奥方様、伯爵さまの試作品の運搬・護衛任務完了致しました!」

 …それって、俺と父さんに対して言う言葉じゃないのかなあ?

「はい、ご苦労様。道中何か問題は起きませんでしたか?」

 母さんも、報告がさも当然とばかりに言葉を返す。

「はっ! 何も問題はございません!」

 うん、だから、それは俺と父さんに報告しようよ…。

「そう、ではそこに試作品を並べて頂戴」

 母さんは、どっから取り出したのか、閉じた扇で中庭の一角を指した。

 その贅沢も扇面にロココ調の絵が描かれて、ふんだんにレースとリボンが施された洋扇なんて、母さんいつ買ったの? ってか、この世界に洋扇なんてあったんだ…初めて見たかも。

 あ、よく見たら嫁ーずもコルネちゃんも…ユリアちゃんまで全員持ってる!

 家でも見た事ないのに…後で、一体どこで買ったか聞いてみよう。


 それはそれとして、騎士さん達はてきぱきと庭に積み荷を覆っていた布を敷くと、そこに呪術式加熱調理器具と卓上式呪術式計算機試作品群とを丁寧に並べ降ろしていく。

 騒がず表情も変えずそれを見守る母さん&嫁ーず+使用人一同。

 やがて全てを馬車から降ろし終わった騎士さん達は、またずらりと母さんの前に整列し、

「奥方様、積み荷を全て恙なく降ろし終わりました!」

 だから、何で母さんに報告するかなあ?

「ご苦労様でした。では、みなさん、下がってもらって結構よ」

 母さん、何かこういうシチュエーションに慣れすぎじゃない?

「はっ! では御前を辞させていただきます!」

 そう言って、騎士さんは敬礼をした後、並んでいた騎士さん達に、

「撤収!」

 と声を掛け、あっという間に中庭から退場していった。

 一糸乱れぬ行進で…何だろう、このもの凄い敗北感は…。


 目の前に並べられた数々の呪法具に目を輝かしている母さん&使用人一同。

「では、使い方を説明させて頂きます」 

 メリルが嫁ーずを代表して、母さんたちにそう言うと、母さんたちを引き連れて試作品に群がった。

 …俺が説明しなくてもいいのかな?

 まあ、分からないことが有ったら聞いてくるだろう。

 試作品の使用試験や耐久試験を嫁ーずにも協力してもらっているから、まあ確かに使い方は知ってるだろうけど。

 なんか、わいわい楽しそうに試作品をいじくまわしている皆をぼうっと眺めながら、俺はそんな事を考えていたのだった。


 ところで、試作品をいじくりまわしている母さん。

 明日には俺の領地に行くんだから、使い方を覚えても仕方ないんじゃね?

 え、それはそれ? そですか…まあ、いいけど…。



※こっそり新作投稿しています。

 姫様はおかたいのがお好き

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558018401730

 不定期更新ですが、( `・∀・´)ノヨロシクオネガイシマス!

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