第691話  最高級ホテル?

 そこは、ダンジョン大陸にある塔の中とは思えない様相だった。

 外界と室内は巨大なガラスによって隔てられており、雄大な大自然を一望できた。

 この大陸では間もなく夕刻となるため、遥かな地平に陽が沈む様子すらも見る事が出来る。

 塔の反対側では、日の出も見る事が出来るだろう。

 また、振り返ると、反対側も壁一面がガラスの壁があり、塔の中とは思えない程に美しく整えられた中庭が視界に入ります。

 中庭には、日本庭園風の美しい大きな池泉庭を中心に、数多くの植物がその影を水面に落とす。

 池の中には、一見すると武骨な角張った岩や、角の取れた女体を感じさせるような岩などが、計算し尽くしたかのような配置で並び、中庭というそんなに広くも無い空間に、まるで大自然を凝縮したかの様な、見る者の感性を刺激してくれる様な、そんな美しい姿を現していて、これぞ正しく庭園と呼ぶに相応しい物だと言える。

 このガラスに囲まれた空間が、まるで穴の開いたドーナッツの一部を切り取ったかのような造りとなっている事で、訪れた人には確かにここが塔の中であると実感できだろう。

 このガラス張りの空間は、ロビーというか居間というか、そういった共用のスペースとなっている様だ。

 この空間は、絶景の外の風景と調和のとれた美しい中庭の景観の邪魔にならぬ様、極々シンプルなインテリアで設えてある。

 色使いもモダンな白と黒でまとめられ、この部屋を設計した者の美的センスが非常に高い事を物語っている。

 次に、この部屋の左右には、円形に造られている中庭に沿って廊下があり、幾つもの部屋が並んでいる。

 それら各部屋は、王都…王城の謁見の間よりも豪華な造りとなってはいるのだが、それが嫌味に感じる事は無い。

 確かに応接セットやベッド、調度品などは豪奢な物となってはいるが、全体的に白で統一された室内は、実にシンプルでいて清潔感溢れていて、宿泊する女性をすべて貴婦人に変えてしまうのではないかと言う程に気高い。


 そして食堂となっているスペースでは、これも王城もかくやと思われる…

「トール様?」

 何だよ、今このホテルの解説をだな…

「ちょっとトール様?」

 ガイドブックに載せれる様なレヴューを…

「聞いてますの、トール様!?」

「いえ、聞いてませんでした」

 めっちゃオコなメリルが、俺の服の裾を摘んで声を掛けて来た。

「聞いてなかったんですの!? 部屋割はどうするのですかとお尋ねしたんですのよ?」

 ああ、そっか…そうね、部屋割り…って、

「泊まる気なの!?」

「ええ、それは勿論ですわ」

 メリルの背後で話を聞いていた嫁ーずは、コクコクと頷く。

「いや…お仕事が…」

「帰ったら、皆で手分けしますから、大丈夫ですわ」

 あ、そですか…

「ドワーフメイド衆とユズユズは?」

「ドワーフさん達は、カジマギーさんと中庭見てますよ」

 俺の問いかけに答えたのはマチルダ。

「何でも、もう少し詫び寂びを取り入れた方が、趣があって良いのではないかと、ドワーフさん達がカジマギーさんにレクチャーしてました…水に動きが無いから滝を造った方が良いとか、すごく具体的でしたね」

 ドワーフさん、完全に日本庭園を意識してるな…どこからそんな知識を持ってきたんだろう。

「そう言えば、カレサンスイがどうとか言ってましたが…何でしょうね、カレサンスイ」

 枯山水!? そりゃマチルダだって知ってるわけ無いよ。

「な、なんだろうねぇ…カレサンスイって…あははは…」

 ってか、そんな物をこの中世ヨーロッパに近い文化圏に造っても良いのか? 

 あ、いや…ここはダンジョンの中だったな…しかも特別な客室…招待されない限り見えないんだから、大丈夫か…?

「それじゃユズユズは?」

「太陽が沈むのを…あっちの部屋で眺めてました…いちゃいちゃしながら」

 ミレーラが、ちょっと恥ずかしそうに教えてくれた。

「うんうん。新婚旅行だとか言ってたわよ。どんだけ新婚生活が続くんでしょうねえ、あの2人」

 ミルシェは笑いながらそう言っているが、あの2人は一生新婚とか言ってそう。

 ってか、結婚して1年以上経ってるのに、まだ新婚旅行かよ! 何回したら気が済むんだ?

 ブレンダーとクイーンは、どこいった?

 あ、ホワイト・オルター号で寝てるのか…相変わらずマイペースな奴だなあ…。


「それでは、そろそろおゆうはんにちまちょう!」

 俺達がわいわいとホテル風に仕立てられた塔の階層を見て周っていると、どこからともなくもふりんとカジマギーがやって来た。

 そっか、そろそろ晩飯の時間か。

「皆様、食堂にご案内いたします。今宵自慢のシェフが腕を揮いました、自慢のディナーをお楽しみくださいませ」

 カジマギーが幼女に似合わない口調で、この宿泊層に気圧された俺達を先導して食堂へと導いた。

 もふりんは、カジマギーの後ろをちょこちょこついて行くだけ。

 うん、なんかホッコリするよ。

 

 あれ? 自慢のシェフ? ダンジョンにシェフ!? 



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 断罪の刃  闇を照らす陽の如く

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