第689話  全員?

 母さん達を送り出した我が家は、実に平和だった。

 その夜の嫁ーずの猛攻撃があった事を除けば…だが…。

 もちろん、俺は断固として抵抗をしたさ。

 前日に体中の水分を搾り取られたばかりなんだから、せめて数日は休ませてくれと、必死に懇願したさ。

 まあ、そんな物は全く攻撃の手を緩める理由には、全くもって足りなかった。

 つまりは、もう分るだろう? 2日続けて搾り取られたのさ…もうげっそりだよ…。


 もちろん、王都に帰った母さんが父さんとどうなろうと、俺は一切関知しない。

 何故か出発した翌日に、ホワイト・オルター号が帰って来て、サラとリリアさんがぐったりしていたとしても、俺はその理由を詮索したりは、一切しない。

 聞けばきっと何やかんやと俺にとばっちりが来るのが目に見えているから。

 母さんが王都に出発する時に、父さん用の装備を一応預けはしたが、それがどうなったかも知らない。

 聞きたくない! 今、通信なんか入れようものなら、きっと大変な事になる!

 今頃、母さんは父さんを寝室に引きずり込んで…あと何日父さんは生きているだろう…成仏してくれよ…。


 どうにかこうにか、嫁ーずも落ち着いてきた今日この頃。

 やっと本当の意味での平和な日々が帰って来た。

 と思ってた時期が俺にもありました。


 平和な日々ってのは、何も夜だけじゃなく昼間も平和じゃないとなあ。

 いや、ある程度の予想は出来てたんだが、まさかの波乱含みの事件がやって来た。

 それは、あの母さんがダンジョン大陸に殴り込みをかけた日から数えて11日目。

 午前中のお仕事も終わり、嫁ーずも含めてのんびり昼食を食べ終わった時だった。

 突然、我が家に訪問者がやって来たのだ。

 訪問者は、何を隠そう、モフリーナとモフレンダとボーディの3人。

 取りあえず、玄関先で3人と対面した俺は、訪問理由を訊ねてみた。

「3人揃って、どうしたんだ?」

 いつもダンジョンに籠ってるダンジョンマスターズが、わざわざ俺の屋敷までやって来たんだ。理由が無いわけが無い。

「実はご報告したい事がございまして」

 質問に答えたのはモフリーナ。

「報告?」

「はい。ダンジョン大陸の3人の統治者が完成いたしましたので、トールヴァルド様に来ていただけないかと…」

 相変わらずモフレンダはモフリーナの影に隠れて、こっちをじぃ~~~っと見てるな…いや、待て…今、何て言った?

「完成したの? ってか、それより俺が行く必要ってある?」

「無論じゃ。お主に来て貰わねば始まらぬ。お主には、妾達の造った人形に名と命を吹き込んでもらわねばならぬのでの」

 ボーディが何か言ったぞ。

「名前は…まあ、分からんでもないが嫌だ。あと、俺は命なんて吹き込めないぞ?」

「あ、命って言うのは、生命活動に必要なエネルギーの事です」

 補足はモフリーナ。

「なる程…でも、それなら水晶持ってたら、エネルギー分けてあげるけど?」

 わざわざあんな遠くに行かなくても。

「それは駄目じゃ。直接出なければ意味が無いのじゃ。ほれ、嫁ご達も、そこなメイド達も全員準備するが良い」

 ん? 振り返ると、嫁ーずだけじゃなく、サラとリリアさん、ドワーフメイド衆、ナディアにユズユズに、ブレンダーとクイーン。

 我が家の全員集合だ。

「全員?」

 思わず背後の皆を指さしながら、ボーディに確認すると、

「何人でも構わぬぞ?」

 ボーディがそう答えた。

 それを聞いた我が家の…特にドワーフメイド衆は大喜び。

 そういや、あんま遠くに連れて行った事無かったよね、君達。

 全員が一斉に着替えでも取りに行ったんだろうか、瞬時に散開していた。

「はぁ…分かったよ。んじゃ、全員の準備が整ったら行こうか…ホワイト・オルター号でいいか?」

「あの飛行船かや? モフリーナ、大丈夫じゃよな?」

「ええ、問題ありません」

 ボーディの確認に、頷きながら答えたモフリーナ。

 モフレンダはその背中から顔だけ出して俺を見ている…そろそろ仲良くなれないかな?

 ま、玄関先ではご近所迷惑…って事も無いな…一応、貴族様のお屋敷なんで門からは結構な距離があるし、街からは離れてる上、近隣には誰も住んでない。

 湖に突き出た岬に建ってるんだから、当たり前か。

 それでも来賓客を玄関先で対応って、ちょっと外聞が悪いから、応接室にでも案内しますかね。


 でも、名付けは嫌だぞ?



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 断罪の刃  闇を照らす陽の如く

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