第688話  勘弁してくれ!

 翌朝、ヘロヘロになった俺とは対照的に艶々になった嫁ーずが、朝食の為に食堂にやって来ると、そこには既に母さんとサラ&リリアさんの姿が有った。

 どうやら、母さんは本日にでも、ナディアを置いて王都へと帰るらしい。

 そういや、昨日帰って来た時に連絡入れてたっけ。


『お義母様、おはようございます!』

 元気いっぱいの嫁ーずの挨拶に、母さんも、

「みんな、おはよう。その様子だと、しっかり搾り取ったみたいね」

 朝から下ネタを挨拶にぶっ込んできた。

『はいっ!』

 それに元気よく返事をする嫁ーずもどうかと思うが…。

「私はサラちゃん達に王都まで送ってもらいます。出発は…何時だったかしら?」

「大奥様、食後のお茶の時間が終わり次第です」

 それに答えたのは、リリアさんだった。

「そ? ありがと。そういう訳だから、トールちゃん、後はお願いね?」

 俺は一体、何をお願いされているんだろうか?

「えっと…何を?」

 ちゃんと言ってくれなきゃ分らん!

 言葉にしなくても分かってくれなんて考えは傲慢な考えだ。

 親しき仲であっも、きっちり言葉にしなきゃ、何が言いたいのか伝わらん。

「あら、お祝いよ」

『お祝い?』

 俺だけでなく、嫁ーずともハモってしまった。

「お義母様…一体、何のお祝いですの?」

 メリルが聞いてくれたけど、俺も疑問だ。

「それはね、あなた達に弟か妹が生まれるから、そのお祝いね」

 うふふふふ…と笑っている。

 そっか、俺に弟か妹が生まれるのか…って、ちょい待て!

「母さん、妊娠してんの!?」

『マジですか!?』

 俺だけでなく、嫁ーずも吃驚仰天、猫灰だらけ…はちょっと違うか。

 いや、そうじゃなくて、

「いつ生まれるんだよ? そんな身体でダンジョン行ってたのか?」

 もしも流産でもしたら大変な事になる! 

 何が大変かはわかんないけど、とにかく大変だ!

「お義母様、まさかその様なお身体であんなに激しい戦闘訓練を?」

 ミルシェが考えてることは、俺の考えと一緒。

 いや、誰だってそう思うよ!

「何言ってるの? 私は妊娠してないわよ?」

『えっ?』

 またもや全員の声がハモる。

「帰ってから、がっつり搾り取ります。だから、来年の今頃は赤ちゃんが生まれてるかもしれないわね」

『………………』

 言葉も出ないって、こういう事を言うんだろうな。

「それに、あなた達も同じよ?」

『???』

「早く初孫の顔を見せてね。あ、そうなったら孫と子供が一緒の歳になっちゃうわねえ…」

 何を言ってんだ、このおばはんは!

『そんな…お義母様ったら~~~』

 嫁ーずは、赤い顔してクネクネしてるけど、無視だ無視。

「えっと、母さん。そんじゃ、今から帰って子作りするの?」

「違うわよ?」

 何なんだよ! だったら、どういうつもりで言ったんだよ!

「帰ったら、あの人が毎日干からびるまで搾り取るつもりだから、結果的にそうなるかもって事よ」

 お、恐ろしい…父さん、死なないでくれ…

「そ、そうだったんですね! でしたら私達も頑張らないと!」

 マチルダ、何を頑張るつもりなんんだ? 

「トールちゃんは大丈夫みたいだけど、あの人は浮気してる可能性が高いですからね。よそ様の女と…してるぐらいに元気が有るのなら、しっかり私に種付けしてもらわないとね」

 母さん、ヤル気満々だな…もう、完全に獲物をロックオンした肉食獣の顔だ。

 しかも、どす黒いオーラがゆらゆらと立ち昇っている。

 俺は止めないぞ…いらん事を言って、とばっちり食いたくないからな。

「さ、それじゃお茶を頂いたら帰りましょう。サラ、リリア、良ろしくて?」

 母さんの暗黒面を目の当たりにした二人は、無言でコクコクと頷いた。

 嫁ーずは、母さんの言葉に、めっちゃヤル気になってる様だ。

 ってか、何で闘志をメラメラ燃やしてんだよ…もしかしてまた搾り取られるの?

 勘弁してくれ~~~~~~~~!!


 その後、母さんはサラとリリアさんの操縦するホワイト・オルター号で王都へと帰って行った。

 サラは、一緒の船で母さんといるのは怖いらしく、「最大船速で一気に飛びます!」と言っていた。

 ま、さささっと母さんを送り届けて、戻ってくればいいさ。

 俺も、これ以上母さんがこの屋敷に留まるのは、色々と精神的に厳しい物がある。

 だから、早急に送り届けるのは大歓迎!

 その結果、父さんが地獄を見るのは…仕方ない事なんじゃないだろうか。

 浮気してたっていう事だし…馬鹿だね、父さん…。



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 断罪の刃  闇を照らす陽の如く

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