第660話  そんな細かい所まで…

 精霊さんとの細かな打ち合わせを終えた俺は、目の前で行われる大規模な自然破壊を目の当たりにした。


 大河の岸というか…ちょっと切り立った崖の上というか、とにかく見晴らしのよい小高い場所を、俺は選んだわけだが…

 ずごごごごごごおおおおおおおお! ってな音が、静かな(滝の音は煩いが)山間に響き渡ると、あっという間に滝を望む一等地の森の樹々が伐採され、根が掘り起こされ、地面が平らに均される。

 ホテルの基礎となる場所は、硬く硬く途轍もなく硬く固められ、柱を据える穴がポコポコと口を開ける。

 伐採された木々があっというまに枝打ちされて樹皮を剥がされ、木材となるり、開いた穴に立てられて行く。

 柱に間には筋交いが入れられ、どこからか運ばれて来た粘土っぽい土で壁が造られ、天井が造られ、どんどん円形の階層が積み上がり、やがてホテルと呼ぶにふさわしいかどうか分からないが、それっぽい外観の塔となった。

 俺の目の前で、今はただのハリボテだけども、直径30mにもなろうかという10階建ての塔型のホテルが建造されてた。

 とは言っても、世紀の大泥棒すら登る事が出来ないほどに、つるっつるの外壁。

 なので、各階各部屋に明り取り用の穴があけられ、横を流れる河川の中から精霊さんが拾って来た大量の石英と、どっかから持ってきた良く知らない材料によって、その明かり取り用の穴の為にガラスが製造されて、お洒落な窓枠と組み合わされて、穴に嵌められていく。ってか、ガラスの材料ってそんな石だったんだ…知らなんだ。

 さっきまで土色の塔だった物に、どうやったか分からないが、白とグレーの着色がなされ、ついでに青というか濃紺の三角屋根が乗っかった。


 彩りとかは、俺の屋敷に近い気がするなあ。

 もしかして精霊さん、参考にした? え、良い所どりした? 

 外観の彩りは参考に、中は機能的に? 何その無駄な職人技は!?

 えっと…それじゃ下水と処理施設を…え、それも完成? どうやって!?

 あ、あの地下都市のタイサイとかいう生物を持って来たのか…持ってきた!? どうやって??

 ほうほう、俺の領地にある洞窟に住んでた? あ、そですか…それを処理施設に放り込んだと…なるほど。

 いや、もうお任せします…精霊さん達に全部。

 俺の貧困な発想と乏少な知識ごときでは、精霊さん達にかえって迷惑になるし…。

 いや、そんなに慰めてくれなくても良いっす…所詮、俺なんて地球の知識があっても、大して役に立ってないし…うっうっうう。

 河に面した一部を除き、観光地の周囲は大人3人分ほどの高さの土壁が、森の樹々の間を縫うように造られ、獣や魔物の侵入を防いでいる。

 防壁の1ヶ所は、馬車2~3台が並んで通れるぐらいに開いていて、そこからネス湖をう回する様に綺麗に街道が敷設された。


 現状では、ネス湖を時計に見立てて俺の屋敷を12時の頂点の位置と仮定した時、温泉スパなどの街は屋敷周辺に固まっていて、11時~2時ぐらいまでの位置に、街や住宅が立ち並ぶ。 

 2時から5時ぐらいまでは魔族さん達が中心になって生活する草原や牧草地があり、5時~11時までが保護地区だ。

 11時の位置にはちょっと小高い山があって、俺の屋敷からそちら方面へは物理的に通行が難しくなっている。

 ちなみに2時の位置のちょっと外側に高い山脈が聳え立ち、父さんの領地と繋がるトンネルが有る。

 頭の中で時計を思い浮かべつつ位置関係を把握するのは難しいので、そういうもんだと思ってくれればいい。

 んで、俺の屋敷の11時方面は、つまりは未開の土地だったわけだ。

 この土地を切り拓いた当初、獣とかが街に来ない様に、ネス湖を掘った時に出た残土で長い長い防壁を造っておいたので、今まで特に大きな問題もなかったのだが、10時あたりから真っすぐ外側に線を引いた所に滝があるもんだから、ここを無理にでも切り拓く必要がある。

 って事を精霊さんに説明したら、あっという間に造ってくれました…ホテルに続く街道を。

 ネス湖をう回する形で、保護地区の端っこをかすめてホテルへと伸びる、綺麗に整地され固められた街道。

 驚くべきことに、街道にも

 ホテルの敷地を囲っているのと防壁が伸ばされており、いつか見た熊とかの野生の凶暴な獣とかの侵入を防いでくれている。

 街道の終着点というか街側の始点というか…とにかく街道入り口には、立派な彫刻がされた石? 土? で出来た扉まで造ってくれたとか。

 うん、帰りに見せてもらおう。

 人魚さん達が大河からやって来やすいようにと、しっかりと手すりの付いた階段まで崖に設置されていた。

 しかも、とっても段差が小さく、しかし広く大きな段で、ぴょんぴょん跳ねる人魚さんでも、人の子供でも上り下りが楽そうな素晴らしい階段だ。

 え、あの階段下にあるのは何? 

 10人は乗れそうなボート? 船? っぽい物が。

 何でそんな物が? え、滝つぼ観光船を用意したって? 

 はあ、そんな細かい所まで、良く気が付きますねえ、精霊さん。

 ところで、あれって誰が操船するの?

 え、人魚さん達が引っ張る? なるほどね。


 精霊さんって、マジで何者なんだろ…

 俺より絶対に知識豊富だしなぁ…ガラスの造り方なんて、知らないぞ?

 しかも細かい点に良く気が付くし、もの凄く気が回るし。

 え~~~っと…俺って、精霊さんが居なけりゃ何にも出来ないんじゃね?



☆ブックマーク、レビュー、★、感想などいただけましたら、

小躍りして喜びます (o´ω`o)


☆新作始めました。こちらも、どうぞ <(_ _)> よろしくお願いします

 断罪の刃  闇を照らす陽の如く

 https://kakuyomu.jp/works/16816927861644288297

 ちょっとダークなお話し…かな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る