第626話 起きろー!
棺の様なダンジョンの入り口? を開くと、そこには一人の美少女が眠っていた。
流れる様な長い金髪は、まるで金糸の如く艶やかで光り輝いている。
その背に流した金髪の合間から見えるのは、まるで蝙蝠の様な羽。
いや、折りたたんだ羽の先には爪の様な物が見える…何の羽だろう?
とにかく…え~っと、生きてるよね?
「あ~もしも~し。生きてますか~?」
思い切って声を掛けてみたが、返ってきた答えが、
「ん…あと20年…」
「長げーよ! 長すぎるわ!」
思わずツッコミを入れてしまった。
どんだけ寝るつもりなんだよ。
まあ、良く整た顔で色白な美少女を西洋のビスクドールに例えたりもするけど、どっちかというと現代日本の美少女フィギュアって方が近いかな。
そもそも本物のビスクドールって、俺の目からしたら美少女じゃないし…っと、それはおいといて。
「お~い、起きろってば!」
「ん~…むにゃむにゃ…」
何だろうなあ…ここまで必死にこいつを助け出すために戦ってきたのに、この姿を見ると微妙に虚しくなる。
なので、ちょっと鼻をつまんでみました。
「ん…んが…ぐががががが!?」
こいつも呼吸してんだなあ。
鼻をつまんだら、苦しそうにして…あ、起きたかな?
目をカッ! と見開き、ガバッ! っと起き上がった美少女は、
「な、なんじゃ!? 大宇宙が崩壊したのか!」
「んな、壮大なスケールの出来事なんで起きてねーわ! お前が起きただけだ!」
あ、俺、上手いこと言った?
「ん、何じゃ? この世界の者は、何時からこんな銀ピカな姿になったのじゃ? 進化の神秘じゃなぁ…」
目覚めた美少女は、俺の姿を見ながらブツブツと呟いていたので、
「いや、コレは鎧だし。第9番ダンジョンのマスターから、あんたを救助する様に頼まれて来たんだよ」
そう伝えると、
「そうだったのか。では、おやすみ…」
「寝るなーーーー!!!」
また目を閉じて棺の中で丸くなろうとしたので、肩を掴んでゆっさゆっさ揺らしてみた。
「お、お主…ちょ、やめ…れ! 頭を揺らすと…ぎぼじわるぐなっで…」
お、なんか反応がおもろいな…もちょっと揺すってみるか。
「やめれと言っとろうが!」
俺の両手を掴んで、強制的にガクガクをストップした。
「妾が吐いたらどうするんじゃ!」
なんかオコになっていた。
「いや、お前がまた寝ようとしたからだろうが。さっさと起きろ! ここから脱出するぞ!」
「えっとな…お主、妾が何者か知っておるのかや?」
残念美少女が妾とか、ワロス! そうだ、お前は残念マスターで決定だ!
そもそも、こんな所に閉じ込められて眠りこけてたんだから、汚マスターでもいいぐらいだ。
「ああ。知ってるぞ、残念マスターだろ?」
「んぁ? 違うわ!」
ちっ、贅沢を言う。
「んじゃ、汚マスターな」
「お? 御? 尾?」
「いんや、ヨゴレの汚」
「おまっ、言うに事欠いて、妾を汚じゃと!?」
だって名前も知らねぇしな。
「ほらほら、さっさと起きろ~。さっさとモフリーナの所に戻るぞ~!」
「そのモフリーナとやらが、どこぞのダンジョンマスターなのかや?」
お、意外に頭の回転は良いようだな。
「そうだ。だから起きろっての! あ~もう面倒くさい! 精霊さ~ん、カモン!」
精霊さん、こいつの事をさっさと連れ出したいんで、運んでくれないかな? OK? んじゃ、よろしくねん。
俺の願いを聞き届けてくれた精霊さんは、早速この残念な汚マスターの周囲に風を纏わせ、ふわっと宙に浮かせた。
「なんじゃなんじゃなんじゃ??」
そんな時、ナディアから一報が入った。
『マスター、監視対象に異変が起こりました』
ん? どしたん?
『あの物体から…悍ましい生物が出てきました』
ほむ…悍ましい生物か。
確かにドーム越しに見ただけでも悍ましかったからな。
分った。ダンジョンマスターは確保したんで、さっさとそっちに戻るよ。
『お待ちしております』
こりゃ、ちょっと急いで戻らなきゃだめかな。
背後でギャーギャーと五月蠅い馬鹿は無視して、振り返ってさっさと元来た道を急いで引き返す。
俺が下水道の中を歩いて行く速度に合わせ、ふわふわと浮かされた馬鹿が付いて来る。
まあ、空中で暴れ回ってはいるが、精霊さんパワーには敵うまい。
不思議な事に、行きは長く歩いた気がする下水道も、帰りはすぐだった。
この下水道へと繋がる階段を昇り、通路を進むと、太陽の下へと戻って来た。
「よぉ、落ち着いたか?」
少し前から静かになっていたので、振り返ると、
「ぐぅ~…すぴぃ~…ぐぅ~…」
汚マスターは、風に包まれたまま丸くなって寝ていた。
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