第520話  怪しい会話

 文字通り性も根も吸い尽くされ、ミイラ化するのではないかと自分の身体が心配になった真夜中、ようやく眠ることが出来た。

 睡魔と戦い続けた長い長い夜が、ようやく終わろうとしていた。


 ちなみにこの堰合の人々は、総じて早寝早起きだ。

 光の属性を持つ魔石を使った魔道具や、獣油から造られた蝋燭など、夜の闇を照らす方法も無くは無いのだが、少々値段もお高めだ。

 なので多くの民は早めに明かりを消して就寝。

 当然ではあるが、そうすると朝までとっても長い時間が出来てしまう。

 これが子供であれば、さっさと寝るだろうし、寝る子は育つってなもんで大歓迎なのだが、カップルや夫婦はそうはいかない。

 俺の領地ではいくらか娯楽も提供はしているが、こっちもぼったくり価格なので、やっぱり手が届きにくく、必然的に家で過ごすことが多くなる。

 娯楽も無く長い夜を、健康な肉体を持つ夫婦やカップルは、当然ではあるが子作りに励んでしまうわけだ。


 まあ、子作りだけとは限らず、その行為そのものを楽しむカップルや、夜の明かりに集る虫の如く、ふらふら歓楽街を彷徨う独身男性とかも居るのだが。

 明かりを早く消したからこそ、子沢山になる可能性もあるってわけだ。

 これは地球でもあまり文化の発達しない国の低所得層でよく見られることなので、仕方がないと思う。

 子供たちの死亡率の高めなこの世界で、何とか子孫を残そうという本能の様ななのかもしれない。


 また明かりを早く消してしまう弊害として、子供たちの勉強が捗らないというのもある。

 何も徹夜して勉強に励めというつもりは毛頭ないんだが、それでも予習・復習や苦手な個所を学ぶ時間が大幅に削られているのは間違いなく、それがこの世界の学力低下を招いているんだろう。

 良く異世界物のラノベなんかでは、異世界人の学力をかなり低く描いたりしているが、何でそうなのかを書いている本をあまり見た記憶がない。

 深く考えないで、異世界人の文化は中世ヨーロッパだ、四則演算も読み書きも出来ないと勝手に作者が決めつけて、たかが日本の高校生レベルの知識でも賢者の如く書き、それを作者が自身と重ね合わせて悦に入っているだけな気がする…ゲスいな。 

 俺の居るこの世界では魔法を行使できる者が極めて少ない為、物理や自然科学と言った物もそれなりに発達している。

 魔法なんていう物理法則に反する便利な能力を持った者が溢れる世界では、確かに物理法則なんて物の発達はなかなか難しいのかもしれない。

 とはいえ、ニユートンやマクスウェルや、アインシュタインに朝永なんて天才頭脳を持った人が現れていないので、まだまだ中世の地球のレベルにも達していないのかもしれないが。

 しかし、異世界での識字率が低いとか、マジで考えてる奴がいたら、ちょっとひくわぁ…そんな世界で本当に異世界人が暮らせるのか?

 そもそも食料品や生活必需品の売買だってかなり難しいぞ。

 文字も読めないのに、商品の値段が何で分かるんだよ。

 商品の代金の受け渡しは、ちゃんと出来るのか? 釣銭間違ってないか?

 大体だな、異世界物のラノベでも、自分の名前も書けない様な奴とか子供が冒険者登録したりしてんじゃん。

 なのに、何で依頼書に仕事内容を書いて貼りだしてんだよ、冒険者ギルド!

 常に掲示板の前に、依頼書を読めない人の為のコンシェルジュが必要じゃね?

 ってか、ギルドの受付で読み書き出来ないのが来る可能性が示唆されてんのに、何で読者の誰もそこに疑問を抱かないのか、もう意味がわからん! 

 あと、受付嬢が必ず巨乳で美人で露出が多めな制服着てるって、おかしすぎるだろ! 酒場がギルドに併設されてるとか、絡まれるのがデフォとか、意味不明!

 アルテアン領にも冒険者ギルドあるけど、受付は、おばちゃんか男だぞ?

 ほとんどの人は読み書きできるし、計算だって一応は出来るぞ。

 だから仕事が出来るんだし、だから買い物だって生活だって出来るんだ。

 あんま、異世界人を舐めた様な話を書くんじゃねーよ、この低能が!

 自分の妄想と希望と欲望と、売れてる小説の設定パクリまくって受け狙いとか、チャンチャラおかしいわ!


 とか疲れた体でつらつらと考えていると、心地よい睡魔が押し寄せ、俺の意識を深淵に誘った。

 この個人の感想と勢いだけの文句の山の中の、一体どこに睡魔を誘う内容があったか甚だ疑問が残りはするのだが。


 でも、まあ…今からなら早起きなこの世界でも5時間ぐらいは眠れるかな…おやすみなさ~…い?

 あれ? 今、ものすごく大切な何かが頭の片隅に引っかかった気がする!

 えっと…そうだ、サラが昔言った事だ。

 確か俺の魂のエネルギーは宇宙の始まりの時から、ずっと寝てたとか…あれ?

 これって大事なのか?

 ん~睡魔が山盛り押し寄せて来てて、頭が上手く働かない…何がおかしいんだっけ…管理局は宇宙の始まりからあって…

 そう言えば、何で宇宙が始まったばっかりなのに、管理局がある…ん…だ?

 そう…言え…ば、魂の…エネルギーって…何だ…?

 おかしい…上手く思考…が…まとまら…な…い…睡魔…に…さから…え…な……い………………


 この時、屋敷の地下にあるサラとリリアの愛の巣では、2人が向かい合って座禅を組んで目を瞑っていた。

 一見すると瞑想している様に見えなくも無いのだが、実は頭の中で言葉を交わしていた。

『ふ~危ない危ない、危機一髪で催眠シグナルを送り込めましたよ…ふぃ~!』

『はぁ…サラが不用意に情報をばら撒くからです。もう少し言葉に気を付けなさい』

『へ~へ~。取りあえず、大河さんのさっきの思考は危険なので、デリートよろ』

『仕方ないですねぇ…まさか、道半ばでこの計画を破たんさせるわけには行きませんし…今回は協力しましょう』

『半ばって計画の進捗状況は?』

『色々と誤算はありましたが、順調です。48%は送り込めました』

『ふ~~ん。そんで、局長は?』

『計画は順調だけど、色々と自重しろ、馬鹿者! って怒ってましたよ。彼にはまだこの世界での役割があるんですから、決して気付かせない様に』

『そうは言っても時間の問題だと思うけどねえ。まあ、努力はしますよ、努力は』

『サラの努力しますは、全く当てに出来ません。足りない部分は、まあ…私が随時フォローしていきましょう』

『感謝感激雨霰でやんす、リリア様』

『微妙に腹が立つのは、何ででしょうか?』

『小さい事は気にしない気にしない。そんじゃ、次の仕込みに掛かりますかね』

『ああ、例の呪法具ですか。完成は?』

『あの2人でやっと70%ってとこですね。100%になる様に、ちょこっとヒントを落としておきますよ~!』

『もの凄く不安なんですけど…そのヒントっていうのが』

『サラちゃんに、どーーん! と、おまかせ!』

『はあ。まあ、良いでしょう。結果だけは、きちんと報告してください』

『あいあいさー!』

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