第517話 お任せあれ
ナディア、アーデ、アーム、アーフェンによって、グーダイド王国やアーテリオス神国を取巻く周辺諸国の地形や大凡の情報を仕入れる事が出来た。
父さんも軍部を預かる責任者の一人として、戦時の指揮を預かる指揮官として、この地下室での会議は十分に満足できる物だったらしい。
もちろんまだ直接的な武力衝突は起きてはいないが、戦争とは武力の実で決まるものでは無い。
情報こそが戦争で勝敗を分ける要だ。
敵国よりもいち早く、より多くの情報を手に入れる事こそ、勝利への鍵となる事は、地球で起きた戦争でも良く見る事が出来た。
しかし…この情報は、俺にとってはあまり楽しくない内容だ。
俺達は、従軍している多くの無辜の民の存在を知ってしまった。
当然だが、敵は俺達を無差別に攻撃してくるだろう。
しかし、俺達は何の罪もなく、敬愛する王族を人質に取られ脅されて従軍している多くの一般市民を、無差別に攻撃できるだろうか? いや、この事実を知ってしまった今では、それは難しい。
宣戦布告を受けた当初であれば、敵なんて薙ぎ払って殲滅すれば良いと思っていたのだが、この戦争の元凶が兵達出ない事が明らかなのに、その兵達を薙ぎ払った所で何も変わらない事を、俺も父さんも理解してしまった。
父さんは戦争を経験していない、痛みを知らない騎士や兵達に、この戦争で傷ついたり取れたり、果ては命を落とす者を間近で見る事で、死を間近で感じる事で、騎士や兵士に大きく成長してもらいたいと考えていたようだが、これでは無理だ。
思い切った指揮を揮うなど、根っこではとても心の優しい父さんには出来るはずも無い。
って事になったら、やっぱりユズユズには当面は頑張って、御守りの呪法具製作を急いでもらい、開戦と同時に俺が敵陣奥深くにいるであろう、ダークランド皇国の本陣を、出来るのであれば諸悪の根源であるダース皇帝を討つのがベストかもしれない。
「父さん、こうなったら先の約束は無しだ。この戦争はさっさと終わらせて、人質扱いの他国の王族を助け出す必要があるぞ」
もうのんびり後方待機なんてしてられるか。
「う~~む…確かに。何の罪も無い人々の命を奪う訳にはいかんしなあ…」
やはり、父さんならそう考えるだろう。
で、あるならば俺の作戦はこうだ。
「これまでの情報を元に、ちょっと作戦を思いついた。もちろん陛下や神国にも協力してもらう必要があるが…聞く?」
俺の言葉を聞いた父さんは、
「うん? 何か案があるのか? 良い案であれば、陛下には俺が命を賭けてでも進言して通すぞ?」
「いや、命を賭ける必要なんてないからな? 賭けたりすんなよ?」
この脳筋親父は、マジで自分の命をBetするからな。本当、止めて欲しい。
「そうか? うむ…では、普通に話そう。で、良い案とは?」
聞く気満々で宜しい。
「では説明しようか。まず地図のこの部分を見て欲しい。神国の先にある盆地なんだけど、敵さんはこの盆地を越えられないんだよね、この前の話では」
俺が指さしたのは、恐怖の大王と戦ったあの盆地。
「ああ。周囲は高い山脈が聳え立ち、そうそう山脈越えは出来ないはずだ。今は盆地の向こう側で、食料とかの補充をしているとか聞いたぞ」
よし、それならば…
「であれば、敵さんは最終的には盆地をう回すると思う。食料とか補充したぐらいで、大軍が山を越えて進軍なんてありえない」
季節も状況も違うかもしれないが、八甲田山の雪中行軍の遭難事件を思い出しちゃったぞ。
天は我々を見放した…とか有名なセリフもあったよなあ…って、それはどうでもいい。
「まあ、あの山脈越えはかなり困難だな」
父さんでもそう感じるだろうな。なにせホワイト・オルター号であの山脈越えを実際に体験したんだから。
「でしょ? 盆地をう回するルートを敵軍が取った場合の侵攻ルートは、こことここ」
地図で指示したのは、盆地の左右。
当然だが、う回するだけでも数百kmも遠回りする事になる。
「まあ、そこしかないな…盆地を超えなければ神国にたどり着けないんだからな」
「で、あれば…そこに大規模な防壁を造るよ。それで進軍速度は大幅に落ちるだろうし、敵を迎え撃つにもちょうどいいだろ?」
グーダイド王国は山と海によって、大陸のどん突きにある。
そこにたどり着くには神国越えが必須であり、盆地をう回して神国にたどり着くには、深い森と山の間を抜けるルートしか残されていない。盆地を左右どちらからう回しようとも…だ。
「防壁か…それは、あの時の防壁と同じなのか?」
きっと父さんの頭の中にあるのは、ダンジョンからのスタンピードの時に俺が造った防壁だろう。
「いいや。あれよりも高く大きく長く造るよ。魔物や獣だけでなく、人も通れない程の高く頑丈な長い壁をね」
「ほう? 出来るのか?」
少しだけ父さんの目が、俺の言葉を疑う様に細められたが、
「お任せあれ。造ってみせるよ、歴史に残る様な防壁を!」
一丁、やったりますかね。
地球では新・世界の七不思議にも数えられ、ユネスコの文化遺産にも指定された、中国が誇る巨大建造物。
万里の長城、異世界バージョンを。
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