第483話  指きりげんまん

 そんなこんなのドタバタ喜劇はいつもの事。

 落ち着いた所で、ユリアちゃんの今後について、ちょっと話をしようと思う…んだが、先にっと、

「ちょっとリリアさん…これを。あとは、ここで」

 そう言って、俺は差し出したカードをリリアさんが受け取ったのを確認した後、自分の頭を指さす。

 リリアさんも心得た物で、カードを無言で受け取ると、早速とばかりに頭の中に話しかけてきた。

『で、さっき言ってた例のパスワードの変更の件ですか?』

 YES! 俺だけが封印を解除できるってのは、何かあった時にちょっとまずい。

『まずい…ですか?』

 ああ。基本的には、ユリアちゃんは父さん達と暮らすんだよ。最近の父さん達は、王都の別邸に住んでいる。

 って事は、俺とは離れ離れになるって事だ。

『なるほど、それは確かにまずいですね…では、どなたまでを有効にしますか?』

 有効ってのは、パスを言って封印解除できる人って事だよな。

『勿論です。貴方は馬鹿なんですか?』

 うぐっ…いや、確認しただけだ。

 有効にするのは、父さん、母さん、コルネちゃん、俺と俺の嫁達、あとはナディアかな。

『了解しました。サラと私は範囲から外しますので、そのおつもりで』

 ああ、うん。それはこっちから言おうと思ってた事だ。それで、変更は…大丈夫?

『ええ、あのカードがあれば特に問題はありません。ユリアーナちゃんとカードはすでに紐づけされていますので、カードの仕様変更だけですから、一瞬で完了します…っと、終わりましたのでお返しします』

 傍目には、ただ俺とリリアさんが無言で見つめあって、カードをやり取りしている様にしか見えないかもしれない。

 でも、その実しっかりとこういう話をしてた…のだが…

「おにいちゃんの、あたらしいおよめさん?」

 ユリアちゃんが無自覚にも、特大の爆弾を放り込んでくれた!

 サラは、『な、なんだ…と!?』と、わなわな震えながら顔を青くしたり赤くしたり。

 モフリーナは、『まさか、そうなのですか!?』と、驚きに目を見開く。

 もふりんは、『はぇ?』と、おくちを開けたまま固まってる…涎たれるよ?

 そして、当のリリアさんは。

「ユリアーナさん。これからはリリアお義姉さまと呼んでくださいね」

 慈母の微笑みを湛えて、ユリアちゃんにこれまた特大の魚雷を打ち込んでいた。

「まてまてまてまてーーーーい! ユリアちゃん、ちょっと待とう! それは誤解だ! リリアは単なる部下だ!」

 俺の必死の弁解は、

「おにいちゃんの…ぶか? およめさんじゃないの?」

「いえ、義姉と呼んで…「絶対に違う!」…ちっ!」

 ユリアちゃんの素朴な疑問に対する、リリアさんの反則的刷り込みが成される前にインターセプトする事が出来、なんとか最悪な危機的状況は回避する事が出来た。

 危なかった…あのままだと、とんでもない知識と記憶があの可愛い頭の中に刷り込まれてしまう所だった。 

 ほぼ真っ白に近いあのユリアちゃんの記憶領域に、リリアさんは一体何を刷り込もうとしているのか!

 油断も隙もあったものじゃ…って、おいサラ! お前はユリアちゃんの耳元で何をささやいている?

「おにいちゃん! さらおねえちゃんがおしえてくれたよ! さらおねえちゃんはおめかけさんで、りりあおねえちゃんはあいじんさんで、もふりーなおねえちゃんはせいどれいって…おめかけさんとかあいじんさんとかせいどれいって、なんのこと?」

 わなわなわな…握りしめた拳が震え、噛みしめた奥歯が砕けそうだ…

「こ…の…馬鹿サラ―! どこいったーーー!」

 辺りを見回し元凶のサラを探すが、ヤツの姿形が無い?

「とーるさま、さらさんなら、あっちににげまちた!」

 良い子もふりんの告げ口により、薄暗くなっているダンジョン管理室の一角に逃げて行くサラを発見!

「えっと、ユリアちゃ~ん。お兄ちゃん、ちょ~~っと用事が出来たから、大人しく待っててね。あと、お兄ちゃんの言う事以外は、全~部嘘だから信じちゃ駄目だよ? お約束出来るかな?」

「ゆりあ、ちゃんとおやくそくできるよ!」

 にっこり笑う可愛い新妹。コルネちゃんの幼い時に、そっくりだ。

 しかも小指を出してきた。これは、お約束の指きりだな?

「じゃ~お約束だね。指きりげんまん、嘘ついたら針千本の~ます。指きった!」

 ちいさな小指、プニプニでかわゆす!

「まってるね、おにいちゃん!」

 幼女の笑顔…滾ってきたーーーーー!

「んじゃ、ちょっと行ってくるね~」

 俺は、遥か彼方でコソコソと隠れようとしてるサラ目掛けてダッシュした!

 ついでに久々登場だ!

「へ…ん…し…ん…だーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 

 約5分にわたり逃げ回ったサラであったが、メタルガードに変身したこのトール君の敵では無かった。

 さすがに剣は可哀想なので、今回は全力で殴る蹴る投げ飛ばすを10回ほどローテーションしてやった。

「では、捕縛はお任せください」 

 ボロ雑巾となり果てたサラの事は、嬉しそうにどこからともなく取り出した真新しい麻縄を手にして、変なポーズを決めているリリアさんに全面的に一任しよう。

 サラがリリアさんにどんな縛られ方をしようが知った事では無いが、可愛いユリアちゃんの教育にはきっと良くないはずなので、遠く見えない所でお願いします。

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