第444話  ホントダヨ?

「も、もう…お父様ったら…」

 真っ赤な顔でモジモジし始めたメリルは、ほっといて、

「それでユズキ、陛下からの通信は?」

 待ってるならば、早く出なければ。

「いえ、途中で国王陛下…の悲鳴の様な叫び声の様な声と、鈍器で何かを殴りつける様な音がしばらく続いたと思ったら、女性の声で、トールヴァルド伯爵によろしく言っておいてね~ほほほ…って言って、切られました」

 その話を聞いたメリルが、

「お母様ですわね。今頃は、お父様…折檻されてますわ、間違いなく」

 さっきまでと打って変わり青い顔をしたメリルが、思わずと言った感じでボソリと呟いた。

 ああ、国王陛下夫妻も、うちの両親と同じか…女性が強い世界だなあ、ここは。

 きっと我が家の嫁~ずも、下手に逆らったら…ブルル…考えるだけでも震えがくる。

 そんな事を考えていた俺に、ミルシェがビシッと指さして、

「トール様が、何か良からぬ事を考えてます!」

 久々に出た、ミルシェの謎察知能力…いやいや、

「やましい事なんて、何も考えて無いからな! ホントダヨ?」

 ミレーラとマチルダも、無言で俺を見つめ続ける。

 ここで決して目を逸らしたりしてはいけない。ポーカーフェイスだ、ポーカーフェイス!

「…嘘です」「嘘ですね」

 何でだよ! 俺のポーカーフェイスは完璧だったはずだ!

「トール様、その無表情な顔の時は、間違いなく嘘をついている時に意識的にする顔です。まあ、でも今回は切っ掛けがうちの両親なので、私は不問にします…」

 嫁~ず序列1位のメリルの暖かいお言葉で、俺はなんとか情状酌量の余地を認められ、釈放された。

 ポーカーフェイス…使い所を見直さねば…。

 ちなみにイネスは、机に突っ伏して寝てました。


 それはそれとして、

「ま、まあ…モフリーナからの緊急の通信じゃ無くて良かったよ。でも、早急に対処せねばならない案件はある。まず1点は、保護しようとしている眷属達、2点目は恐怖の大王を除く危険な眷属への対応。恐怖の大王は、未だ動きがはっきりしないので、この際放置するとして、この2点だけはさっさと解決せにゃならん」

 改めて、俺が今後の方針を話す。

「神の眷属がやって来ると言っていたが、実際には八百万の神々がこの世界に送り込んできただけの、何の力も持たないただの人も大勢居る事が判明している。さっきも言ったけど、保護対象者がそれにあたる。そして神々でも手に余る危険な奴等…これには恐怖の大王も含まれるけど、それの対処も重要だ。なので、モフリーナと相談した結果、並行して保護と殲滅を行う事にした。またダンジョン大陸にも、色々と手を加えて行く方針だ。危険が全くなくなれば、将来的にはネス様や太陽神様、月神様を信奉する人達を移住させるのも良いんじゃないかとも考えているが、それはまだ先の話だけどね。ここまでで質問ある?」

 ふぅ…嘘と真実を上手く使い分けるのって、本当に疲れるよ。

 んん? イネス、やっと目を覚ました? 手を挙げてるけど、質問あるのかな。


「はい、イネス君」

 まだ半分閉じかけてる瞼をピクピクさせながら、イネスが口を開いた。

「ふぁ…"やおよろずのかみがみ"って何ですかぁ~?」

 おお、それもちゃんと翻訳されるんだ。すげえな、管理局の何でもアリの技術は!

「ふむ。良い所に気が付いたな、イネス君。八百万の神々とは、800万の神様達と書く。実際に800万も神様が居るという訳では無く、数多の神様という意味だ。色んな物に神様が宿ると考えている宗教で、例えば食べ物であったり道具であったり、樹や水や、自然現象にまで神様が宿っているという、信仰においての言葉と考えてくれ。さっき俺が例えとして話の中で出したんだけど、数多の世界の神々が数多の眷属や人々をこの世界に送って来たという意味で引用したんだよ。本当は意味が違うけど、そうんな感じだと思ってくれ」

 俺の説明を聞いていた嫁~ずは、へ~っと感心し、ドワーフメイド衆は、うんうんと頷いていた。

 ドワーフさんって、もしかして神道系の宗教観を持ってる? そういや、村もやたらと和の色が濃いよな。

 ユズキは当然知ってるって顔だけど、ユズカは微妙な顔してるな。日本人でも最近の若い子は知らねえか。

 まあ、いい。

「他に質問は?」

 一同見回すも、誰も何の反応も無い。

「では、俺は本日も昼過ぎからモフリーナとダンジョン大陸で協議と対策を行なってくる。みんなには領の雑事を押し付ける様で申し訳ないが、お留守番だ」

 途端に沸き起こる、ブーイングの嵐。予想は出来てたけどね。

「はいはい、静粛に! 皆は、この俺の切り札だ。まだこんな所で使うわけにいかない、大事な切り札だ。それに、まだろくに状況も分からない場所に皆を連れて行って怪我など負わせたくない。俺には皆が本当に大切なんだ。だから、状況がはっきりするまでは、連れて行くわけにはいかない。先の恐怖の大王戦よりも危険な可能性が高いんだから」

 ちょっときつめにそう言うと、嫁~ずもユズユズも、一応納得した様で、渋々了解をしてくれた。

 うん、…なんで俺って、戦闘よりも家族の相手の方が疲れるんだろう…

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