第387話  名司会者?

 入場した俺達が向かった高砂席は、今回の新郎新婦のために用意された長机。6人だからな…そりゃ横長にもなろう。

 俺を中心として左にマチルダ、右にイネスが座り、マチルダの横にメリル、ミレーラ、イネスの横にミルシェが座った。

 この席順は、今までの式で俺の横に立つ事が出来無かった2人への配慮らしい。

 マチルダもイネスも、そういった事には頓着しない性格なんだが、せっかくの式だし記念にと、嫁~ず少女組に言われたので、大人組の2人はそれに従ったという経緯があるそうだ。

 こういう公的な場では、常にメリル、ミルシェ、ミレーラ達の3人に気を使って、一歩引いた場所が定位置だった2人だが、主役の席に座った2人は満面の笑みだったので、これはこれで良かったのかもしれない。

 誰しも自分が主役になる事を夢見るものだし、それが結婚式という人生の一大イベントなら尚更だもんな。

 

 席に着いた俺達を確認したユズカにスポットが当たると、またもや見事な名司会者スキルを発動。

「皆様、本日は6人の結婚ご披露宴にお越しくださいまして、誠にありがとうございます。皆様どうぞ、6人に更なる祝福をお送りください!」

 静かにユズカの司会を聞いていた列席者から、割れんばかりの拍手の波が生れる。

「暖かい祝福、有難うございます、有難うございます! 皆様の祝福の中、新郎新婦がメインテーブルにお揃いでございます。では、開宴にあたりまして、まずはじめに、お越しいただきました皆様に、新郎新婦からご挨拶がございます。新郎トールヴァルド伯爵様、よろしくお願いいたします」

 いや、マジで上手いな、ユズカ。ちょっと選挙カーのウグイス嬢っぽいけど…って、挨拶挨拶…

 俺が左右に視線を向けると、そっと全員が立ち上がった。

 目の前に用意されている拡声の呪法具を握りしめた俺は、

「皆様、本日はご多忙の中、私トールヴァルド・デ・アルテアンとメリル、ミルシェ、ミレーラ、マチルダ、イネスの結婚式及び披露宴に御列席くださり、誠にありがとうございます。先日の王城での式で法的には正式な夫婦とはなりましたが、聖なる女神様のひざ元であるチャペルでの式を経て、晴れて本当の夫婦となったと思います。皆様へはこの日を迎える事が出来た喜びと、感謝の気持ちでいっぱいです」

 王城での式では無く、ここのチャペルでの式で本当の夫婦になったとか言うと不敬かも知れないけど、ここは身内だけなのだから良いんだ…これが本心だし。

「本日は、我々6人の晴れのご報告とご挨拶をかねまして、私達がこれまでお世話になった皆様、日頃お世話になっている皆様をお招きし、ささやかな席ではございますがご用意させていただきました。お時間の許す限りどうぞ楽しい一時をお過ごしください。本日は御列席頂きまして誠にありがとうございます」

 呪法具を机に置くと、そっと左右に目くばせする。特に決めても居なかったのだが、感謝の意を表すために笑顔の嫁~ずと共にタイミングを合わせて頭をさげた。

「新郎新婦を代表しまして、新郎トールヴァルド伯爵様からのご挨拶でございました。皆様、盛大な拍手を!」

 ユズカの声に合わせて、またもやホールの窓ガラスが割れんばかりの拍手が巻き起こる。

「盛大な拍手、有難うございます、有難うございます! 皆さま、アルテアン領に清き1票を!」

 それは違うぞ、気付け! それは完全にウグイス嬢だ! 選挙じゃないんだから、清き1票ってなんだよ!?

 ユズカ、何をドヤ顔で親指立ててんだよ? む? 口パク…何々、異世界ジョーク? 意味わかんねーよ!

「さぁ、こうして皆様から温かな祝福をい頂いている新郎新婦でございますが、ここで、一つ…非常に、ひっじょーーーに大切なセレモニーをご披露していただきたいと思います! そう! ウェディングパーティーには欠かせない、ウェディングケーキへの入刀です!」

 さあ、ここからが披露宴の本番だ! 存分に楽しもう!

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