第374話  和食?

 その晩、俺は船室でガタガタと震えながら布団に包まっていた。

 夜中に突然あのドアを蹴破って嫁~ずが襲来し、俺を鞭や蝋燭で責めるのでは無いかと思うと、おちおちと眠ってられない。

 布団の隙間から、震えながら扉を睨み付けている内に、夜は更けていった。


 翌朝。

 結局、昨晩は全くこれっぽっちも襲撃の欠片も無く、平穏無事に終わった。

 ただ俺の目の下に、寝不足のクマが出来ただけだった。

 いかんいかん! これではまるで俺が嫁~ずにびびってる様にしか見えないではないか!

 俺は伯爵様だぞ! 5人の嫁の亭主だぞ! 嫁~ずが何かしようとしたら、毅然とした態度で対応すれば良いだけでは無いか! 「お前達、亭主を何だと思ってるんだ!』ってな具合にな。

 うん、そうだよ! 何をびびる事があるんだって~の! 俺は男だ! 嫁は女だ! …当たり前か…違ったら怖いよな…

 などとウダウダと考えていると、『コンコンコン…』と、扉がノックされた。

「ひゃ、ひゃい!」

 その瞬間、俺の心拍数は一気に跳ね上がった!

 裏返った俺の返事で理解してもらえるだろうか? 漫画だったら、飛び上がってたところだ。

「伯爵様~朝食の時間ですよ~」

 だが、そんな俺の心情など知ったこっちゃないとばかりに、気の抜けた声で俺を呼ぶのはユズカだった。

「早くしないと、全部食べちゃいますよ~?」

 お馬鹿な子が、お馬鹿な事を言ってる…。

「はぁ…すぐに行く」

 さっきまでの緊張感など吹き飛んでしまった。さっさと着替えて飯にしようっと…。


 さて、飛行船での食事は、王国でごく一般的な食事を提供している。

 それでも美味しい美味しいと、御来賓の皆さんは食べてくださってるのだが(本心と思う)、お昼過ぎには父さんの屋敷に、そこからほんの少しのフライトで俺の屋敷へと着く。 

 まずは温泉街で最も高級な宿屋…いや、もうホテルと言っても過言ではないが、そちらに皆さんをご案内する予定だ。

 そのホテルで提供される食事は、ドワーフ謹製の調味料と米、人魚さんが厳選した魚介類、魔族さんが丹精込めて育てた家畜たち、そして俺の前世日本人の知識をフルに使った、異世界和食完全版! 

 いや、俺の知識なんて精々究極と至高の料理対決の本とか、でっかいあごのおっさんが作る家庭料理の漫画で得た物しかないけど…とにかく、俺がホテルに無理を言って、一行のために準備させたのだ。

 もちろん酒はドワーフ村で最も出来の良かった米酒(日本酒モドキ)だ!

 驚くがいい! 我が領の料理の鉄人による料理の数々に!

 そして思い知るが良い、和食の奥深さを!


『大河さん…和食のって奥深さって言ってますけど…』

 おお、恐れ入ったかサラよ!

『いや~トンカツは和食なんですか?』

 え?

『だってパン粉使ってるじゃないですか。詳しくは知りませんが、日本で生まれた料理だったとしても、あれを和食と言うのは如何なものかと…』

 そう言われてみれば確かに…

『あと、ハンバーグは絶対に和食では有りません。あ、野菜炒めは世界各地にありますし、そもそもジンギスカンなんて名前はモンゴル風ですけど起源は中国だったとか何とか…』

 く、詳しいな…

『なので異世界料理とか言った方が良いのでは?』

 それも考えたのだが、その名前はかなり危険なのだよ。

『そこまで気にしますか!?』

 俺は色々と気遣い出来る男なのだ。

『そんな気遣いが出来る貴方に朗報です』

 今度はリリアさんか…どしたの?

『近いうちに管理局長がお話をしたいとの事です』

 気遣いと関係ないけど…まあいいや。おっけーって返事しといて。

『了解しました。局長との話は気遣いとは関係ありませんが…』

 関係ないんだ…

『今度、何かの知識をインストールする時は、是非ともサラだけでお願いします』

『ちょ!』

 それはリリアさんを気遣えって事か?

『当然です!』『大河さん! 私達付き合い長いですよね、ね!?』

 そうかそうか、もうゲロ塗れは嫌だと仰る。

『そりゃそうですよ』『大河さ~ん! お願いしやすよ、マジで!』

 却下だ! 2人で塗れてしまえ、ゲロに!

『この鬼畜がー!』『大河さ~~~~~~ん!』

 その辺は局長と相談してみるよ。多分、もう一人犠牲者が増えると思うけど…

『『??????』』

 まあ、それはその時のお楽しみって事で。

『『楽しくなんかないわーーー!!』』

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